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好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します  作者: 皇 翼


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8.

身体を包み込んでいたはずの暖かな魔力が途切れ、意識が急速に浮上する。


「っ――――!!?」


目が醒めて最初に感じた感覚は、内臓を外側から無理矢理に持ち上げられるような強烈な浮遊感と、風圧で息が出来ないというものだった。

そして混乱しながらも、彼女の脳はすぐに現状を分析する。視界いっぱいに広がる清々しほどの青。身体が重力に従って、すごい勢いで落ち続けているという事実にすぐに気が付く。


周りを軽く見回してみると、先程転送ポートに共に立っていたメンバーがクロエと同じような状態で、空から落ちている。中には意識がないのか、身体から完全に力が抜けている者もいた。しかし意識があっても、予想外の事態にどうしようもない者もいる。遠目から見ても分かるほどに、恐怖にその顔を引きつらせている者もいた。


このままでは全滅する。それを直感的に感じ取った。

今回の任務はジェレミーとエルヴィヒを合わせずに、黒騎士6名、白騎士6名、聖騎士からはクロエのみで部下は一人も来ていないという選出であった。他に付いてきている人間達は任務の補助要員であり、攻撃をあまり得意ではない基地待機予定の非戦闘員。

そして騎士の魔法を得意とする者はジェレミーの部下とクロエの二人のみ。しかもジェレミーの部下の方は大半が完全に気絶している。

目視で全員分の座標を確認する。酸欠になりそうな中で、落ち続けながらも魔法式を練っていく。


(属性:水、範囲:半径500メートル)


属性持ち魔法の中でも最も得意な水魔法を使う。地面に範囲が広く、深いプールを作るようなイメージで魔力を展開し、そのまま着水に備えた――。


***


「さっむ!!!」


下に張っていた水魔法を着水、そして衝撃吸収が完全に終わったと同時に解除する。しかし、解除した先にあったのは空中では感じなかった、全身を刺すような痛みだった。肌を通して貫く。それも当然。背後には雪がしんしんと降る銀世界。彼女の肌を刺したのは武器などではなく、寒さだった。死の間際だったのを乗り越えた余裕が出来た故かもしれないが、全身ずぶ濡れなこともあって、異様に寒い。


「痛みを感じるくらいに寒いってどういうこと!!?こんな寒い場所に転送されるなんて聞いてないんだけど?」

「そうか?そこまで寒くはないと思うのだが」

「そういえば、ジェレミー君って、雪が降っていても半袖だよね。あとこの寒さについては俺も予想外。どうやら、元々転送される筈だった場所とは別のところに飛ばされてしまったみたいだ」

「不可抗力とはいえ、水で濡れた上にこんな雪が降ってるような寒い場所で『寒くない』なんて言ってる筋肉達磨がおかしいのよ」

「ああ、そういえばそうだったな。咄嗟に下に水を張ってくれたのはお前だろう。助かった」

「さっすが、クロエちゃんだよね~。危うく全滅で任務失敗しちゃうところだったよ。やっぱり君を連れて来た俺の判断は最高!」


クロエらは転送ポートでいざ任地に……!と息巻いて出陣したは良いが、不測の事態に巻き込まれていた。

転送されて景色が変わったかと思うと、そこは建物内ではなく、空中。それも雪が深々と降り積もる極寒仕様の場所だった。転送ポートが強制的に切り替わった影響で、クロエ含め、メンバー達は本来の目的であった地点とは別の地点、空中に投げ出されたようだ。それを気を失わなかった人間が叩き起こしているのが今の状況だ。


しかしながら荷物を先に転送していたことが仇となった。彼女らは身に着けていた武器以外は何もない状態でここに放り出されたのだ。

メンバーの中の何人かは何が起こったのか分かっていない者――主に戦闘役ではなく治療役や料理・栄養管理などといった役割が強い者――がおり、彼らも不安に顔を曇らせている。

それらの不安からか、場がざわつく。


「クロエ聖騎士団長がいなかったら、死んでたとか、シャレになんねー……」

「確かに、危険性が高い任務だとは聞いていたが、初っ端からこれというのは、不安が大きいな」

「しっかりしてくださいよ!ふくだんちょー。付いてきたの後悔するレベルで頼りないんですけど」

「俺だって予想外だったって言ってるだろう」

「……これって、元々の転送予定だったポートに何かしらの不具合が起きたってこと?」


ジェレミー以外が寒さに震える中、一足先に自身の周囲に炎の魔法を巡らせて――ただしエルヴィヒとジェレミーがいる場所以外に――、服に付いた水分を飛ばし、暖を取ることで冷静な思考を取り戻したクロエは可能性として思い当っていたことをエルヴィヒに伝える。その声は、不安に震えていた騎士達のものを切り裂いて、思っていたよりも周囲に響いた。

初めから先行きが怪しいなと思いつつも、今後の動きを決めるための事実確認はしなければならない。


「ああ。俺も最終過程の途中で転送先への魔力が途切れる感覚があった。緊急転移装置の方が作動したんだろう。多分、本来の目的地はそう遠くないはずだ」


やはりなと思うとともに厄介なことになったなとも思う。


「……あの、クロエちゃん、その魔法――」

「ん?」

「俺にも使ってくれたりしないかな~なんて」

「その装備」

「装備?」

「寒冷地仕様でしょう」


よくよく見てみると、エルヴィヒの衣装は他の騎士たちよりも首や手を守る布が厚く、ある程度寒さを緩和するための魔法術式が服に編み込まれていることが分かる。魔法を使える者が白騎士よりも少なく、厳しい環境に赴くことの多い黒騎士はいくつもこのような服が配られているのだ。何度か寒冷地での任務もリオンと共にしたことのあるクロエは聞いたことがあった。


それでクロエは全て察した。エルヴィヒはクロエや他のメンバーには場所の詳細を教えなかったくせに、自分だけはきちんと用意してきたことを。せめて寒い場所なのか暑い場所なのかの情報くらいはくれても良かっただろうと心の中で怒りを燃やす。

基本的に騎士の遠征というのは余計なものは持ち歩かない。きっとクロエ達が極寒という予想外の状況に怒ったり、困ったりするのを楽しんで傍観する予定だったのだ。この男はそういう人間だとこの場の誰もが知っていた。


「バレちゃった?まあ、君たちよりは寒くはないんだけどさ、寒いのは寒いから……でも流石、リオンに懸想してるだけあって、支給品にもくわし――」

「そういえば、黒騎士の寒冷地仕様制服ってどのくらいの寒さまで耐えられるんでしょうか。試したことなかったなー。なんか思いついてみると、すごく気になってきちゃった」

「二人共、そこまでだ。今はそんなことしているような余裕がある状況ではないのだろう。部下たちも怖がっている」


エルヴィヒに今現在使用している魔法と真逆の魔法をかけようとしていると、ジェレミーがクロエを言葉で静止する。あからさまにほっとした態度のエルヴィヒに多少の悔しさは感じたが、ジェレミーのいう事も尤もだった。

今はこんな場所で他の者達に不安を覚えさせながら立ち止まっている場合ではない。


「それで?これからどうするんです?」

「俺達に任務遂行以外の文字が許されているとでも?……このまま任地に向かうよ」


部下の言葉に対し、エルヴィヒは少し真面目な声音で指示を出す。そこからの彼の行動は素早かった。クロエに魔法を使わせ、周辺の地形を把握すると、現在地から目的地までの最短距離を割り出す。彼の言った通り、目的地はすぐそこにあった。

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