24.
女に意識を乗っ取られた瞬間、クロエに流れ込んで来たのは、自分が溶け込んでいくような苦しみと、胸が張り裂けたのかと思う程に痛くて、悲しい記憶。
彼女はかつて、この国の二神の内の一柱であった。
名前はフローリア。豊穣を司る女神。もう一柱にして彼女の夫であった男神がいた。彼の名前はゼノス。彼女とは逆に死を司る神だった。
彼女らは今よりも神と人間が近くにいた時代に、この国の始まりとなる人間である初代国王と親友になり、共に国を築いた。親友は先に逝ってしまったが、彼が築いた国を慈しみ、愛し、見守って来た。
しかしある時代の事だ。永く留まれば、それだけ多くの事件にも遭遇する。
流行り病が流行った年。沢山の人間がその病で死んだ時代だった。王都でこんな噂が流れ始めた。『この流行り病の原因は神・ゼノスのせいじゃないか――』と。事実無根だった。当然否定もした。教会の人間達や二柱と交流を持ち続けて来ていた一族は信じてくれたが、それ以外の人間達は……。
そこからの流れは酷いものだった。
まるで#何かに操られているかのように__・__#神々のその国での居場所はなくなっていった。それでも、二柱は反抗するでもなく、大人しくひっそりと姿を消した。国の端に居を移し、穏やかにくらそう――としていたのだ。
けれど、人間達はそんな二柱を放っておいてくれなかった。
『よくも、私の娘を!!』
『俺の妻を返せ!!!お前が全ての不幸の根源だろう!』
返せ!返せ!全てお前たちが悪い!!
きっと虱潰しに二柱の居場所を探し出したのだろう。凄い執念だった。そして襲撃してきた人間たちは、口を揃えて二柱を責め立てる。
そんな中、二柱は逃げようとした。彼らは今は冷静でないだけ。きっと時間が経てば、冷静になって、自分達、神々は何も関係がなかったと理解してくれるはずだ。まだ二柱はかつての親友であった人間と同じ種族の者達の優しさを信じていたのだ。
けれど、その逃げようとした女神の方を拘束する手があった。その姿に息を呑む。それは、その時代の王の手だったのだ。
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・噂を流しのたのは、王族。神を信仰するものたちが邪魔だった。今よりも神を信仰するものが多かった時代。
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そしてその油断して無防備だった身体に異質な魔力を流し込まれたと感じた数拍後。目の前が最愛の血で染まっていた。神を殺せるのは神だけ。
フローリアはすぐに察した。あの人間によって自分は操られ、ゼノスを刺し殺したのだ――と。
慈しんでいたはずの者に裏切られた悲しみ、絶望、そして憎しみがフローリアの身体を支配する。しかし、流し込まれた魔力は、薄れることも、体外に出て行くこともなく、フローリアの身体を支配し続けた。
そして気が付いた時には城の地下に幽閉され、魔力を搾り取られ続ける日々。豊穣を司る神であったフローリアだけは生かされたのだ。
信じていたものに裏切られ、最愛を失った彼女は精神を病み、魔力も黒く染まる。彼女の魔力をふんだんに使い、より豊かな生活を送っていた筈の王都は、いつしか洪水、地震、地割れ、火災などといった前触れなく起こった様々な災いが降りかかった。
災いが女神のせいだと調査で知ると、またしても王族の対応は変化した。ゼノスを殺した挙句、今度はフローリアをも殺そうとしたのだ。しかし、神である彼女は何をしても死なない。それ故に結局、北の地に封印することになったのだった。これこそが、クロエがずっと北の地に来てから夢に見続けていたものの正体であったのだ。




