19話 〜墜落〜
翼を羽ばたかせる訓練を終えた私は、アスピアと一緒に空を飛ぶ訓練をすることになった。
空を飛ぶ……そのために1ヶ月間努力してきたんだ。絶対に飛んで見せる!
そう私は息巻いていた。
本当の"修行"が始まるまでは……
「よしっ、じゃあこっから飛び降りろ!」
ネロニアさんはそう言う。
ここはあの崖山の頂上。
地面とは、30mはくだらない差があると思う。
えっ、鬼?
翼が動くからって飛べるわけじゃないんだよ!?
死ぬよ!?
「待ってください! まだ死にたくな」
「いいから行け!」
そう言って、私は背中を押される。
足が地面から離れた。
悪魔〜!
ムリムリムリムリ!
待って!? まだ死にきれないの!!
まだ、アスピアにありがとうも言えてないのに!?
地面が近づいてくる。
翼を使ってもがくけど、全然抵抗力は生まれない。
こんな時だからか、心臓が鼓動する音がはっきり聞こえてくる。
私は目を閉じて死を覚悟した。
瞬間、私は強い衝撃を感じた。
地面に衝突したのかと思った。
でも、痛みはない。
むしろ浮力を感じる。
私は目を開けた。
「ファーシア、大丈夫!?」
前には快晴の空が広がる。
私は今、空を飛んでいる。
そして、隣にはアスピアがいる。
彼女が私を救ってくれたのだと言うことが、考えなくてもわかった。
彼女の体温が伝わってきて、少しだけ安心する。
ちょっと、……惚れるというより、憧れちゃうかも。
そう思ったと同時に沈む。
……あれ?
「ごめん! 30秒が限界!!」
えっ? それはつまり〜〜
「「うわぁぁぁぁ!」」
私達は絶叫を上げながら落ちていったーー
「お師匠様!! なんて危険なことするの!? もう少しでファーシアが死ぬところだったじゃない!!」
「いや、お前が助けてやってくれると信じてたから……」
「信じてたからじゃないの! もう当分なでなでさせてあげない!!」
「そ、そんなぁぁ……」
あの後、山の麓まで降りた。
ネロニアさんはアスピアによって裁かれていた。
アスピアからしてもこれは非常識だったらしい。
「そもそもなんであんな高さ飛び降りさせたの!? 私の時は、もっと低いところから飛び立つことから始まったじゃないですか!」
「ア、アスピア? それはな? ちょっと個人に合わせてと言うか、効率的に成長させるためというか……」
ネロニアさんは土下座しながら言った。
「個人に合わせてってどう言うことですか?」
私はネロニアさんにそう聞いた。
だって、そろそろ私が口を挟まないととアスピアがガチギレするような気がして……
「よ、よく聞いてくれたファーシア! それはお前の羽の形から判断して……」
「羽の形?」
私は疑問に思う。
天使の羽に個人差なんてあるの?
「アスピアの羽はキジみたいに飛び立つのに向いているが、ファーシアの羽はハヤブサみたいに空気を切り裂くタイプでな? 飛び立つのに時間がかかるんだ。初速が出ないから、いきなり空を飛び立つのはと思ってな?」
「なるほど、だから飛び降りさせたんですね! ってなるわけないじゃない!! 命をなんだと思ってるんです! せめて私と同じように低いとこから始めるとか!!」
ネロニアさんは、アスピアに反論されて黙ってしまった。
「もう、お師匠様にファーシアは任せられないわ! いきましょ、ファーシア!」
彼女は私の手を引き、山の方へ向かっていった。
「ある程度形になったら見せるから、それまでは自重しててよね。」
もしこれがアニメなら、ガーンって効果音が鳴りそうな顔をしてネロニアさんは崩れ落ちた。
「ファーシア! まずは飛び立つとこから始めましょ!」
アスピアはさっきまでが嘘のような笑顔で言った。
「最初は私を見ててね!」
そう言うと、彼女は地面を蹴り上げ、羽ばたく。
そして、私の周りを一周飛んでみせた。
「次はファーシアがやってみて!」
彼女の言う通りにする。
身体の重心を前よりにする。
そして、羽を広げる。
脚に力を込めて、ジャンプ!
そして翼をばたつかせると……
私はそれを実践しようとするけど、うまくいくわけもなかった。
「それで……ジャンプ!」
私は勢いよく地面を蹴り上げる。
すると……
「待って待って待って!? 高く飛びすぎた! 待って、助けてアスピア! 私死んじゃう、死んじゃうって!」
多分、20mぐらいは跳んでいた。
アスピアが受け止めてくれなかったらどうなっていたか……
「一応、跳躍力を高める訓練じゃないんだよ。力加減の調節を意識して!」
私は足の力を弱める。
そして、今度こそちゃんと跳ぶ。
広げた翼で羽ばたく。
一瞬、私は背中から浮かんだ。
ふわっという感触を感じたその瞬間、今までとは世界が変わったような気がした。
人間の頃、飛行機にも乗ったことがなかった私には新鮮そのものと言える体験だった。
私、今浮いてるーー
でも、すぐに落ちる。
2回目羽ばたいた時に、空気を掴みきれず重力が勝った。
そして前傾姿勢だったこともあり、私は手から着地することになった。
少し擦りむいて痛い。
でも、手を擦りむく程度で済んだ。
天粒の量が増えているのかな?
「ファーシア大丈夫?」
アスピアが心配してくる。
「大丈夫、大丈夫。それより、どうだった?」
私は彼女に聞く。
今後の練習の為にも、ポイントは押さえておきたい。
「えっとね〜。ファーシアの場合、力が入りすぎてると思う。」
「力? あっ、羽触ろうとしないで…」
彼女を制止ししつつ、そう尋ねる。
「まずね? お師匠様の言ってたみたいに、ファーシアの羽は空気を切り裂くの。」
手でズバッとするジェスチャーをしながら言う。
「多分、勢いよく羽ばたくより、ゆっくり、確実に空気を捉えるところから始めたらいいと思う。」
なるほど、なんとなくわかった。
「よし、もう一回やってみよ!」
私は彼女の言葉に頷く。
初めの第一歩は好調と言ってもいいかもしれない。
なんとなくだけど、そんな気がした。
多分、今のファーシアの翼の大きさは白鳥ぐらいにはなってる?
少なくとも修行開始時よりかは大きくなってる。




