6話 これは夢ではない
話が動きます。
朝飯を食おうとソファーに腰かけたら初めて外がよく見えた。
なるほど、この高さならよく見えるんだな。
駅前の高いビルの頭が少し見えた。
近所の家やアパートの屋根が見える。
「ほんとに逆さまになってんなぁ…」
雑なサンドイッチをもしゃもしゃ食いながら
ぼーっと外を眺めていた。
どうしようこの後…
電気は止まっているみたいだしたぶんガスも
止まってるだろう。
仮に通ってたとしてもガスはちょっと怖い。
外はさほど騒がしくない。
起きるときに聞こえた五月蝿さから今まで大きな騒ぎは起きていない。
みんな事態に気づいて無いのだろうか?
俺みたいに呆然としているんだろうか?
…
あぁ!考えるのめんどくさい。
このまま助けが来るのを待ってるのが無難なんだろうなぁ…
飯を腹にいれたらなんだかマッタリしてしまった。
目に写る景色があまりにも現実感がないからだろうか?
危機感が全然起こらないんだよなぁ。
いっそもう一眠りするか?
そうすれば、もしかしたら目覚めた時、
この悪夢は終わっているかもしれない。
そう…夢から…
そんな無気力なことを思っていた時、
目の前を制服の女の子が落ちていった。
「はぁっ?」
俺は目の錯覚かと思い、前のめりにリビングの窓に駆け寄り手をついた。
「嫌ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
少し間抜けなほどの間が空いて少女の悲鳴が下から聞こえあっという間に小さくなっていった…
「嘘だろ…」
おずおずと俺はリビングの窓を開けバルコニーの縁に近寄る。
真横で窓が倒れ砕けるが気にならない。
庇の端に手をつき膝をついて下を覗きこんだ。
空だ。
果てしなく空が広がっている。
雲がゆっくりと流れている。
東の方に太陽が見える。
だがそれだけだ。
それしか見えない。
空しか見えない。
そりゃそうだろう。
今大地は空に広がっているのだから。
大地が空に広がっているとか意味わかんねぇ!
意味がわからない!
意味がわからない!
意味がわからない!
意味がわからない!
あぁ!わかんねぇぞおい!
人が落ちていった…あそこに…
えっと…下の階の植松さんの娘さんで…えっと名前、知らないな。
うん、知らない。
名前知らないよ。
でも顔は知ってる。
朝挨拶したこともある。
知ってる娘だよ。
見間違いなんかじゃ無い
知ってる娘なんだよ…
夢としか思えないような死に方。
バカにしてんのかってくらいあっけない死に方。
でもこの距離感の他人の死は圧倒的なほどリアルだった。
否定できないほどの現実感を俺に押し付けてきた。
見下ろす視界の先には無限の空が広がっている。
昨日までは見上げれば広がっていた空は
圧迫感なんてない、俺たちを優しく包む形の無い屋根であり当たり前にある背景だった。
だが今は全てを飲み込む無限の奈落のように
俺の眼下を支配している。
これは夢ではない。
悪い夢じゃない。
最悪な現実だ。
しばらく主人公以外出ない予定だったのに
いきなり死亡者発生です。
植松さん。死亡確認!
あっ、主人公まだ名前でてねーや…