第二章 〜天使と悪魔と学園生活6〜
瀬川奈美は借金を抱えていた。
それは彼女の両親が作ったものだったが、その両親は数年前に行方を晦ませている。彼女に一千万もの借金を押し付けて。
瀬川の両親は、借金取りに彼女を売ったのだ。
信じられず、許せなかった。
けれど、不思議と問いつめようとは思わなかった。
そんな理不尽なもの無視しても良かっただろう。逃げても良かったはずだ。
だが、彼女はそれができなかった。
彼女には、弟が居た。
まだ小学生の弟。両親が借金を押し付けて逃げた事も知らない、世界の汚さを知らない子供。
自分だけで逃げるのならば、彼女にだって生き残る術はあった。
だが、年端も無い弟を連れて借金取りから逃げる術は無かった。
自分が逃げれば弟が代わりに売られる。
彼女にはそれは許せなかった。
それでは、両親と同じじゃないか、と。
だから、彼女は自分を売る事にした。
瀬川奈美は、自分よりも弟を優先した。
○ ○ ○
「それが愛じゃなくて、一体なんだというんだか。面白いな。実に面白い」
男はヘルメットに手を翳し、そして横にスライドさせた。
ヘルメットはその手が糸を解いていくように、その手の動きに合わせて黒の粒子となって夜の闇に消えて行く。
そして、
「救いに来たよ、瀬川奈美。お前はこんなところで人生を棒に振るべき人間じゃない」
悪魔がニヤリと笑みを浮かべていた。
○ ○ ○
時刻はまだ正午。
場所は自宅。邪魔は入れさせない。
「命令だ、悪魔。魂と引き換えに、望むモノをよこせ」
瞬間、ポケットに入っていた銀時計が熱くなるのを感じた。
僕は銀時計を取り出し、その蓋を開いた。
[我、契約文に従い汝に望むモノを与えよう]
そう悪魔の声が脳裏に響き、手元の銀時計の針が幾分、それこそ数分程度だけ進んだ。
目の前に塵が集まってくる。それが煌めきながら形を作って行き、そして。
「……悪魔。さすがは、悪魔だ」
「やっぱり、人間が望むものはコレだよな?」
そこには、重さにして三キロ相当の金ができていた。
さて。
「一体これをどうやって現金にしたものかね……」
○ ○ ○
「ふふふふ、たんまりお金も入ったし、そろそろ別の県に行くかな? この世界はいい感じに歪んでいるからね。欲望の形に」
借金取りの男は薄ら笑いを浮かべながら、学校から出ようとしていた。
「恨み辛み、復讐報復、性欲情欲、殺意悪意、使い捨ての労力……人の使い方なんていくらでもある」
「それが天使のやり方、か?」
と、不意に男は声を掛けられた。
「おや? 誰だい君?」
声をかけたのは、
「どうも、悪魔です。お前を消しに来たぞ。大天使『ラファエル』」
悪魔だった。