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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

聖剣シリーズ

聖剣になったようなんですが!!

作者: RIN

あけましておめでとうございます!

 (あら?あらら?)


 意識を取り戻した瞬間、違和感を感じました。


 (なんだろう?なにか浮遊感?)


「完成だ!俺の第一号!!」


 耳元でド太い男の声が響いて、思わずびっくり!寝起きにひどい!


 (完成?なにが?と言うか、おじさんうるさいよ!)


 おじさんを睨もうと視線を向けると…。


 (ひぃ!ちっか!近いよ!近すぎる!!)


 すぐ間近に髭面のおじさんの顔があって、さらにびっくりしました!


 (あら?)


 私の身体はどうやらおじさんに持たれて・・・・ぶんぶん振り回されているようです。浮遊感が半端ないけど、酔ったりはしません。


 (え?なにこれ?!なにこれ!)


「俺の第一号~!」


 おじさんの髭に包まれた唇が近付いてきます。


 (ぎゃああああああああああああああああ!!!!!!!!!)


 ぶちゅっと意外にも柔らかいものが熱烈に当たりました…。


 (ふえぇぇぇぇぇん!ばかぁぁ!もうお嫁にいけない~!



  うえぇぇん…





  …ん?なにかおかしくない??当たったのは分かったけど…



  今、どこに当たったの?)






 


 どうやら、私は現在、『剣』になっているようです。


 意味が分からないって?私にも意味が分かりません。確かに私は『日本人』の『人間』の『女性』だったと思うのですが…。なぜ、こんなことになっているのでしょう?これは、今流行りの『転生』というものなのでしょうか?それとも、『剣』に乗り移っているだけなのでしょうか?


 あぁ、本当に意味が分かりません。何故、こんなことになって、更には目覚めた瞬間、髭面のおじさんに熱烈なキスをされなくてはいけないのか…。


 いえ、分かるんですよ!割といい歳になって鍛冶を始めた、このおじさんの打った剣の第一号の私にテンションが上がってしまって、ついしてしまったんでしょう。気持ちはわかるんですよ?でも、乙女な私の心に深い傷を与えました。



 しかも、『刀』ではなく『剣』です。両手で持つタイプの『ロングソード』って製作者のおじさんが言ってました。なんだかゲームみたいですよね?しかも、どうやら日本ぽく無い…。おじさんがいろいろ独り言(?)で喋ってくれるんです。あ、それは正しくないですね。剣である私に喋りかけてくれちゃうんです。


「お前はしばらくは俺のところに置いておこう」


 (銃刀法違反だよ~、おじさん)


「俺が店を出したら、お前はいい冒険者に買ってもらう」


 (ぼうけんしゃって何?)


「どんなヤツがいいかな」


 (おじさん、おじさん。それなら私は線の細いイケメンがいいです!ジャ○ーズ的ならなおよし!かっこいい人を求む!)


「俺の自信作だからな!名が売れそうな奴に使ってほしいな。勇者とまでは言わないが」


 (ゆうしゃ…?ゆうしゃって?あれ?おじさん、まさかの中二なの?)


 なんということでしょう。製作者がまさかの病持ちだとは…しかも『剣』作っちゃうあたり末期ですね。お疲れ様です。でも、一応おじさんは私の親なので、そんな趣味でも大丈夫ですよ。(生)暖かい眼で見てます。…眼はないんですけど…。周りが見えているのは、一体眼じゃなかったら、どこで見てるんでしょうね?まぁ、とりあえず、おじさん。大丈夫。いい歳なのにこじらせちゃってるけど、私は味方ですよ。


 

 とか思っていた時期が私にもありました。次の日、おじさんの友人に紹介されました。まぁ、おじさんが初めて作った私を自慢するためだったので、一方的なんですが、そのおじさんのお友だち2人に、私は異世界というものの存在を信じました。


 考えてみれば、おじさんの家には、電気機器が何一つなかったんです。おじさんは中二という先入観だったので、すっかり流してましたよ。


 おじさんのお友だちはまさかのトカゲさんでした。青いトカゲの二足歩行です。服も着ています。しかも、喋るんです。ぎょろっとした瞳にビビりました。

 もう1人は、執事です。…間違えました。羊です。羊のお顔に黒の燕尾服。頭の毛がもふっとしていて気持ちよさそうです。


 (ネタ?ネタなの?!羊の執事さん?!執事の羊さん?!)


