聖夜の音
好きになった娘は星の数ほどは大げさだが、告白したのは月の数。要するに一度きりだ。
その告白がトラウマになって、もう七年。
「あっきは対象外だよ」
九重美紗緒が言い放った言葉が今でも何度でも耳奥に響く。
十三才の初冬に返された、木枯らしに流されそうな一言が、記憶に刻みついてしまったのか。
あの夜、悶々と苛まれた後悔と恥辱感が今でも自分に『待った』をかける。
以来好きだな、あの娘いいな、と思う相手に思い切って告ってみようと決心すると、必ず七年前が甦る。
すると一瞬で頭内に鍵の音。
ガチャリ――。
美紗緒とは見た目、性格、生い立ちも全く違う別人だというのに、声質や、ちょっとした仕草、嗜好が美紗緒と重なっていると気づく。
ガチャリ――。
この呪縛から逃れるためなら神頼みでもと決心し、ダメもとで手紙を書いた。
サンタさんへ
掛ける鍵じゃなく開ける鍵をください。
晃
さて、これをどこに置こう。
居間には天上まで届くツリーが、母親好みにデコレーションされ鎮座している。
だが、人目に触れる場所に飾って変な人になるのは避けたい。
明日は招待した九重一家もやってくる。
聖夜は雪がうっすらと積もった。
午後から台所は、母と九重のおばさん、美紗緒で大賑わいの中、居場所がない俺は二階へ避難した。
ささやかなパーティが終わった後、美紗緒とティータイム。母に押し付けられた三角帽子が良く似合っている。
「おばさんと母さん、いつもに増して張り切ってたね」
「二十歳の誕生日だからだろ」
「だねー、やっと対象内だね、あっき」
「えっ」
「彼氏は大人の人って決めてたの私」
カチリ――。
鍵が開いた!
ヤカン先生、主催お疲れ様です。
超小編で挑戦してみました。