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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

矛盾に満ちたる者語

オレは死ねばいいのだろうか

作者: amago.T/

「みーちゃ~ん」

 駆け寄る少女。

「なにー、いーちゃん」

 ノート型端末に向かい、声だけで反応する乙女。

「教の調子が悪いの~」

「兄に言ってちょーだい。あたしはそういうの不得意なの、知ってるでしょ?」

「Aどこ?」

「どっかで寝てる。」

「なに書いてるの?」

「まだ死んでないやつ」

「ああ、あれか。」

 顎に指を当てて空を見つめる少女。

「続きそう?」

「たぶん無理。消すかも。」

「そっか。

――でも、忘れないであげてね。」

「わかってるって。」


 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「ミーちゃーん」


 洞窟の入り口に立ち、ほの暗い中をのぞき込む少女。

 中に反響して戻ってくる音に耳を澄ませ、首を傾げる。


「ミーちゃん、いないのかなぁ?」


 お~い、と再度呼びかけるも、反応はない。

 中に足を踏み入れる。

 生活感溢れる寝床に、簡素な布で日除けが設けられていた。

 この暗い洞窟の中にはおおよそ不必要だと思われるのだが。

 少女の視界の隅で、何かが動いた。

 上から降ってくる影に腕を伸ばし、キャッチ。


 それは、野ウサギだった。


「ハル」


 少女がそう呼びかけると、野ウサギは少女の腕を駆け上がり、肩に乗った。


「痛いよ~っ」


 野ウサギは、少女の髪を噛んで引いていた。


「そっちにいるの?」


 少女は野ウサギを強引に肩からどかし、だき抱えた。

 そして、野ウサギの耳の向いている方向──洞窟の奥へ歩いていき、姿が見えなくなった時、この洞窟に住まう獣が帰還した。


 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


小さな足跡がある


 獣は岩のにおいを嗅いだ。


あの子の匂いだ


あの子が帰ってきた


 獣は喜びのあまり、洞窟の外へ向かって吠えた。

 森に住む獣たちはその声を聞き、驚き、怯え、恐怖した。

 喜び、悲しみ、慟哭した。


 つまり、喜ぶものもあったが、負の感情を抱くものが多かったということだ。


 名も無き獣は、少女によって創られた。

 少年によって、自我を与えられた。

 もう一人の少年によって、生かされている。

 その獣だけではない。

 この森自体が、そうなのだ。

 些細なきっかけから想像され、全てが無から、創造された。


 それに対して感謝しているものも、嫌悪しているものも、関心を抱いていないものもいる。


 少女と少年たちは、この森の創造者であり、管理者であり、そのものだった。

 だが、獣たちに自我を与えた少年がこの森を去って久しい。

 その少年を捜し、少女も頻繁にはこの森を訪れなくなった。

 それでもなお、この森を生かし続けている少年だけは、ひっそりと、森と共に存在していた。

 少女が訪れたということは、その少年が、動き出す。


 # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「あなたは、禁忌を犯す恐れがある。」


 呟きながら、乙女はキーをたたく手を早める。


『マキシマムは、願いを代償に、能力を得る。

 だから代償にした願いは絶対に叶えられないし、叶えたければ能力を代償にしなければならない。

 死してなお、願いを叶えるまでは死なない。

 でも、元々その願いは、叶わないはずのものなんだ。

 だから、マキシマムは、不死。

──例外は、許さない』


 そしてそれを、読み上げた。


「こんな台詞どう?」


「もうちょっと分かりやすくならないかなぁ?

 それか短く切るとか」


 すぐさま新たなウィンドウを開き、


『マキシマムは、願いを叶えるまでは、死ねない。

 でも、代償にした願いは、絶対に叶えられない。

 だからマキシマムは、死なない。』


 キーをたたく。


『マキシマムは、願いと引き替えに、能力を得る。

 忘れてしまった願いのために使うことはできないけれど、想像すれば、それが精緻であればあるほど、精巧に、創造できる。』


「こんなかんじ?」


「ちょっとは分かりやすくなったと思うよ。」


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