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好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します  作者: 皇 翼


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12.

柔らかく差し込む陽の光、頬を優しく撫でる風、柔らかい草のベッド、そして隣には最も愛しい彼がいる。

微笑みかけると、彼も微笑み返してくれる。それだけで、幸せだった――。ただただ穏やかで幸福な時間。永遠に続けば良いとすら思うほどに大切な、優しい時間。


しかし、そんな幸せな風景は一瞬のうちに切り裂かれる。世界は赤黒く染まり、どこからともなく聞こえる人々の怒号、叫び声、そして痛いくらいに向けられる敵意。

目の前の愛おしい彼の身体に鋭い刃が突き刺さる。『え?』と声を出した時には自分が何を仕出かしたのかを自覚した。刺したのだ。自分の白銀の刀身が彼の事を刺し貫いたのだ。先程までの意識がボーっとしていた感覚が抜ける。そして喉が裂けるのではないかと思う程に叫んだ。


貫かれ、倒れ伏す彼の身体を支えて、すぐにでも治癒魔法を施そうとするのに、自分の身体は地に張り付けられたように動かなかった。下半身を見てみると自分も同じ様に何かに貫かれていた。痛みなど気にならないくらいに彼の事を求め、藻掻く。自分の身体はどうなってもいい。せめて、どうかその人だけはコロサナイデ。

#==

→ここの描写、操られて、男の方を殺してしまったという感じでも良いかも。んで、その贖罪のために眠り続けている。

==#


「――――」


誰かの名前を呟いた瞬間にハッと目が醒めた。

長距離を全力で走った直後のように息は上がり、背中にはびっしょりと汗をかいている。衣服が張り付いてくるのが気持ち悪くて仕方がない。

しかし、クロエにはそれ以上に気になることがあった。


「また、この夢……」


そう。クロエはここ最近毎日のように同じ夢を見ていた。隣にいた筈の大切な誰かをナニカを自分の手で刺し貫き、失う夢。まるで半身をもがれたかのように、苦しい苦しい、そんな夢。

しかし、夢の中の『自分』が自分でないことも、隣に居た筈の大切な誰かが面識のある誰でもない事も、クロエは同時に理解していた。

この地に来てから妙な事ばかりが起こり続けている。それに微かな不安を覚えながら、クロエは朝の準備を始めた。


***


「さて、今日は現地調査に行くよ!」

「エルヴィヒ様、またいきなりそんなことを言い出して……」

「俺がそう決めたなら、もう決まった事だ。だって、このチームのリーダーは俺だからね!!」


簡易的に修復された食堂にて。決して美味しいとは言えない騎士団の支給品を漁り、さて昨日の続きである書類仕事にとりかかろう――というところで、エルヴィヒが大声を張り上げる。それに困らされているのはジェレミーだ。クロエは遠くからそんな二人のやりとりを仕事の準備を始めながらボケっと聞いていた。


エルヴィヒが思い付きで事を進めるのはいつもの事だ。

きっと今日もジェレミーと他の何人かの騎士が巻き込まれて、疲れ果てて帰ってくるのだろう。自分には関係ないとと、初日に起こった事をまとめた報告書の作成に手を付けていたところで急に腕を掴まれる。


「なーに、自分は関係ないって顔してるの。クロエちゃん」

「……放してください」

「イーヤッ!」


無理矢理振り払おうと腕を自身の身体の方に引こうとするが、男女の力の差というものだろう、振り払うことが出来ない。子供みたいな言動のくせに無駄に拘束力が高い。力で勝てないのであれば、正当な事実を突きつけてやろうとクロエは思い、仕方なくエルヴィヒの方に向き合った。


「私には既にやらないといけない仕事があるんです。貴方に付き合ってられません。ジェレミーを連れて行ってください。ジェレミーがついて行きたそうに、こちらを見ていますよ?」

「ジェレミー君だけじゃダメなんだって。#書類__そんなもの__#なんて、その辺で暇そうにしてるやつに任せてさ、俺と一緒にいこーよー」

「死人が出た場合の報告書作成は副団長以上の人間がやらないとダメという規則を忘れたのですか?これらは昨日、貴方が私に押し付けて来た仕事なのですが?」

「仕方ないな。ジェレミー君!」

「……はぁ、分かりました。クロエ、俺からも頼む」


エルヴィヒに顎で使われたジェレミーは作成しようとしていた報告書を横から掠め取り、クロエを立ちあがらせる。エルヴィヒはこういうところだけは無駄に王族らしい。何がなんでも自分のやりたいことをやるし、自分の進めたい方向へと全てを進める。有無を言わせてくれない。

クロエも別に外に行きたくないわけではないのだ。だって、外に出さえすれば、任務を隠れ蓑にして、彼らの痕跡を探しに行ける。だがしかし――。


「レミー……貴方、私にこの面倒なことを押し付けるつもりでしょう」

「ん?なんのことだ?俺はエルヴィヒ様の事を煩わしいだのウザいだの、自分勝手でぶち殺したくなるだなんて一度も思ったことはない。だからクロエに押し付けているなんてことあるわけないだろう」

「うわ、ジェレミー君こっわ」

「俺を怖いだなんだという前に、自分の行動を見つめ直してみては?まあ、そんなどうでも良い事は置いておいて、さっさとクロエと出かけて来てください。貴方が言い出したのですから」


そう。エルヴィヒと一緒にというのが嫌だった。彼と一緒に出れば、面倒なことを押し付けられて、調査どころじゃなくなることは目に見えている。エルヴィヒのやる気のある今日は敢えて引いて、せめて彼と別日に……と考えていたのだが、そうとはいかないらしい。

クロエはジェレミーに売られ、エルヴィヒに引っ張られて、強制的に外に出されたのだった。


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