【BL】大好きで、大嫌いな、君へ。
【 まえがき 】
■あとがき含めてポケクリからの再掲[移転]です
■あらすじにある通りに関西弁萌えの産物なんですが、自身は関西出身・在住というわけではないので、関西弁に違和感があったらごめんなさいです
2012/10/3
「ごめん」
と、言い放ち、奴は女に頭を垂れた。
「そ……っか。うん……聞いてくれてありがとう」
彼女は笑ってはいるが、目が潤んでいる。
ペコリと一礼して女は奴の横を通りすぎ、屋上の出入口を開けて、どこかへ走り去っていった。
奴は一回後頭部を掻いて二、三歩き、次にオレを見上げる。
その顔に、笑みを浮かべて。
「――覗き趣味あるん?」
「んなわけ、ないだろ」
奴から顔を逸らす。
馬鹿みたいに明るい笑顔が眩しいから。
「そっち、行ってええ?」
「――来るなよ」
「ほんなら、待っといてな」
笑顔でこちらに手を振り、奴は梯子に手を掛けた。
足を掛ければ、ことは早い。
来るなって、言っただろ。
「お待たせ」
「――……近い」
近付く奴とは反対に、オレは近付く分だけ下がる。
「あんま下がると落ちるで」
確かにここは屋上の出入口の上だ。
あと数歩で後ろはない。
「逃げるんなら、場所はない」
「逃げてねぇよ」
この口は、嘘を吐く。
「嘘やん」
「なんで……振った?」
顔を逸らして空を眺めながら、言ってやる。
「別に、俺の勝手やろ」
「あの子、泣いてた」
「そやな」
見遣れば、奴は平然と言い放ち、その場に胡座をかく。
「泣こうが、俺には関係あらへん。俺はあの子のことはよう知らへんもん」
「知ればいいだろ」
「――それでええの?」
奴の視線が刺さる。
「オレに聞いてなんになるよ」
「なんにもならん」
「だろ。聞いても意味なんてねぇし、お前の好きなようにしろよ」
「好きにして、ええんやな」
奴は――鋭い目付きでオレを見上げる。
今までに見たことがない、鋭い目付き。
「あ、あぁ……。好きにしろよ」
その目付きに少し怯む。
「なら、好きにするわ。鈍いとは思っとったけど、鈍すぎるで」
そう言って、立ち上がった。
わざわざ確認することなんて、なにもないのに。
「――なぁ、俺と付き合ったって」
そんなことをオレの前で言う。
今度は真剣な顔で。
「なに……、言ってんだよ。頭わいてんじゃねぇの?」
「お前ツンデレやろ。いや、ツンツンやな。デレなんて一欠片もあらへんし」
「あ!?」
「ホントのことやで。そんな怒らんと、笑っとき」
「はっ!?」
笑えと言われて笑えるか。
「まぁええ、話戻すわ。ツンツンやから、ホントのことは言わん」
腕を伸ばして、オレの腕を取る。
「俺のこと好いとっても、お前の口から出るんわ『好き』って言葉やない」
「そうだよ。オレは別にお前のことは好きじゃない。嫌いだ」
好きじゃない。
好きじゃない。
好きじゃない。
大嫌い。
――嘘吐き。
「そうやってまた、嘘吐くんや。お前はそうやって、出任せで傷ついとる」
「傷つく? バカ言うなよ」
「バカやないで! 苦しい顔しとる。判るで、何時も見とるから」
腕を引っ張られた。
そうして、奴の胸板に埋まる。
「苦しい顔しとるよ」
「嘘、吐くな」
苦しいのは――。
痛いのは、気のせいだ。
「嘘ちゃうで」
「なら、気のせいだろ」
奴の胸を押す。
よろけるが見ない振りだ。
気のせいなんだよ。
そう言い聞かせる。
こんな感情は、気のせい。
「……アカン」
「は? なにが?」
「アカンやんか、俺」
そう呟いて、奴は自分の頬を軽く叩く。
「な、なにしてんだよ?」
「――好きや」
「は?」
いきなりなにを言い出すのか。
頭のネジが外れたのか?
「心配せんでええ。俺も好きやから、隠さんでええで」
「なにを……言ってんだ?」
「言ったやん。何時も見とるって」
足が震えだす。
「隠す? なにを? 隠すことなんて、なにもねぇよっ!」
気付いている。
気付かれた――。
「なにわけ判んねぇこと言ってんだよっ。オレがお前を好きとか、在るわけないだろ! 男同士だぜ? 考えて物を言えっっ」
そう一気に捲し立てれば、足だけではなく躯が震えだした。
「考えとるやん」
「考えてねぇよ……。認めたら……、オレがお前を好きだって認めてしまったら、元の関係に戻れなくなる。オレがっ、引き摺り込むんだよ……」
お前の意思なんて関係なく、レッテルが貼られる。
オレがお前しか見ていないのなんて、皆に知られているから。
「――引き摺り込むんは昔からやろ。今更なに言うてんのや」
ため息を吐く奴の顔が、涙で曇ってぼやける。
「突き放せよ。嫌いだって、言え。……言ってよ。想うだけでいいんだ、お前を見れるだけでいいんだよ」
「言わへんよ。俺の話聞いとるんか?」
聞いてる。
お前の話は、何時も意識を集中させて聞いている。
――好きだって言った。
好きだって。
「突き放せよ! 頼むから、これ以上オレの気持ちを乱さないでくれ……っ」
在るわけがない。
在るわけがないだろ。
ずっと不毛だと思っていたんだ。
想うだけでよかった。
お前の傍にいられるだけで――それだけで、心は満たされた。
「好きやで」
優しいお前は、優しい声でオレを受け入れる。
だったら、オレもお前を受け入れるよ。
嘘じゃないなら、これが夢じゃないなら。
――好きだから。
涙を拭い、奴を見る。
微笑んで、手を伸ばした。
「お前の口からは一回も聞かへんから、言うてみ?」
胸板に収まったオレは奴の言葉に顔を上げる。
目が合い、奴は笑う。
「『好き』って、言うて?」
「――大嫌いだ」
そう言えば、奴は「ツンデレはもうええから」と言ってきた。
「オレはツンデレじゃねぇよ!」
「そやな。天の邪鬼やんな」
それは反論出来なかった。
結局、奴になにもかもバレていたのだ。
それこそ、初めから。
《終わり》
【 あとがき 】
関西弁萌えが消えることなく燃え続け、このような話が出来ました。
関西弁とツンデレ(正確にはツンデレではないですが)が出来上がり、筆(というか携帯のボタン)がノリノリ。
数日掛かりましたが、ノリノリ。
やっふぅ。
自身は関西出身・在住ではないので可笑しなところがあるかと思います。
おかしなところを発見した方は、ミニメールにて教えて下されば嬉しいです。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
2009/5/27
---追記---
ポケクリにはコメントのやり取りができる[ミニメール]という機能がありました
リニューアルしたあとは解りませんが…