第一章 〜リアルにリンクのゲーム1〜
四月一日、エイプリルフール。嘘をついても許される日。
だから、僕が巻き込まれたこの事件は、嘘だと思われてもしょうがないのだった。
説明するのは難しいし、説明する気などからっきしだ。
だが、ただ一つ言えることは。
僕の人生が狂ったのは、紛れも無くこの日だった。
四月二日、午後五時十分。嘘をついても誰かには許されない日。
仕組まれたかのような時刻に、仕組まれたかのようなシチュエーション。本日はエイプリルフールではない。だから、嘘は許されない。
嘘が許されないからだろうか、それとも昨日の今日だったからか、別の言い方も在っただろうに、それなのに僕はこう言った。
「僕はあと一年で死ぬんだよ」
四月一日、午後十時四分。嘘をついても誰かには許される日。
仕組まれたかのような時刻に、仕組まれたであろうシチュエーション。本日はエイプリルフールだ。だから、嘘は許される。
けれど、だからと言って、真実が許されないわけが無いのだった。だから、
「お前はあと一年で死ぬよ」
この発言が嘘だと言い切れなかった。
○●○
四月一日、日曜日。
僕は一人夜道を出歩いていた。目的はなんてことない、ただの散歩。
というのは嘘。ただの散歩ではない。エイプリルフール、これくらいの嘘くらいは許してくれるだろう。
僕が出歩いているのは散歩なんて目的ではない。そもそも、散歩という目的はいささか説明不足な気もする。なんで散歩しているのか、その理由が必要になってくるのではないのだろうか。気分転換、もしくは何らかの訳があって言えないことをしに行く。そんな時にしか散歩はしないだろう。
まあ、僕の散歩の理由は酷く現実的だった。ようするに、後者。
一人家に残っている妹には、散歩に行ってくるから、と言い残して出てきた。本当はかなりやばいことをするために出たのだったが、妹は何も疑ってはいなかった。それはそうだ。つい先日、僕は妹以外の唯一の家族を失った。
僕らは両親を早くに亡くしていた。そして、その後は年金生活をしていた祖父のもとで暮らしていたのだった。その祖父がちょうど去年、僕が高校に入学してすぐ病に倒れて、そして先日、亡くなった。享年九十六歳、病にかかるまでは自慢できるいい祖父だった。
そしてつい先程まで、その葬儀やら通夜やら後始末をしていたのだった。それは目まぐるしく自体は動いていて、僕らは感傷に浸る暇など無いほどだった。それだから気分転換だと勝手に認識したのだろう。普段の妹なら絶対に聞いてくることなのに、聞いてこなかった。
僕としてはかなり嬉しい勘違いをしてくれたものだ。いや、もしかすると妹も一人になりたい時間がほしかったからかもしれない。
だけど、僕の本当の目的を妹が聞いたら、必ず止めるだろう。恐らく、足の骨やら肋骨の数本を折ってでも止めるだろう。場合によっては首の骨を折ってくるかもしれない。そうなったらどうしようもないな。
僕は街灯も少ない路地をぶらつく。俯き加減に、自分の影を見ながら街灯の無い辺りをうろうろと移動する。念のため言っておくと、僕は別に不審者ではないから。ストーカーとかする気は無いから。犯罪者はみんなそう言うって? そうじゃない人はじゃあなんて言えばいいんだよ。僕はストーカーですって言うのか? それこそ不審者だろ。
僕はあくまで、待ち人来たらずといった雰囲気でうろついていた。そう、僕は待ち人がいる。いや、正確に言うと待っているのは人といっていいのか怪しいのだが。
時刻は夜中の十時近く。多分、もうそろそろ来てもいい頃だと思う。いつも通りなら、必ずここに来る。
僕は準備として、つけていた腕時計を見る。別に左利きでもないのに右についている腕時計。別にどっちでも良かったのだが、自然なのは右だろうと僕は思ったからだ。
さあて、僕の心の準備は整っている。妹と別れたときから決心はしていた。
家を出るときのモノローグがあるのなら、それはかなりいい感じに決まっていたと思う。
だから、あとは待っているのが来るだけだった。それで、僕の人生は大きく変化するだろう。
そして、運命の光が僕を照らした。
光が、僕を包み込む。目が眩んでしまう。思わず、ではなく意図的に右手で目を覆う。それは、僕にとっては欠かせない動作。
光がどんどんと広がって、そして近づいてくる。もうすぐだ。
僕のほうからでは良く見えないが、それでも、待っていたものが来たのは明白だった。
とりあえず、場を占めるために一言言っておこう。
「てやんで~! 部長が一体何だってんだ! ひっく、あのハゲ散らかったおっさんがいい気なりやがって!」
…………。
間違った。これは別の人間の言ったことだった。
それでは気を取り直してもう一度。
「——さようなら」
ブレーキの音は、聞こえなかった。
ドカッ!
僕の体が、時速八十キロの鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
確実に、粉骨砕身だった。
僕の体が宙に舞った。
光が、僕から外れて、だんだん小さくなっていく。
そんな中、僕は口から赤い鉄の味のする液体を出して、微笑んでいた。
この期に及んで言うのもあれだが、体調は最悪、ただし、気分は上々だった。
僕は声には出さず、念らしき物を遠くにいる妹へと送ってみた。
——生命保険が降りるだろ? それで、僕の分まで生きろよ——
……疲れたな………、……眠い…。
おやすみなさい。