 ハロウィーン仮装説かクリスマス仮装説を全力でプッシュしたかったんですが、あまりのリアルさに断念せざるを得ませんでした。


 …やっぱり異世界なんですね。わかってましたとも…。現実逃避くらいさせてください。


 

 異世界転生か何かは知りませんが、なぜ『剣』?!有り得ない転生ですよ!自分じゃ動けないし、食も堪能できない!それなら、いっそ私の意識がなければ良かったのに…。





 それから、おじさんは私を大事に大事にしてくれました。お手入れも欠かさずしてくれるし、清潔に保ってくれます。でも、おじさん。大事なのは分かりますし、かわいがってくれるのはうれしいのですが、服(鞘)の上から頬ずりするのは止めてください。…何かが擦り切れる気がするので。主に精神的な面で…。


 しばらくして、おじさんは念願の自分のお店をオープンさせたみたいでした。しかも、しかも!おじさんは結婚していたのです!奥さんはぽっちゃり目のふんわりさん。二人でお祝いしています。おめでとう、おじさん。私も嬉しいです。あぁ、いい雰囲気です。おっと!私は眼を瞑っていますね。ごゆっくり…。


 おじさんは幸せみたいですね。私も、ついにお店に登場しました!お店がオープンしてから、一年がたっています。私は『剣生』そろそろ8年です。『剣生』はなかなか暇ではあるんですが、眠りにつくと次に眼が覚めると半年がたっていたりします。寝なくても平気なんですが、なにせ暇なんです。おっと、ニートだなんて言わないでください。本当に思考することと周りを見ることと寝ることしかできることがないんです。せっかくの異世界なのに、おじさんのお家しか見たことがなかったんです。

 そんな私が、遂にお店デビューです。婚活(?)…違うか。就活(?)…開始ですね!


「この剣、どうだい?にいちゃん!」


「ほぉ、なかなかだな」


 おじさんが私をお客の剣士のお兄さんに薦めてくれています。おにいさんはなかなか男前です!ちょっとむきむきに見えますが…。もうちょっと線の細い美少年か美青年か美中年でおじさんくらい私を大事にしてくれる人がいいですが、文句は言えません。私はただの剣ですし…。


「この剣はな!俺が一番最初に打った剣なんだ。かなりいい材料を使ってるからな!」


「へぇ~。持ってみても?」


「おぉ!ほらよ」


 おじさんがおにいさんに私を手渡します。




 べちゃ…




 (いやあああああああああああああああ!!手汗!手汗がああああああああ!!)


 思わず大絶叫です!…誰にも聞こえないんですけどね。気持ち悪い!気持ち悪いです!!この人、手汗が半端ないです!!


「ほう!いいな!手にしっくりくる」


 いえ!!こない!きてないです!!何もこないです!!


「おやじ、これはいくらだ?」


 (!!)


 やめて!やめてください!!いやです!このおにいさんに買われたら、毎日この手汗に握られるんですよね?!どう考えても、嫌です!拒否します!!


 (買うな買うな買うな買うな買うな買うな買うな買うな買うな買うな買うな買うな!!)


 ちょっと呪いめいた呟きを、聞こえないんですが、繰り返していました。


「…なんだか気分が悪くなってきた…」


 あれ?呪い…願いが効いたんでしょうか?おにいさんは青い顔をしてお店を出て行きました。まさかの私の呪いが効果を現したようです!よかった。手汗にいさん、もう来ないでね!


