epilogue
――――年が明けてしばらく経った頃。
あの日以来、ノヴノールでは雪がいつものように降り積もっている。あの夜明けを目にしただれもが奇跡のような朝を忘れないだろう。
少年が消えてしまった朝。ヴァールハイトがアウィスで出した手紙が父の許へと届き、亡き妻の思いを知ったガイルが元気になって屋敷に帰ってきた。
長らく伏せっていたとはいえすっかりと笑顔になった父に、少女はその日にある決意を告げた。
何度行くなと引き留められても、決してその意志を曲げずに。
……そして、今。
「ヴァールハイト、本当に行くのか」
「えぇ、行きたいの」
父のガイルが背後からついて回って心配そうに問いかけてくるが、さっきから同じ応酬を繰りかえしている。
ヴァールハイトは旅立つ準備をしていた。
今日という日のために、久しぶりにアーウェルサに剣や魔術を師事して徹底的に鍛え直してもらい、一人でも生き延びられる強さをやっと手にした。
纏めた荷物を片手にヴァールハイトは軽快な足取りでリビングに向かい、最後に、壁に飾ってある母の形見の剣を手にとって抱きしめる。
それを心配そうに見つめている父に肩越しに振り返って少女は笑う。
「大丈夫! アーウェルサ様からも行っていいって許可をもらったから」
「だがな……」
言葉を濁して渋るガイルに、リビングの肘掛椅子に座って待っていたアーウェルサがひとしきり笑って間に入る。
「ガイル。エリセもお前の許までひとりで辿りついただろう」
「そうですが。……そういう行動的なところは、妻と似ていますよ、本当に」
深く溜息をついて。親子ですねとどこか諦めたように穏やかに笑うガイルだが、自分を心配してくれているのはわかっている。でも、どうしても譲りたくなかった。
何度も考え直せと言われたけれども、納得したように参ったと笑みを浮かべる父にヴァールハイトも満面の笑みで返す。
けれどひとつだけガイルが今でもわからないことがあるらしく、またヴァールハイトに聞いてくる。
「でも、なぜお前が探しにいくんだい。来るのを待っていたらいいだろう」
もう何回目の問いかけ。
今までずっとはぐらかしていたからヴァールハイトはとびきりの笑顔で父に告げる。
「いやよ。私から、絶対に会いにいきたいの。もう一度、見つけに」
そう言われてしまったらもう、なにも言えなくなってしまったガイル。だがその眼差しはどこか安堵したような色をしている。そんな少女の父親にアーウェルサは目を細めて微笑する。
そうして荷物を持ったヴァールハイトは玄関へと立つ。
「じゃあ、行ってきます」
「気をつけるんだぞ」
「無事なら手紙はなるべく書くように」
しっかりと言いつける父に、高い位置でまとめた赤い髪を冷たい雪風に遊ばせながら、ふわりと大人びた笑顔で笑って。
「うん! ――行ってきます!」
ガイルとアーウェルサに見守られる中で、雪が降りしきる外へと出たヴァールハイトは腕を虚空に伸ばす。
すると、ばさりとどこからともなく羽音を立てて赤い神鳥が舞い降りて、その手に頬を寄せて姿を現した。
父と青年から背を向け、白銀の雪が舞う中。
ヴァールハイトはそのしなやかな赤い背に飛び乗り、首を叩いて不死鳥を羽ばたかせる。一気に雲間を翔け抜けて、雪の彼方へと故郷を後にする。
上空の凍てつく風さえ突っ切って、フェニックスに乗ったヴァールハイトは目の前に広がった果てない蒼穹を往く。
目指すは、東。
自分に光をくれた雪を探しに。不死鳥として生まれた少女は旅立つ。
いつかきっと、再びネージュに出会えると信じて。
その胸に、少年があの日に歌った雪の歌を抱いて。
これにてこのお話はお終いです。
この後なんやかんやで再会した二人with仲間と伝説の三頭の獣に会ったり、月組太陽組の娘たちに会ったり、東の島目指して、どうにかこうにかして多分きっと最後は幸せになるんじゃないかなと。
雪の擬人化と不死鳥のおにゃの子のおねショタぶち込んでますが、笑ってやってください性癖に走りました。
ふわっと構想して以来、一部にあたる内容しか書けてないですがこうして勿体ない精神で見て頂ける機会を得られたので満足しております。
短い間でしたがお付き合いいただきありがとうございました!
ごま塩拝




