↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
99/99

オラクレールの選択

身の丈に合わない善意に溺れるな。


ずいぶん前に、ローナから言われた教訓だ。俺たちは俺たちなりの形で

それを受け入れ、今日までそこそこ結果を出してきた。神の視点でなく

人の視点で、誰かのために己の力を活かしてきた。


だけど、これはどうなんだろうか。



目の前で消えかけているこの女性の存在は、俺たちの理解を超えてる。


================================


転生の女神リプネリス。


何か月か前に、ふらりとやって来た新しい客だ。何となく浮世離れした

金髪美人だったけど、その実かなり現実離れした神様寄り存在だった。


ローナは天恵を与える恵神。それに対し、リプネリスさんは人の転生を

司る女神…なんだとか。あまりにもあっさりカミングアウトされた結果

「そうなんですか」と月並みに言うしかなかった。で、紅茶を出した。

この世界の存在もローナの存在も、本当につい最近認識したとの事だ。

で、面白そうだから来てみました。のほほんと笑いながら語っていた。

同じく笑顔を返しながら、俺たちはけっこう複雑な心境に陥っていた。


いや、別に今さら女神が来店しても驚かない。俺の店ってそんな店だ。

開き直ってないとやってられない。もう、とうの昔に受け入れている。

だから、それ自体は別に構わない。よくある事だと笑い飛ばすだけだ。


だけど、転生の女神って何なんだ。


それとなく聞いてみると、どうやら異世界転生を担当しているらしい。

モエビトだか何だか、世界に影響を与える存在を異世界で転生させる。

そうやって宇宙のバランスを保つ。それがあたしの仕事なんですよと。


立派だと思うんですが。

どうして今さらとも思うんですよ。


かつて俺たちは、姉のディナの天恵による異世界からの迷子を抱えた。

赤ん坊に転生してしまった少年を、大変な苦労をして送り返したんだ。

キッチンカーを作って海を渡って、ヤバ過ぎる宗教団体と渡り合って。

鋼鉄の魔鎧屍兵だのドラゴンだのをどうにか退け、目的を果たした。

楽しくはあったけど、二度とゴメンだと断言できるミッションだった。


あの頃に、店に来てくれていれば。

説明を聞いた限り、トモキは彼女の力で送り返せただろうなと思う。

もう、今さらな話ではあるんだが。何ともモヤモヤするのも事実で…


「ははははは、まあそんな笑い話もアリって事でね」


雑に笑い飛ばすローナ。だよなあ、うん。笑い飛ばせばいいんだよな。

そんなこんなで、リプネリスさんは新しい常連になった。そして先日、

拓美さんのたっての願いで、転生の管理をする会社の社員という女性を

連れて来た。それが目の前の彼女、丑三ツ智華だった。異世界だけど、

同じ日本人という事で大いに会話が盛り上がっていたっけ。


あの時は、何ともなかったのに。

どうしてこんな事になったんだ。


そして。



どうすべきなんだ、俺たちは。


================================


「…彼女自身は、どうしたいんだと思いますか?」


ローナに視線を向けたポーニーが、そんな問いを口にした。


「正直、このままじゃ何も出来ないのは見れば判ります。だけどそれは

彼女の意思じゃないでしょうし」

「そうね」


ごく短く答えたローナが、這いずる智華の頭に軽く触れる。その部分が

ザラッと崩れるけど、何秒かかけて元の形をほぼ取り戻すのが判った。

俺たちを見てもいない。思考能力があるかどうかも定かでない。だけど

意思は感じ取れる。何かしたいと、彼女が思っているのは確かだろう。


「…こんな状態なら、今すぐ崩れてしまっても何ひとつ不思議はない。

それがここまで保たれているのは、間違いなく彼女自身の意思よ」

「…何かしたいと思っているから、懸命に自分を保っているって事?」

「それだけで精一杯なんでしょう。体を根こそぎ失ったみたいだから」

「………」


ネミルからの問いに答えたローナの口調に、微かな思惟が混じったのを

感じ取った。ローナはローナなりに何かしら考えている。間違いなく、

彼女がこうなった原因はローナにもあるだろうから。


まともな涙も流せない体で、彼女は泣きながらどこかを目指している。

同僚を消してしまったと言ったな。という事は、捜しに行きたいのか。

こんな体になり果てても、それでも自分のやった事を挽回したいのか。

だったら…


「ローナ」

「うん?」

「今、彼女の運命に干渉する事は、恵神としてヤバい事じゃないのか」

「まあ、多分大丈夫だよ」

「多分かよ…」


珍しく、大事な部分をぼかしたな。いつも嫌になるほど明言するのに。


「ハッキリ言えないのか」

「何しろ前例がないからね」


そう言いつつ、ローナは小さく肩をすくめて苦笑する。


「あの黒い影が干渉してきた時点でもう、この世界はリプネリスのいる

彼女の世界と関係を持ってる。多分これから先の事は見れないだろうし

直接の干渉も難しいと思うよ」

「それじゃ、この子をどうにかする方法はそもそもあるのか?」

「あるよ」

「あるのかよ」


そっちは即答できるのか。つくづく基準が分からない。

ええと、つまり…


「この子を救う方法はある。けど、そこから先はこの子次第って事か」

「相変わらず察しがいいねトラン」

「そりゃどうも」


いい加減、呼吸も掴めてるんだよ。



何だかんだと、付き合い長いから。


================================


「なら、もう答えは出てるよね?」


そう言ったのはネミルだった。


「ここでできる事は、限られてる。けど少なくとも、この智華ちゃんに

選択肢を示すくらいは何とかなる。なら、やるしかないと思うよ」

「そうね」


答えたローナがニッと笑う。ああ、いつもの不敵な笑みってやつだな。


「さっきの黒い影の話を聞く限り、リプネリスも動けなくなっている。

彼女の役目とこの子の仕事の両方を鑑みれば、やれる事は決まるよね」

「ヤバい領分は侵さないんだな?」

「彼女が自分で頑張るなら、そこは心配しなくていい。友樹と同じよ」

「よし」


頷いた俺は、ネミルとポーニーへと視線を向ける。同じく二人も頷く。

なら、もうローナに託してもいい。


「彼女の意気に応えようぜ」

「分かった」


即答したローナは嬉しそうに笑う。

ああ、こういう時は燃えるんだよなこの気まぐれ恵神は。


んじゃ、神の奇跡を見せてくれ。


「ポーニー」

「えへっ、はい?」


唐突に呼びかけられたポーニーは、やや間抜けな返事をした。


「あたしですか?何でしょ」

「ネイルを連れてきて」

「は!?」


何気ないその指示に、俺たち三人の声が見事にハモった。何だと!?


「ネイルって、あのネイルか!?」

「他のネイルがいるなら教えてよ」


事もなげにそう言い放ち、ローナはノートパソコンに視線を向けた。


「ネイル・コールデンの半身塊を、丑三ツ智華の体として再利用する。

方法はそれしか無いよ」

「……………」


マジかよ。


付き合いは長いけど。

やっぱり俺たちが理解できてるのはほんの一部なんだろうな。



恵神ローナは、ぶっ飛んでる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。