 

 それから、私は呪い(?)を使って、「顔が気持ち悪い」「ハゲは嫌だ」「持ち方がいやらしい」等々の高望みをしまくってしまい、すっかり嫁き遅れてしまったのでした。勧めてくれるおじさんは自信作のはずなのに、なかなか売れない私にしばらく自信を喪失していました。


 (ごめんね、おじさん)





 すっかり嫁き遅れて、もう嫁には行けないんじゃないか?このまま、おじさんと一生を共にしてもいいかもしれない…そんなことを考えていた『剣生』17年のある日のことです。お店に美少年がやってきました!おじさんは少年をじっと見つめます。


 (おじさん、おじさん!私、彼がいいです!!彼に貰われたいです!)


 金髪に綺麗な青い瞳!まだ幼いながらも王子さまみたいなかっこいいお顔!身体の線は細いけど、しっかり筋肉が付いているのが服の上からでも分かります。思わず、おじさんに熱烈に主張します。


「…行くのか?」


 (あれ?おじさんの知り合い?)


「うん。俺は冒険者になるよ。親父」


 (………………ん?)


「…そうか。達者でな、息子」


 (………えええええええええええええええええ!!!)


 いやいやいや!有り得ませんよ!まさかのおじさんの息子でした!あぁ、そう言えば、私がおじさんのお家を出てお店に置かれるようになったのは、この子どもが理由でしたっけ?子どもが触ると危ないからと言っていたんでしたね。

 しかし、遺伝子の不思議をここに見ました!熊みたいなずんぐりむっくりなおじさんと、ぽっちゃりを若干超えた奥さんの息子が、こんなに美少年だなんて…。もしかして、おじさんは昔は美青年だったので…いえ、ないです。それはないです!髭のないお顔も見たことはありますが、残念としか言えませんでした。


 とにかく、ここで会ったが百年目!あれ?意味がおかしいって?いいんです!そんなことは!とにかく!待ち焦がれた美少年!逃がしてなるモノか!です!


 (こっちを見ろ!連れて行って!!)


 的な念を真剣に飛ばします!嫁に行く最後のチャンスかもしれないんです!真剣です。本気です!一人身は嫌です!


 すると、何かを感じたのか、少年はこちらに視線をやります。はう!眼が合いました!!どきどきします!!…心臓ないんですけどね。


「親父。この剣は?」


 やった!やりました!なにか興味を持ってくれたようです!!


「あぁ、俺が初めて一人で打った剣だ。今まで、売れなくてな…」


 あ!おじさんが遠い眼をしています!ごめんね、おじさん!嫁き遅れちゃって…これが比喩でもなく本当の『売れ残り』ってやつですね。上手いこと言えました!


 少年が私に手を伸ばします。手汗もないようですね!よかった!理想です!!


「…少し重いな…」


 (…ぬぁ!!)


 ショック!!ショックです!!重い?!重いですって?!女の子に重いなんて…!なんてことを言うんですかぁ!!泣いちゃいますよ!


「はは、お前にはロングソードはまだ早いだろう?」


 うぅ…!重いですか…そうですか。ダイエットします…。剣のダイエット方法をご存知の方…お店までご一報ください…。

 呪い(?)と同じ方法で軽くならないでしょうか?


 (私は軽い!軽いったら軽い!!羽のように…は行かなくても、少年の手に馴染むように軽い!!軽い!!)


 とぶつぶつ自己暗示です。


「あ、あれ?」


 少年が焦ったような声を出します。


「どうした?」


「軽くなった!なんかこいつ!急に軽くなった!!」


「そんな馬鹿な!」


 おじさんが私に手を伸ばします。


「…本当だな。なんでだ?!」


 おじさんがしきりに首を傾げています。やった!成功です!おめでとうございます!体重を減らすことに成功しました!そこで、私は閃きました!重さを自由に変えられるのなら、おじさんは親だからいいとして、これから私を持つ少年以外の人間には重さを十倍くらいにしておきましょう!いい案です!特別な感じがするじゃないですか?剣に選ばれし者!『伝説の勇者の剣』みたいじゃないですか?!かっこいい!!


