表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します  作者: 皇 翼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/39

3.

「え、ここ?こんな夜中にこんな場所に入って良いの?」

「ああ。このまま一人で抱え込んで悩まれた結果、突然どこかに消えられても困るからな。お前はそういうやつだ」

「……否定は、できないことがなんとも悔しい」

「とにかく、この王都から連れ出してやる。そのために必要な手続きを今からしにいくんだ。……それに#彼__・__#からも『決まったらいつでも訪ねてくるように』と既に許可は貰っているからな。問題ない」

「彼?」

「お前も知っている人物だ」


正直クロエにはこれから訪ねる相手の検討など全くつかないが、ジェレミーはクロエと同世代でありながら、白騎士団では副団長を務めている程に優秀な人材であり、仕事上でもプライベートや伝手といったものでも信用できる男だ。だから大人しくついていくことにした。

しかし連れてこられた場所は、言うなれば職場。夜の王宮だった。

巨人用にでも作ったのかと思えるほどに高い城門。見上げると相変わらず首が痛くなる大きさであるソレを、騎士としての顔と印を見せることで通り過ぎ、夜中なので騎士専用の通用口を使って王宮内へと歩みを進める。向かった場所は誰かの私室などではなく、執務室や休憩室が多く設置されている棟だった。


「ここだ」


ジェレミーが目的の部屋の前に着くと同時にノックをして声を掛ける。彼の言葉通り、こんな時間にもかかわらず中には人がいるらしく、すぐに入室の許可が下りた。


「失礼します」


入室の挨拶を倣って、少し緊張した面持ちでクロエは部屋に足を踏み入れる。するとそこにいたのは――。


「エルヴィヒ=シュヴァルツフィールド……」


このシュヴァルツフィールド王国の第二王子にして、リオンの部下――黒騎士団の副団長であるエルヴィヒだった。

クロエが聖騎士団団長に就任して、リオンに恋心を抱き始めた頃……約3年ほど前からやたらと絡んでくる男だ。クロエは彼の王族という立場上、他の団の団員や部外者がいる場所ではハッキリと嫌悪感を表に出すことはなかったが、時々任務などで一緒になる時に人目がない時は冷たくあしらっていた。

なんだか彼と一緒にいるとまるで捕食者に背中をなぞられているような、行動全てを言葉で操られているような、妙な感覚に陥る。そう感じながらも、実際は何かしらの魔法をかけられているような形跡もない。だから、そんなことはあり得る筈がないのに。

本当に不気味な男だとクロエは思う。しかしまあ、それだけならば、腐っても副団長であり王族でもあるのだから、聖騎士団長とはいえ、自分が警戒されているのだろうと納得できた。だから実際に一番苦手とする部分は別のところにあるのだ。


その苦手な部分というのは――――。


「やあやあ!やっぱり来たね、クロエちゃん」


彼のこの馴れ馴れしい言動だった。


「毎回言っていますが、その『ちゃん』付けした呼び方はやめてください。私は確かに貴方よりも血筋的な立場が低いとは言っても年上です」

「そんなこと気にしなーい。可愛いじゃん」

「可愛くありません。不愉快です」

「そのことについてはどうでもいいので、さっさと話を進めてください。エルヴィヒ様」


二人の間――正確にはクロエの方から一方的に――火花が散る。エルヴィヒはいつも通りの態度だった。

しかしこのままでは話が進まないと判断したのだろうジェレミーが二人の間に割って入った。実際のところ、クロエとエルヴィヒの二人は、二人きりまたはジェレミーやクロエ自身の部下しかいないところでは会話が終わらない。エルヴィヒがひたすらクロエに絡み、クロエがそれに怒りと厭味を込めながら反発するのだ。それがずっと続く。


「はいはい。気の短いジェレミー君のために、クロエちゃんを揶揄うのを我慢して、良い子なエルヴィヒ様はお話を進めますよー」


『貴方が全ての元凶でしょうが!!』その言葉をクロエとジェレミーは同時に飲み込み、話を大人しく聞く。

話の内容というのは#とある任務について__・__#だった――。


要点をまとめると、エルヴィヒは彼の父であるこのシュヴァルツフィールド王国の国王から重要な任を下されたのだという。そして今はその任務に同行させる人間を探しているとの話だった。任期は未定。任務が順調終われば早く帰れるし、手こずれば年単位で帰れない。どちらにしろ途中で王都に帰ってくることは出来ないと言われた。任務の詳細などはクロエの参加が未だ確定ではないために、伏せられはしたが、この王都から出たい今のクロエにはうってつけのものだった。


また、これは国王からの直接の命令であることに加えて、その性質上の秘匿性からエルヴィヒ自身が信用しているジェレミーと他数名にしか声を掛けていないため、任地に赴いたという記録が残るだけで、クロエがどこに行ったのかも分からない……事情を知らない人間から見ると、まるでその場から姿を消したような感じになる。

万が一にも王都内の知り合いに会うこともなければ、情報が渡ることもない。


そしてジェレミーは実はクロエもこの任務に参加させるために説得するようにエルヴィヒからずっと言われていたらしい。


「クロエちゃんはリオンに振られて傷心だから、この任務は適任だと思うよ」

「なんで知って――って聞くだけ無駄か」

「うんうん。そうだね、諦めは肝心だよねってことで、サインを――」

「本当、ぶちのめしたくなるくらいに煽ってきますね。……でも私、この任務を受けるつもりはありませんから」

「え、なんで?リオンと接するの気まずいんじゃないの?」

「私は聖騎士団団長です。だから、離れるわけにはいかない。この立場はあの人達から継いだ大切なものだから」


エルヴィヒは所持していた情報から既に勝ちを確信していたのだろう。気が早い事に、書類へのサインを求めてこようとしていた。数時間前に行われた個人同士の会話内容を知っていることに対しては思うことがないわけではないが、今の重要な部分はそこではないので、敢えて無視した。


