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好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します  作者: 皇 翼


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13/39

13.

「さっむ……」


拠点から出る前に断熱系の作用がある魔法式を予め組んでおいた戦闘用の鎧に身を包んでいても、服から出ている部分に凍りそうな程の冷気が突き刺さっていた。今日の目的としては、現在の拠点から聖石の採掘スポットである湖周辺までの安全なルートの道を改めて確認、そして出来たら確保することらしい。まだ先にやろうと考えていた事だが、エルヴィヒの思い付きによって、今日やることになったのだ。

しかしながら一応、ルート確保後の経路に張る結界を維持するための魔道具はエルヴィヒが用意していた。最低限やるべきことはやっていたらしい。

これは非戦闘員である採掘員の代わりが来るまでにやるべきことの内の一つであるので、今回の任務の責任者としては当然と言えば当然だが。


「ほらほら、クロエちゃん!さっさと進んでよ~」

「背中を押さないでください。というか、そんなに速く進みたいのであれば、貴方が先頭に立てば良いでしょう」

「ええー。俺、そもそも後方支援の方が得意なんだもん。でもクロエちゃんは、接近戦も遠距離戦も出来るでしょ?だから一番前を#譲ってあげてる__・__#んだよ!」

「……貴方、後方支援が得意などと言っておいて、最低限の接近戦への対応くらいは余裕で出来るでしょう。何を寝ぼけたことを言っているんですか」


クロエはエルヴィヒの自分勝手な言動に呆れる。

彼が無理矢理クロエを指名して且つ連れ出しておいて、この言い様だ。しかも後ろからグイグイと押してくる。

要は敵が出た時の盾になれと言っているのだ。この男は。確かにクロエは彼女の天賦魔法である物体顕現によって、様々な武器を産み出す。接近戦では剣を顕現させ、リーチが欲しい時は槍や大鎌、遠距離戦をしたい時は銃や弓などなど。どんな的にも対応できることを目標年、能力を最大限生かすために、どの武器も扱えるように散々訓練してきたのだ。

しかし、だからと言って堂々と盾にするなどと言われて気分の良い者はいないだろう。それ故にジェレミーも彼と一緒に行動することを嫌がった。きっとクロエよりもエルヴィヒと任務が被る事の多いジェレミーは盾扱いされた回数も確実に多いはずだ。


「でも実際、魔法ありきの接近戦となったら、俺を含め君に勝てる人は少ない」

「否定はしません。それだけ努力をしてきましたから」

「ってことで!盾役よろしくね!!」


その言葉と同時に肩を軽くポンと押される。それと同時に全速力で前に走り出した。

拠点からついて来ていた5人の騎士達もクロエとエルヴィヒの行動によって、すぐに察したのだろう。クロエをサポートするように遠方にいる敵に向かって魔物を狩るための陣形を取った――。


***


「確かにこれは……非常に厄介な任務ね」

「ああー、久々にちょっと死ぬかと思った~」


クロエは自分の思考の甘さを少しだけ呪った。『連携の取れた闘い方、そして行動をとっている』なんて話どころじゃない。これは、この魔物達はまるで――。


「軍隊だ」


クロエと共に前衛を務めていた騎士の内の一人が呟くように言った。

そうなのだ。この魔物達はまるで騎士などの軍に属する人間のような立ち回りをしている。

それに何故だか、この魔物達の戦い方、罠の張り方はとある人物を思い出させた。コール=デビアックス。クロエの恩人であり、前任の聖騎士団長が取っていた戦法をどことなく思い出させるそれらの戦略。

一個体一個体の強さもさることながら、戦略によってより有利に事を進める。

団体戦の強みもふんだんに生かしている。戦略は正直対魔物とは思えないほどに見事なものだった。それに比べてこちらは敵に執拗に狙われ続ける遠距離戦型の戦士を前衛がずっと庇いながら戦い続けていたという防戦一方の戦い。いくらエルヴィヒの思い付きで出撃し、作戦もクソもなかった状態だったと言えど、対魔物戦にも関わらず今回はかなり苦戦した。

この辛勝では、死者や重症者こそ出ていないが、味方全体の不安感を煽られたのを感じる。


「一旦、引きましょう」


その言葉に反対する者はいなかった。

しかし、外に出て何の情報も掴まずに帰るわけにはいかない。

先程まで戦って、既に斬撃で息の根を止めた魔物を軽く背負う。拠点にいるジェレミーの部下の白騎士で解剖や解析系の魔法を得意とする者がいたことに思い当たったからだ。大体クロエよりも少し小さいくらいの大きさなので、背負うと服や髪の毛は血だらけになるが、情報がない状態よりはマシだった。しかし、そんな様子にドン引きという表情を隠さずに話しかけてくる者がいた。


「うっわ、クロエちゃん……ソレ、持って帰るの?」

「少しでも情報が欲しいので。この魔物達、変な魔力の流れをしていたから」

「へ~、俺は特に何も感じなかったけど」

「その魔物達、僕も変だと思っていました。なんだか妙に、その硬かったんですよ。透明の膜があるみたいというか……もしかして、副団長は感じなかったのですか?僕ですら気付いたのに」

「……ロッテ君。君、中々生意気だね」


ロッテ君と呼ばれた青年がビクリと身体を跳ねさせた。ビビるくらいだったら、煽らなければいいものを。

そしてそのままエルヴィヒに追い回される。エルヴィヒを軽く叱りながらもサンプルは多い方が良いかと考え、もう一体息絶えている魔物を背負う。魔力で筋力を強化していることもあり、それなりの重量の筈だが、大して重くは感じなかった。


「俺も二体ほど背負っていきます」

「ありがとう……えっと――」

「クレハです」

「ありがとう、クレハ」


先程、ロッテの発言に深く頷いていた騎士が共に魔物の死体を持って行ってくれるようだ。エルヴィヒとは違い、クロエの行動の理由をきちんと理解し、死体を極力傷つけないように持つ。サンプルは多ければ多い程に良いものだ。

クレハはきっとかなり優秀な人間なのだろう。常に周囲をきちんと警戒しており、魔力なしで重いものを背負っているにも関わらず、身体の軸が安定していた。

ちゃらんぽらん且つサボり屋のクズ野郎といえど、黒騎士の副団長を務める者のお眼鏡にかなっただけはあるのだろう。ロッテだけでなく、このクレハも微力な魔力の変化と少しの滑るような感触だけで察していたらしいということが軽く話していて分かった。彼もかなり勘が良いとクロエは思った。

他の者たちとは違い、敵の情報がより分かりやすい接近戦という利点を考慮しても、である。そこまで考えて思った。このエルヴィヒという男は一応、人を見る目だけはあるのかもしれない。


最終的にクロエと騎士の二人の姿を見たエルヴィヒ以外の全員が魔物の死体を背負って帰るという一般人が見たら、ギョッとするような光景を白銀の世界で見せつけながら、拠点に帰ったのだった。

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