「…親父。その剣、俺にくれないか?」


 お!連れて行ってもらえそうです!!やりました!何でもできますね、私!もしやこれが噂の転生チートなんでしょうか?!…剣ですけど。転生ニートから転生チートへ!上手いこと言えました!座布団ください!


「お前に?だが長さも、お前には大きすぎるぞ?」


「いいんだ。親父が初めて打った剣を冒険者になったばかりの俺が使う。きっとそのためにこの剣は今まで売れなかったんだ」


 いえ、ただの高望みの結果なんですが。


「…そうだな。そうかもしれないな」


 あ、なんだかいい感じでまとまってます。感動のシーンですね。旅立ち。別れです。


 

 そうして、少年は覚悟を決めて旅立ちます。冒険者としての道を…。



 覚悟が足りなかったのは私の方でした。それは、店を出てすぐに向かった冒険者ギルドの講習会でのことです。登録は簡単にすみました。さて、二日かけての講習会の開始です。そこで、驚くべき内容が語られました。


「え~、ということで。みんなも知っての通り、ほとんどの冒険者が倒すべき敵である「魔族」という種族は、元は人間だ」


 (ええええええええええ!!)


 聞いてない!聞いてません!!常識?!この世界では常識なんですか?!


 曰く、『魔族』という種族は、世界の悪意の固まりである『魔王』に触れた動物や人間の総称であるということ。

 曰く、一度『魔族』に変質させられた者は二度と元には戻らないということ。

 曰く、救う方法は殺す以外には存在しないこと。

 曰く、『魔王』という悪意の固まりを倒せば、『魔族』になる者はいなくなるとのこと。


 いやいやいや!無理です!数時間前の意気揚々とした感動の旅立ちも何のそのです!無理無理!!動物もいやなのに、私が人間を殺すなんて、絶対嫌です!無理です!胃袋ないのに、吐いちゃいます!!


 うぅ!泣きそうです!!こんなことなら、大人しくおじさんと老後を過ごせばよかったです。帰りたい、帰りたいです!


 実際には私を持って『魔族』を倒すのは少年なんだけど、でも結果私が殺すんじゃないですか?!


 講習会が終わって、少年も元とはいえ人間が殺せるかを自問自答していましたが、私も深刻に拒否したいです。元人間の私が元人間を殺すなんて…!


 血を見るのも嫌な私が、本当に人を殺せるのでしょうか?


 でも、まだ時間はあります!それまでに覚悟が出来ればいいのですが…。






 とか思っていたら、初めて出た街の外での薬草採集依頼でいきなりの『魔族』に遭遇です!しかも、ばっちり元人間!初めては動物からというお約束はないんですか?!


 しかも、少年、攻撃を受け過ぎて死にそうです。道場に通ってそれなりに強かったですし、魔法もまぁ使えるのですが、なにぶん相手が悪すぎます。下位の『魔族』とはいえ、冒険者になり立てほやほやの少年が敵うような相手ではないのです。私を握ってむかっていくのですが、すべてが弾かれます。それでも、ふらふらになりながらも私を離しません。


 あぁ!また弾かれます。どうしよう、どうしよう。このままでは少年が死んでしまいます。なにか…呪い(?)以外のチートを今こそ発揮する時です!…できれば、殺人以外でお願いします。


 (何か何か何か!神さま仏さまちり紙さま!!)


 え?最後がおかしい?気のせいです!


 あ!少年が私を振りかぶります!待ってください!まだチート能力を発動できていません。



 ざしゅ!!



 (…………え?)


 「何か」を切り裂いた感触。


 眼のない視線を向けると、さっきまで目の前にいた『魔族』が倒れ込んでいるのが眼に入ります。



 (…………え?)



 わた…わたし…人を……






 コロシテシマッタノ? 







「……うっ…」



 『魔族』から聞こえた声に我に返ります。


 あぁ!生きています!生きています!!!よかった!よかっ…!