しかしながら、この男は本当にクロエの事を舐めくさっている。彼女の決意も心も、こんなことで揺らぎ、崩れるものだと思っていたようだ。


そう。どんなに苦しかろうと気まずかろうとクロエにはこの立場に立ち続けなければならない、逃げるわけにはいかない理由があった。

3年前に任務で#戦死者__KIA__#判定をされたクロエの親代わりであり元黒騎士団団長であったリード、そしてその親友であり、もう一人のクロエの親代わりであった前任の聖騎士団団長のコール。

彼らは幼い頃からクロエに様々な事を教え、成長する場所、不自由のない生活、そして愛情を与えて慈しんでくれた人。その人達から受け継いだ立場であり、いつかは彼らに返したいと思っている大切な場所だから。彼らの事を忘れて欲しくない。彼らの帰ってこられる場所を守りたい。


彼らの生きた証である自身が活躍すればするほどに彼らが帰ってくる場所を守り続けていられると思っている……思っているのだ。だってそうじゃないと――。


そんな彼女の表情を見て、エルヴィヒは浮かべていた軽薄な表情を顔から消し去る。無表情だった。それに一瞬気圧されてしまう。そうして、綺麗な顔をしているだけに無駄に迫力があるな、なんて考えていたクロエに無予告で特大の刃が浴びせられた。


「……死者の居場所を君はいつまで無駄に守り続ける気だ?」

「っあの人達は死んでなんかいない!!いくら貴方だったとしても、その発言は許しません。早く――早く訂正してください!!!」


死者の居場所。その言葉に一瞬言い返せなくて詰まるものの、それをクロエは見なかったふりをする。それなのに、エルヴィヒは責めるように言葉を放ち、煽る。


「イヤだね。だって傍から見ていても、君がしている行為は滑稽で無意味なんだもん。なんでそんなに必死になるの?過去に縋らずに、事実を認めちゃったほうが楽じゃない?」

「事実?先程と同じことをおっしゃるのであれば、私は軍規違反をしてでもこの場で剣を抜きます」

「お~、怖い怖い。でもそこまで情熱を向けるんならさ、尚更今回の任務は受けたほうが良いと思うよ」

「は?」

「だって、今回の任務はね――」


エルヴィヒに敵意を向けた瞬間、彼は先程までの威圧的な態度をクルリと翻す。霧散したピリピリとした雰囲気に目を見開いていると、エルヴィヒは何もなかったかのように、ケロリした笑顔でクロエの耳元に囁いた。


「君の親代わりである元黒騎士団団長と元聖騎士団団長。彼らの最後の地が今回の任務地だ。……もしかしたら、彼らの最後の痕跡とかが見つかる、かもね?」


――と。

ジェレミー曰く、その時のエルヴィヒの表情は獲物を見つけた悪魔を思わせる程に、歪んでいたという。


先程までの断罪されているかのような重い雰囲気が消えたエルヴィヒの言葉に、クロエは思わず固唾を呑む。予想外の言葉だった。そして急に差した一条の光のような希望だった。だって、どれだけ探しても、あの二人が最後に就いた任務の詳細は掴めなかったのだ。


「知らないからこそ、諦められない。でも逆に知れば、諦めないといけなくなる。どうだい?リオンへの気持ちも物理的に遮断出来て、長年の未練も断ち切れる――かもしれない。一石二鳥の任務だと思わないかい?」

「…………分かりました。この任務、受けます」

「ふふ、良い子良い子」


先程までの態度から一転、手のひらをくるりと返して、クロエは任務を引き受ける。確かに、エルヴィヒの言った事はこれ以上にない程に魅力的な提案に思えてしまったのだ。

彼の敢えて煽るような言い方をした事実と、クロエの大切な人が必ず死んでいるという仮定は気に食わないどころか殺意がわいたが、少しでも彼らに繋がるものがあるのであれば、と、自分を抑え込んだ。

彼の言動によって、感情をぐちゃぐちゃにされて、振り回されているのは分かっていたが、目の前にぶら下げられた、まさにクロエ専用の餌の前では、そんなことどうでもよくなっていた。


ちなみに、エルヴィヒが『良い子』と頭を撫でようと伸ばしてきていた手は、躊躇いなく全力で叩き落としておいた。


手を叩かれた事などなかったかのように、先程まで座っていた椅子から立ち上がったエルヴィヒに任務承認や特例事項に関する書類をスッと差し出される。彼は、これ以上ない程に良い笑顔を浮かべていた。

契約内容だけに軽く目を通して、いつも通りの死亡した場合の手続きやら、国有物を破壊した際に関する内容であることを確認した後に、この憎々しい男の机に穴を空けてやる勢いで名前を書いておいた。


「これで君は後戻りできない」

「別に。後戻りなんてするつもりはもう、ないから」

「ああ……イイね。それでこそ僕が認めた君だ」


思い通りに事が進んで、恍惚とした表情をしているエルヴィヒに対して、至近距離で目潰し代わりにペンを投げつけたクロエは悪くないと思う。勿論、目に刺さる前に止められたが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