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「なるほどね。じゃあ王都の噂は俺が担当するよ」

「わかった。じゃあ私は……ぅぅ……出来る事と言えば婚約誓書を神殿へ届ける事くらいか…私よりジョイの方が有能過ぎて……兄としての立場がないな…」


 呼び出され、エリューシアから話を聞かされたアッシュとジョイだが、現在2人で相談中である。


「え? 何それ…兄さんは兄さんだよ。俺にとって大事な家族なんだから、そんな寂しい事言わないでよ。

 だけど…そうだね。邪魔が入らないうちに届け出てしまった方が良いと思う」

「やっぱりジョイもそう思う?」

「うん。

 あ、旦那様、予備の誓書って何枚複製してあるんです?」


 突然ジョイに話を振られたアーネストだが、どうやら珍しい事ではないらしい。アーネストが苦笑交じりに答えた。


「神殿への提出用と、うちとベルモールにそれぞれ1通ずつ、後は念の為に余分に1通複製するようにしたよ」


 婚約誓書は通常、この国では魔法契約が用いられる事が殆どだ。

 それと言うのも、貴族の場合、常に王都に居る訳ではなく、それぞれ領地に居たりする場合もある。以前は誓書へのサインをする為だけに王都へ赴く等が必要だったのだが、魔法契約が用いられるようになってからは、その手間が省けるようになったのだ。

 離れた場所でサインをしても、最初に作成した用紙全てにリアルタイムでサインが可能なのだ。

 便利になったものだと、つくづく思う。

 こういう部分は魔法のある世界だからこそなのだろうが、前世日本より便利かもしれない。

 とは言え反対に不便だったり、思わぬ不都合が多かったりするのも事実だが…。


「じゃあ予備は俺が預かっても良いですか?

 あんまり国内の神殿って信用出来ないんですよね……。無事受理されれば予備分は消え去るでしょうし、そうでないなら……最悪主神殿まで走りますよ」

「あぁ、そうだね。悪いが頼めるかい?」


 婚約や婚姻他、神への誓書は自国内でなければならないと言う決まりはない。

 ちなみにジョイが口にした『主神殿』と言うのは、神々の総本山とも言うべき場所らしく、誰もが気軽に訪れる場所ではない為か、神官も誰も居ない所だと言う噂もあるらしい。

 何はともあれ、神に認めて貰う契約の場合、提出する場所が何処であろうと問われる事はないのだ。


 アーネストが予備の誓書を、確認してからきっちり封をしたうえでジョイに手渡した。

 神殿へ本来提出する分は、既にアッシュが持っている。


「旦那様……それは…邪魔してくると思ってらっしゃる?」


 セシリアが少し不安そうに訊ねてきたが、それに答えたのはアーネストではなくエリューシアだ。


「グラストン閣下は御自身の御嫡男と、私達との顔合わせを御希望なのですよね?

 私かお姉様どちらか、なのかどちらとも…なのかはわかりませんけれど」

「ぇ? ぁ、えぇ……でも断るつもりよ?

 だって貴方はこうしてクリスと婚約が成立したし、シアだってもう……キャドミスタ辺境伯の方も乗り気だもの」

「だから…ですよ。

 阻止、邪魔をしたいのであれば、最早提出のタイミングくらいしか狙い目がないでしょう。


 神殿は、過去…王家に従って、伯父様を療養の名の下に監禁した実績がありますからね。国内の神殿が王弟殿下に従って、受け取り拒否、受理拒否をする可能性がないとは言い切れません」


 エリューシアの言葉に、セシリアが眉間の皺を深くした。


「でも……今更そこまでするかしら…」

「『今更』だからこそ警戒はしておいたほうが良いかと…。

 私はシャーロット様は兎も角、グラストン閣下には御会いした事がありません。お父様、お母様、そして彼の話から想像するしか出来ませんが、聞くに思い込みの強い方のような……」

「エルルの言う通りだね。

 リムジールは良く言えば真っすぐで一途。だが悪く言うなら融通が利かない、思い込みの激しい石頭とも言える。

 あいつの意見や思考、それに伴う行動他には、これまでも随分不快且つ苦い思いをさせられたからね」


 実際、リムジールが庇わなければ、アーネストの妹ロザリエ死亡に端を発する一連の事件は、違った結果となっていたはずだ。

 当時彼は事件を調査し、突き止め、兄である元王ホックスを糾弾はしてくれた。だが、国内情勢が不安定になる事を忌避し、何より王家の安泰に重きを置いた結果、元宰相ザムデンの隠蔽が成るのを許してしまった。


 セシリアは兎も角、元々リムジールやシャーロット達王家に関与している者とは距離を取っていたアーネストからすれば、苦々しい事この上ない。

 安易な言葉になってしまうが『嫌い』なのだ。

 もっとはっきり言うなら『大嫌い』で『視界に入って来るな』とも思っている。

 シャーロットと仲の良いセシリアが気にするから、あまり口にした事はないが、それがアーネストの正直な気持ちだった。


 だが、現在沈痛な面持ちになっているのはセシリアだけではなかった。

 クリストファも養子に出たとは言え、リムジールは一応は実父なのだから沈み込んでしまうのも仕方ない。


「ま、まぁ……セシィもクリスも…全ては『念の為の用心』と言うだけだから。

 ほら、2人共……あ~、そうだ。

 覚えてるかい? エルルに竜心石を持ち込んでくれた冒険者達…彼等がまた土産を持ってきてくれたんだ。

 後でお茶でもしながらお披露目といこう。

 とりあえず重い話は一旦終わりだ」


 沈んだ空気を払拭するように、アーネストが明るく言う。

 その言葉にセシリアも肩の力を抜いて、弱く微笑んだ。クリストファも自分の頬を手で揉んでから苦笑しつつ立ち上がった。


「あ、エルルは少し残ってくれるかい?」

「旦那様?」


 とってつけたように言うアーネストに、退室しかけていたセシリアが振り返って首を傾ける。


「ぁ、いや、た、大した事じゃないんだ。その……だ、な……ベルクの印象を……あぁ、もう見逃してくれ。

 アイシアを預けるに足るか、エルルの視点も今一度聞いておこうと思っただけで……」

「まぁ、本当に旦那様は……わかりましたわ。

 それじゃ私はお茶の準備をし始めますわ」


 そう言ってセシリアは笑って退室していった。

 クリストファもそれに続く。


「それじゃ僕も…お茶までに手紙の返事を書いてしまうよ。

 ぁ、エル……出来れば…ベルクの件は手加減してやってくれると…」


 クリストファにとってはベルクも数少ない友人なので、一応援護射撃だけはしておこうと思ったようだ。


「わかってるわ」


 握っていた手を名残惜しそうに手放して、クリストファも退室していった。


「それじゃ俺も出発します。

 何かあったら何時ものように、で」

「では私はこの後直ぐ神殿へ行ってまいります」



 ジョイとアッシュも見送り、室内にはエリューシアとアーネスト、そしてハスレーだけとなった。


 扉が閉まり、室内に沈黙が落ちてくる。

 それを破ったのはエリューシアだった。




「それで?

 何のお話しでしょう?

 聖女……あぁ、前世には面白い話があるのですが、そのお話ですか? それとも何か企みます?」


 エリューシアは伏し目がちに、口角を微かに上げる。

 少女がするには凄絶すぎる表情だが、アーネストはそれに肩を竦めて苦笑を返した。



「やれやれ、私の愛するお姫様は察しが良くて助かるよ」







ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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