 泣きそうです!まだ覚悟が足りませんでした。…私に人殺しは無理です。やはり…外に出るのではなかった…。街に戻ったら、少年にお家に戻してもらえるように呪い(?)でお願いしましょう。


 しょんぼり落ち込んだ私をよそに、少年は起き上がりつつある『魔族』に向きあいます。そうですね…。まずはここから生きて帰ることが重要です。


 でも、私はもう…。



「…あ…れ?私は…いったい…?」



 ……あれ?何でしょう?起き上がった『魔族』の雰囲気ががらりと変わっています。きょとんとしている顔は人間のようです。


「……え?あれ?」


 不思議そうに首をしきりに傾げています。あれ?なんだか、まがまがしい空気が消えています。


 こちらに気が付いた『魔族』青年。



「あの…私、『魔族』になったはずでは?」







 それからは上へ下への大騒ぎでした。ギルドに報告すると、まず疑われ、元『魔族』青年がなぜか魔道具で録画していた動画を見てもらい、やっと信じてもらえたのです。


 なぜ録画していたのかは、『魔王』に報告するのに便利だったから、だそうです。『魔族』になったあとは、身体がいうことを聞かず、『魔王』の悪意を注ぎ込まれ、他者に攻撃していたのだとか。青年は冒険者をしている時、たまたま洞窟で悪意の塊『魔王』に遭遇してしまい、仲間を失い、その悲しみと憎しみを利用され『魔王』に操られていたのだそうです。下位ではなく中位の『魔族』という位置づけだったようです。おっとびっくり!何という遭遇運。子どもの初めてのお使いで10キロの米を頼まれるくらいに無茶なことです。


 それから、ギルドで真実かどうかを確認されました。ギルドで捕えていた元ウサギの『魔族』を私で斬りつけました。すると、『魔族』はウサギに戻りました。あんなに「シャー」と吠えまくり、今にも爪を立て襲い掛かってきそうだったウサギは今は草をはむはむと食べています。


 やった!やりました!なんと、私!チートの能力に目覚めました!


 殺さずには救えないはずの『魔族』を殺さずに『悪意』だけを切り捨てる!


 私、かっこいい!!『奇跡の剣』みたい!




 それから、少年は色々なところに行きました。国中をまわり、『魔族』を殺さずに救う少年。それに、最初に救った元『魔族』青年もいっしょです。青年は魔法使いでした。


 そんな奇跡の剣の私の噂はあっという間に国中に広がります。中には、私を連れ去ろうとするものまで現れる始末。


 (ふふふ!そんなこともあろうかと、私は少年とおじさん、あと仲間になった魔法使いにしか持てないのだよ)



「本当に不思議な剣ですね」


 お!魔法使いが感心しています。今は野宿場所でたき火を起こして、そこに向かい合わせで座っている所です。褒めて、褒めて!私は褒められると伸びる子なんです。あれから、すごいすごいと褒めてくれる少年に気をよくして、魔法攻撃をも無力化し、結界を張る剣になったのです。私のチートは留まることを知りません!


「この剣は俺とお前にしか持てないらしい」


 いえ、おじさんも持てます。


「私は仲間として認識されているということでしょうか?」


 もちろん、仲間ですとも!魔法使いは男前!いえ、美青年です!さらっさらのきれいな銀髪!高い鼻梁!あぁ!きれいです!ご飯3杯はいけます!ごちそうさまです!


「そうだな…。聞いたか?俺は『勇者』と呼ばれるようになったらしい」


 ほう!少年…いえ、勇者と呼ばれるようになったとは!となると、私は『勇者の剣』でしょうか?なんと!かっこいい!テンションが上がります!


「俺は別に『勇者』と呼ばれるほどすごい奴じゃない。この剣が特別なんだ」


「…いいえ。きっとあなただからこそです。『勇者』」


 少年…勇者が顔を上げます。そんな苦しそうな顔をしないで。


「あなたはこんなにもすごい剣に選ばれたのに、それを鼻に掛けるわけでもなく、救いに金銭を要求するわけでもない。そんなあなただからこそその剣は…『聖剣』はあなたを選んだのでしょう?」


 (!!?)


