20.
クロエの魔力が完全回復するまで1週間。
毎日のように『探しに行かなければ』という焦燥感に駆られながらも、クロエはそれを堪え続けた。そうしてやっと今日、魔力が全身に満ち溢れるいつもの感覚が完全に戻ってきたのだ。
ここ1週間、クロエは魔物と対峙した時の事を考え続けた。戦った直後は、予想外の出来事に混乱していたこともあり、そこまで気が回っていなかったが、リードと共にいた魔物はきっとコールだ。結界石が魔物に埋め込まれていた事や魔物達の戦法、そしてなによりもあの時の遠距離戦を主体とした戦い方からしても、それはほぼ間違いないと確信している。
正直、あの状態のリード、そしてコールと再び対峙したとして、自分がどうするのか――どうすればいいのかなんて、クロエにはわからない。彼の意志が残っているのかも、彼らが殺して欲しくない……救って欲しいと思っているのかも、それとも魔物になるくらいなら殺して欲しいと思っているのかも、分からない。
いざ対峙して、どんな選択をしたとしても、きっと後々クロエは後悔するのだろう。
「行こうか、クロエちゃん」
「ええ」
確実に絶望へ続くであろう、エルヴィヒのその手を取った――。
***
今回は戦闘員のみで出発し、探索をしていく予定だ。前回とは違い、全員分の対瘴気用の簡易結界を持たせているので、瘴気が溢れる場所に行っても体調が悪くなり、動きが鈍るようなことはないだろう。
前回の探索時に張った結界のお陰で湖までのルートは何事もなく、すんなりと進むことが出来た。しかし問題はここからだ。魔物と化したリードとコールは、いつ、どこから出現するのかは分からない。だから、一瞬たりとも気を抜かずに探索を続けて行った。
「……あんなデカい樹、前回あったか?」
そうして歩き続けて数時間。針葉樹が多く生える森を歩き続けて疲労が少し溜まって来たところで、今までとは雰囲気が全く違う場所に辿り着いた。いきなり目の前に急に現れた大きな樹。近づいてみると、天まで届いているのでは?と思えるほどに、背が高く、人が何百人も入れる程に外周も長かった。そしてそこにポッカリと人間が入れるくらいの大きな穴が空いている。
中は空洞になっているのは分かるが、光が全く入らなく、暗かった。外からは中に何があるのか、何も見えない。静かな――だけれど感じたことのないほどに強大な魔力が満ちる真っ暗闇が口を開けて、そこにただ存在している。
皆一様に固唾を飲んだ。誰も一歩を踏み出そうとしない。それほどに異常な空間だった。
これだけ強大な魔力を保っている空間なのに、何故こんなにも近くにくるまでは、#大樹__これ__#に気付くことが出来なかったのだろう。否、クロエにはその答えが分かっていた。これはきっと、自分達がこの場所に#引きずり込まれた__・__#のだ。
こんな危険な場所にずっと留まっているわけにはいかない。誰も進もうとしない中で、最初に一歩を踏み出したのは、やはりクロエだった。それにつられて、まるで拘束が解けたかのように全員が進み始める。どうせ進んでも進まなくても、待っているのは地獄だ。
「照らせ、光塊蝶」
クロエは光塊蝶と呼ばれる光魔法で出来た蝶を周囲に飛ばす。簡単な白魔法である。それによって、周囲にまるで昼間のような光が満ちた。
しかし、その照らされた光景に対して、クロエを含め全員が緊張に身体を強張らせる。
魔力の濃度が濃過ぎて分からなかったが、一番魔力が濃い中心、この空間の奥にある見上げる程に大きな結晶の横、そこに前回会敵した二体の魔物――リードとコールであろうモノ――が結晶に跪くようにして鎮座していたからだ。
しかしきっとこの空間で一番衝撃を受けているのはクロエだろう。大きく、背の高すぎる結晶の中身はなにも入っていない状態ではあるが、これは、この結晶のある空間は、以前視た夢の光景を彷彿とさせた。偶然というには、あまりにも#似すぎている__・__#。
恐怖で足が竦む。クロエの本能がとにかく、あの結晶にとにかく近づきたくないと叫んでいた。けれど、行かなければ、二人に近づくことができない。でも、怖い。今まで感じたことのない程の恐怖がクロエに襲いかかっていた。彼女はとにかく、場の魔力と雰囲気に圧倒されていた。
そう、クロエが恐怖に震えていると、横から声が掛かる。
「クロエ!!俺たちがお前を守る。だから、その間にまずは瘴気をどうにかしてくれ!アイツらの動きを止める」
声をかけられるまで気が付かなかったが、いつの間にか魔物化したリードとコールが立ち上がる。そしてこちらに物凄いスピードで迫り、攻撃を仕掛けようとしてきていた。
この中でエルヴィヒ以外で唯一、あの魔物がリードとコールだと知っているジェレミーがクロエを気遣い、声を掛ける。それでなんとか正気を取り戻すことができた。とりあえず動きを止めない事には、何も出来ない。
前回エルヴィヒから渡された杖を取り出す。そうしてまずはゴチャゴチャ考えずに、目の前の瘴気を払うことだけに集中した――。




