正義
「一体どうして盗んだりしたんだ?」
山谷は子供に問いかけた。
「…」
だが、子供は沈黙を貫いていた。
「はぁ、どうしたらいいんだ。」
山谷は完全に手詰まりの様だ。気づけば山谷はこちらを向いていた。いや、ガン見していた。
(助けて…)
「うわっ」
そう、あくまで幻聴だ。幻聴だが、しっかりと山谷の口から助けてと聞こえた様な気がした。いや、実際に言っていたのかも。
「ま、まぁ、その辺にしてやれよ。」
「でもよ、今言っとかないと後から何か起こしたらタダじゃ済まないぜ。」
それもそうだ。今の日本は戦時中。深刻な食糧不足に襲われ、今日食べるのでやっとだ。まあ、軍人は別だけど。仮にこの子がもう一度盗めば、今回の様なことはいくらでも起こりうる。そして次も俺らみたいな助け舟が出されるかどうかは分からない。最悪命を落とす可能性が高い。
「大丈夫。何とかなるから。」
「?…どゆこと?」
「まぁまぁ。着いてこいって。」
俺は山谷についてくる様促した。
「お前もこい。お前の未来に関わることだ。」
「?」
俺は二人を連れ、歩き出した。
「ここか。さっきの男の店は。」
いや、店じゃないな。この感じ。
「ん?」
この店の前に立った途端、子供が震え始めた。一体どれほど痛めつけられたのか。よく見れば痩せ細った体に複数の青あざがある。殴られたあとだろうか。だが、今はこれを言っても仕方ない。今は…
「ごめんくださーい!」
「!!」
「はいはい」
奥から低く、力強い声が聞こえた。そして男は姿を現した。先刻この子供を襲った男と同一人物だ。
「またお前らか。とっとと帰ってくれ。」
店の中は商品は置かれておらず、普通の店に近い感じだった。
「いえ、帰れませんよ。あなたが自分から言うなら今回は罰を与えません。どうしますか?」
「!?…は、はぁ?何を言っているんだ?俺は何もしていないが。」
「では、罪を認めなかった。上層部に報告させていただきます。」
「うっ、」
先程まで堂々とした態度だった男が一変、同様の色を隠せない。瞬きの回数が多くなり、額には汗を浮かべている。
「では、俺が真相を話しましょう。」
俺はそう言い、奥の扉が閉まっている部屋に向かった。
「通りでおかしいと思ったんですよ。子供が痩せ細る。そんなことは起こらない様になってるんだよ!」
俺はそう言い、扉を強く開いた。
ガラッ!
すると奥からは、麦のいい香りが漂ってきた。
「!…この匂いは!」
「あぁ、見てもらったら一目瞭然だが、これは国から支給された非常食。備蓄米だよ。」
「備蓄米だと!?あれは国民全員に行き渡ったんじゃ…」
「んな訳あるか。世の中にはな、自分のことしか考えないそこの男の様な奴がいるんだよ。」
「お前がこの子を痛めつけて恐怖させたのは、商品が盗まれたからじゃない。備蓄米がここにあることがバレるかもしれなかったからだろ?」
「チッ、全部お見通しか。」
「おい、そこのガキ、ちょっとこい。」
俺は子供を呼んだ。
「お前に頼みたいことがある。」
「?」
事件の犯人発覚!刀児が子供に頼みたいこととは。次回乞うご期待。