 苦しげに顔を歪める勇者をよそに、私は驚愕してました。


 せいけん?政権?聖…剣…?

 まさかの『聖剣』ですか――――――――――――??!


 (かっこいい!!!きゃー―――――!!)


 テンションマックスな私を勇者はぎゅっと抱きしめます。


「俺は…お前に相応しい男になれているか?」


 そんな勇者の震えるような声に私は我に返りました。勇者、私はあなただからいっしょにいれるんですよ?確かに最初は顔で選んでしまったので、後ろめたいですが…。

 それでも、何年もいっしょにいたのは、あなたの力になりたいと思ったからです。だからこそ、私はこんなにもチートになれたのだと思っています。苦しんで、悲しんで、どんなに虐げられても嘘をつかれて傷ついて、転んで、泥にまみれても、立ち上がり続けるあなたは、間違いなく『勇者』なんですよ?

 明るく笑い、みんなを励まし、どんなときでもみんなの『希望』であり続けようと努力するあなたは…私が選んだ『勇者』です。


 なにか返事をしたいのに、私は勇者にかける言葉を持たないのです。ならば…。


「…暖かい?」


 勇者が私をじっと見つめます。止めてくれよ!照れちゃうでしょ!


 魔法使いが私に手を伸ばします。


「本当ですね。暖かい…」


 分かってくれるでしょうか?私はあなたを選んだと…。


「…お前…こんな俺でもいいのか?俺を…認めてくれているのか?」


 (もちろん!)


 また勇者にぎゅっと抱きしめられます。


 勇者、勇者。私はあなたのためならどんなところだっていっしょに行きますよ。私はあなたに出会えたから、こんなにも楽しい『剣生』を送れてます。旅に出てから、苦しいこともたくさんありました。悲しんでいる勇者に声をかけられない、苦しんでいる勇者に手を差し伸べられない。剣であることに苦しんだ時もありました。それでも、楽しくて楽しくて…。私はあの日、勇者と会った日以来、眠ってないのですよ?だって、あなたといるとこんなにも幸せだから!


 だから、ずっと側にいてください。







「…ごめんな」


 (どうして?!どうして?!勇者!!)


 あの後、長い長い旅の果てに聖女と騎士を仲間にして、『魔王』を倒した勇者は、みんなに望まれて、この国の王女さまと婚約しました。次の王さまになるようです。私は嬉しかったです!そりゃ、剣とは結婚できないので、誰かと幸せになってくれて、時々私のことをお手入れしてくれれば、いいと思っていました。勇者の息子がまた私を握ってくれれば、それだけで幸せなんです。ですが…。


 私にじゃらじゃらと結び付けられる鎖。特殊魔法がかかっているため、いくら私でも抜けられません。


 平和になった世界で『聖剣』が必要ではないことは分かります!でも、どうして私を封印するのです?!


 (勇者、勇者!!)


 聞こえるはずのない叫び。どうして?!私はもういらないのですか?!あんなにも近くに居たのに!私はもう必要とされないのですか?!それでもいいです!それでも、あなたの近くに居られれば、それだけでいいです!側に居させてください!!こんな、地下の隠し部屋に、封印なんて…!!ひどいです!!


