腹減った
さて、早朝から繰り出した買出しは、昼ごろにやっととりあえずの目途が立った。
家族は手ごろなオープンカフェで昼食にした。
でっかいフォッカチャに、たっぷりの野菜とハムと卵がはさんで有るサンドイッチをぱくつきながら、アリィは小鳥の如くサラダをつつく父と、自分以上に平らげていく義父を見守っていた。
アレクスが小食なのは、食べたものをすべてエネルギーに変換するという天使の特徴ゆえである。その血を引くアリィは純粋天使ではないので、身体を動かせば相応の量を必要とする。エゼルの場合もほぼ同様。
しかし、そんな二人に挟まれていれば、アレクスはいやでも目立った。
「なんか俺達すごい大食いみたいだね」
ふくらんだ腹をぽんぽんと軽く撫でながら、アリィは正直な感想を述べた。
「実際すごく食べてるけどな」
食べ終わって食器をきちんと並べて、アレクス。
エゼルはまだ食べている。
「……うぅ」
見ているだけで苦しくなって、アリィはさりげなく視線を逸らした。
むき出しでこそないが、地面には煉瓦が薄く敷かれているだけ。空気はどことなくほこりっぽい。アースに慣れた少年には、なかなかなじめない光景だ。
けれど、ほんの少し目を上げれば、そこには何にも遮られることのない青空がある。
アースでの空。学校や帰り道に見上げる空は、必ずビルの屋上が視界に入り込み、四角く空を切り取ってしまう。家の敷地にある丘の上から眺める空は、広々と澄み切っていても、実は紛い物だ。
こんな風になんとも当たり前に、空が視界一杯に広がる事なんて、アースではなかった。
かつて、NASAの探査機が送信した赤い空は、緑に覆われた今の火星には過去のものだ。
深い深い、蒼。
宇宙を塗りこめたウルトラマリーンを、水で薄めたような……
「……飛んでみたい」
唐突に口から出た呟きに、一番驚いたのはアリィ自身だった。
「え?えっと……」
父に視線を戻せば、しっかり呟きを聞きつけたらしい微笑にぶつかった。
「そういえば、教えるって言っていたのに、まだ何もしていなかったな」
金の瞳が、優しい色をたたえて微笑んでくる。
「練習してみるか?」
かなり迷ったあと、アリィは。
大きくうなずいた。