27.
「っなんで、どうして貴女は僕に救われてくれないんだ!!」
「好きだ。好きなんです!だから、この術を解いてください!!」
「一人で、いかないで」
年甲斐もなく、泣きじゃくって懇願する。
しかし、その願いが聞き届けられることは最後までなかった。
『好きなんです』。ずっと素直になれなくて、言えなかったその言葉を口に出しても、聞き入れられることも、返事を貰えることもない。返ってくるのはただ静寂。
結晶と化したクロエの手を握って、リオンは泣き続ける。しかし、突如として先程までそこに存在しなかったはずの声が地下牢に響いた。
「クロエさん!助けに来まし――ってリオンさん!?あー、その今の話は……」
泣き続けるリオンに、どこから聴きつけたのかクロエを奪取しにきたことを誤魔化そうとするシトリー。一瞬でカオスな状況が生まれるが、シトリーはすぐに目の前の異変に気が付く。
「この結晶……クロエさんに魔力がそっくりなのですが――そんなわけ、ないですよね……?」
「…………」
「何故、黙るんですか。否定、してくださいよ」
黙りこくって静かに俯き続けるリオンに、怒りと動揺で半笑い状態になってしまったシトリーが詰め寄る。今にも武器を抜いてしまいそうな勢いだった。
「アンタ、もしかして、クロエさんがこんなことになるのをただ見ていたのですか!?ふざけるな!!」
激昂したシトリーの手が、リオンを殴ろうと大きく振りかぶられる。しかし、それを止める手があった。
「はい、ストップ」
「エルヴィヒ……」
「何?リオン、もしかして泣いてるの~?あはは、泣き顔初めて見ちゃった」
「お前!!――お前が彼女を、クロエさんを説得していれば、思い留まったかもしれないのに!なんだ、その態度は!!何が面白い!!!」
今度はリオンが湧きあがってくる怒りをエルヴィヒにぶつける。シトリーは突然の出来事に一瞬言葉を失っていたが、リオンの泣き顔や言動から、エルヴィヒが全ての元凶だと悟ったらしい。リオンと同じ様に、今度はエルヴィヒに詰め寄る。
こいつはいつもそうだった。リオンの喉から手が出る程に欲しているもの――クロエからの好意をその身に一心に受けながらも、その感情を笑って受け流す。
自身の言葉を、願いを、クロエに最後まで聞いてもらえなかったのが、余計にリオンに心に響いていた。
「何言ってんの?リオン。俺なんかがクロエちゃんに何か言ったところで彼女は聞きはしないさ」
「っお前こそ何を言っている!?クロエさんはずっと、お前の事を見続けていたのに」
「相変わらず、リオンも鈍っいな~。まあ、そう勘違いするように仕向けたのは俺でもあるんだけど。でも君も変なところで自分に自信がなさすぎるんだよね……クロエちゃんとそっくり」
「は?先程から何をふざけたことを――」
「さて、俺はそんなにっっっぶいリオン君達にクロエちゃんを救うための方法を授けに来ました!パンパカパーン!!聞きたい~?」
軽薄かつ此方の言い分を聞かないエルヴィヒに対してイラつくリオンだったが、最後の言葉に目を見開いた。
「助け、られるのですか、この状態のクロエさんを……!?」
「うん。まあ、普通の方法じゃないかつ、リオンも危険な目に遭う可能性が高いけど、それでいいんだ――」
「教えてください」
「へー、内容聞かずにおーけーしちゃうんだ?」
予想していた展開だったのだろう、エルヴィヒがニヤニヤとリオンを見つめる。
いつもであればそんな態度を取られたら、きっと手が出ていたであろうリオンも、今はそんなことに反応している場合ではなかった。
「ええ。彼女のこの状態を治すことが出来るのであれば、なんでもやりますよ」
「……リオンさんの命については正直どうでも良いですが、エルヴィヒ、もし治せなかった場合は覚悟しててくださいね」
「うっわ。怖いねー。でも大丈夫だよ、リオンが失敗さえしなければ、ね?」
「しませんよ、もう二度と」
正直、エルヴィヒの言う事は未だに信用しきってなどいないが、少しでも可能性があるのであれば、そこに賭けてみたい。このままクロエが自分自身を封印してハッピーエンド、なんて結果ではリオンは納得できなかった。