「またな…」


 すっと私を撫でる勇者の顔が、あの日、たき火の前で見た顔と同じでした。


 あぁ…そんな顔をしないで。


「…暖かい…」



 力がうまく使えないけれど、私は精一杯触れている勇者の指先に力を送ります。勇者が泣いてしまいました。優しいあなた。泣かないでほしいです。そこに、魔法使いが来て、勇者と話をしていますが、私は…限界で…す。しばらく、休息が…必要です。



 (おやすみ、勇者…。また、起きたら、冒険に行きましょう)







□□□




「封印は?」


「成功した」


「…本当によろしかったのですか?」


 魔法使いが悲しそうな顔で聞く。


「…」


 勇者は『聖剣』を見上げたまま、涙をぬぐう。


「俺はな…魔法使い。みんなは笑うかもしれないけど、あの日…。俺が冒険者になって旅立つ日、親父の鍛冶屋で、声を聞いたんだ」



『連れて行って!』



「頭に声が響いた気がして、振り返ったら、こいつがいた。俺が持ったら重さがないみたいに軽くなって…剣に選ばれたみたいで嬉しかった」


 ふっと懐かしむように勇者は笑う。


「俺は…本当は、気が付いていたんだ」


「なにをです?」


「こいつが『悪意』だけを斬ることが出来るようになったのは…きっと俺のためなんだ。



 優しすぎるこいつは…俺が元とはいえ人間を殺すことができないと…気が付いていたんだ。



 こいつは多分…誰も傷つけたくなかった。だから、奇跡を何度も起こしてくれたんだろう」


「勇者…」


「でも、ここからは、人間同士の戦いだ!」


 『悪意』の塊である『魔王』が消滅し、世界は平和になり、めでたしめでたし!とは行かないのが人間だ。敵がいなくなれば別の敵を作るのもまた、人間というモノだ。


「戦争にこいつを連れていくことだけは…どうしてもできない。優しいこいつを…血まみれにすることだけは、許さない」


 斬るべき『魔族』は相手にはいない。勇者の国に宣戦布告してきた国は、人間の国家。相手は人間。血みどろの戦場になる。


「だから…いいんだ」


 いつか、本当に平和な世になった時、また誰かがこいつを連れ出して、旅に出てくれたらいい。きっと、こいつは気に入れば助けてくれるだろう。自分以外が、と考えて、勇者は胸に苦いものを感じていた。


「…笑いませんよ、勇者」


 魔法使いは勇者にほほ笑む。そして鎖でつるされた剣を見上げる。


「『聖剣』は間違いなく意思を持って私たちを助けてくれたのです。笑ったりなんてできません」


 笑う魔法使いに勇者は頷く。



「行くぞ、魔法使い。こいつに平和を見せてやろう」


「はい、勇者」


 勇者は『聖剣』を振り返る。



「またな…、聖剣」



 そのまま出て行こうとしたときだった。



『おやすみ、勇者…。また、起きたら、冒険に行きましょう』



 頭に響いた声に驚いて振り返ると、そこには先ほどと変わらずに鎖で封印された『聖剣』がいた。


 やはり、こいつには意思がある。そう思い、勇者は優しい笑みを浮かべる。




「…おやすみ。いい夢を…」




 そうして、勇者は戦場に1人で立つのだった。




■■■




 (ん~…)


 眼が覚めました。おはようございます。

 

 あら?え~と…。


 あ!そうです!!勇者が何故か私を封印して、それで私は眠ってしまったんでした!あれから、どれくらい時が経ったのでしょう?


 (ゆうしゃ~!ゆうしゃ!!どこにいるのですか?)


 辺りは真っ暗です。


 (勇者!!)


 はっとしました!あれ?…勇者の気配が…





 この世界のどこにもありません。






 あぁ…そうですか…。勇者は…死んだのですね。


 わずかばかりの気配は…子孫なのでしょうか?私を封印した後に生まれたのでしょうか?

 こんな時でも、涙も出せないのです。私は…。


「…勇者…」


 しばらく落ち込んで、暗い空間に1人浮いていました。






「………あら?」


 ふと気が付きました。私の視界にあるモノが写っています。え―と…私の意思で目の前に持ってこれます。

 目の前にある、このは…薄くて向う側が透けて見えていますけど、このは…いったい…





 誰の―――?










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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公すごく規格外。世界中の気配を把握できるとか。
[一言] せつないよおおおおお
[一言] 割と本気で続編を希望 やべぇわこれかなり面白い
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