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スノー・シャンテ  作者: ごま塩
2/17

prologue

歌――それはたくさんの思いと言葉を込めたもの。

音に詩をのせて歌を奏でるのは体一つでできる。

この世界には歌があふれている。生きる喜びを世界に伝える(すべ)として。

歌は人の数だけあり、人によって感じ方も持つ意味もちがう。

少年には歌うべき自分がなかった。あるのは水のように透明な石ひとつだけ。

輝石(きせき)。それはだれもが生まれ持つ心の形。

砕くことも汚すこともできない輝石は少年の首元で光っている。それだけで十分だった。

かわりに少年には特技があった。

その日も気ままに歩いていると、町ゆくひとが噂をしているのが横目に見える。

耳にだれかの噂が届き、脳裏をよぎったのは知らない顔。

惹かれるように立ち止まって耳を傾けると、なにかの言葉が心の中で(あふ)れる。

集まった人たちが囁いているのは亡くなったおばあさんの話。

頭の中で鮮明に見えたのは、家族に看とられ穏やかな面差しで目を閉じた、ベッドに横たわったきれいなおばあさんの姿。

少年の中で溢れだした歌は口をついて声を震わせ奏でられる。

心落ちつくまでにおだやかな調べが町中に響いた。


――私のために泣くものたちよ

私はとても幸せな世界を生きました

生きることはかなしくもあり、そしてなににも勝る幸せもありました

死ぬことはなにも悲しくはないのです

ありがとう、ありがとう愛してくれて

ありがとう、ありがとう今までともに生きてくれて

私が愛したあなたたちが幸せであるように

私は幸せな世界を生きたのです

なにも悲しいことはありません、幸せなのです

私という存在はいなくなりますが、あなたたちの中できっと生きて行くのでしょう

今日という日をこうして穏やかに迎えられて、なにひとつ私はかなしいとは思いません

ありがとう、ありがとう、ありがとう私の大切な家族たち

私が愛したものたちよ、どうか幸せで――


まったく知らない老女の想いを詩に紡ぎ、少年は歌を歌う。

それは最期の歌で、感謝と祈りをこめた歌なのだろうか。

おばあさんがなにを思ったのかは知らない。でもその歌に込められた心はわかる。

彼女はとても幸せだったのだ。

(まぶた)の裏で、ゆるやかに目をとじた面差しが泡沫(うたかた)のように消えていく。

歌い終えてようやく少年が我にかえると、なぜか静まりかえった人々が自分をじっと見つめていた。

いつものことだから彼はその場を後にして歩き出す。

少年はこの町でいつしか「調(しら)べ者」と呼ばれるようになっていた。

それは人の記憶を見てその心を歌うもののことだと、だれかが去っていく小柄な少年を指さして称える。

少年は町の人たちに愛されていた。

だれかの歌を時にかなしく、いとしく、うつくしく響かせ聴かせてくれるからだ。

今日も彼はだれかの記憶に込められた心を、ひとりでに歌い続けていた。

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