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今回は『死』に繋がる言葉や表現が多く出てくるだけでなく、グロい表現も出てきますので、どうか御注意ください。

苦手な方々には、どうぞ自衛下さいますよう、お願い致します<(_ _)>



 撃ち抜かれたヴェルメは、首を傾げたように見えた。

 実際に顔がある訳ではなく、幾つもの花弁の中に蠢く眼球が、コテリと傾いだだけだ。

 自身に何が起こったのか理解出来ていないのだろう。


 だが、次の瞬間、ヴェルメは自分の身体に穿(うが)たれた穴が、蟻の一穴になった事を察したようだ。

 声にならない不協和音の音の奔流が、その場に居た者達の脳内に押し寄せる。

 音の波が脳を締め上げ、痛みを(もたら)すが、それも徐々に収まって行った。


 怨嗟を滲ませた触腕の先端から、コマ送りの映像の様に見る間に乾いて、茶色い塵となって崩れ落ちていく。

 そして音もなく散り枯れた。


 それと同じタイミングで、醜悪な花々を開花させていた人々の身体も、大半は崩れ散り、何時(いつ)か見た茶色い染みに変わり果てていく。

 影響もしくは支配の深度差か…何が理由かはわからないが、上半身だけが崩れ消えた者や、半身を失って死に絶えている者等、その死に様にはかなり個人差があった。

 その中で、顔が損壊せず残っている者は、本当に哀れに見える。

 干からびて木乃伊(みいら)のようになって尚、苦悶の表情を浮かべたままと言うのは、やるせなさすぎて胸が痛い。



「……っ…」


 鼓膜に届いた音に、エリューシアがハッと顔を上げ、音源に急いで駆け寄った。


 

 微かとは言え、息が残っているのが不思議なくらいだ。

 法衣をベースにした色とデザインで、そこに同色のレースと金刺繍が丁寧に施された華やかで美しかった衣装は、乾いて酸化が進んだ血液によって、黒く変色しかけていて、まるで喪服へ転じようとしているかのように見える。


 アヤコは震える手を、エリューシアに向けて伸ばそうとしていた。

 いや、『誰かに』と言う訳ではないのかもしれない。

 何故ならその落ち窪んだ眼窩の奥の瞳は、どろりと白濁していて、ちゃんと見えているとは思えなかったからだ。


 エリューシアは、傍らにそっと屈み込む。


「……あや…ちゃん…?」


 つい、彼女がアルバイトしていたらしいコンビニの店主の呼び方を踏襲してしまった。

 前世ではエリューシアの方が年上だった訳だし、『ちゃん』呼びに抵抗がなかったので出てしまったのだが、その声はしっかり彼女に届いていたらしい。

 アヤコは微かに目を見開いて、探すように指先を動かそうとする。


「あやちゃん……」


 掛ける言葉が見つからず、小さく名を繰り返した。

 アヤコはホッとしたように肩の力を抜いて、ひび割れた唇を懸命に動かそうとする。


「……………」

「ぇ……? 何?」

「…………し…ぇ……………ん…ぁ」


 小さく掠れた声を何とか聞き取ろうと、アヤコに耳を近づけたエリューシアは目を瞠って固まった後、クシャリと顔を歪めた。


『あたし、帰ってこれたんだ』


 耳に届いた言葉は、一部欠けてはいたが、恐らく間違っていない。

 それを聞いた途端、エリューシアは自身の激情に押し流されそうになった。

 沢山の命を吸い上げ殺した癖にと言う怒り。

 これだけの事をしでかしておきながら、罪の意識もなく、謝罪もないままかと言う憤怒……けれど、何故だろう、とても痛い……痛くて悲しい。

 自分でもよくわからない感情のまま、エリューシアはその頬を涙で濡らした。


 泣き濡れるエリューシアを虚ろに映す濁った双眸は、瞼を半分落としたまま動かなくなり、ポロポロと崩れ落ちた。




 茶色い染みの横に、座り込んだまま動かないエリューシアから少し離れたところで、クリストファも動けずにいた。

 彼は無言で床を睨み付けている。

 いや、違う……睨み付ける先には肉塊があった。


 それは肉塊と表現するしかない状態だった。

 アヤコと同じ白い衣装を身に纏っていた事は、辛うじてわかる……何故『辛うじて』かと言うと、視認出来る殆どの部分は赤黒く染まってしまっており、その上手足がないのだ。

 推測でしかないが、狂乱に呑まれた開花人達に、引き千々られでもしたのだろう。


 俯せたまま絶命している肉体には頭部が残っている。

 その死に顔は見えずとも、榛色の髪が床に広がっていて、その肉体の持ち主の名前がクリストファには理解出来た。


 クリストファは視線を緩め、小さく息を吐きゆっくりと目を伏せた。







 エリューシアは、領邸の離棟にある自室の窓を開いた。

 冬の冷たい空気が容赦なく入り込むが、その清冽な冷たさが反対に気持ち良い。


 凄惨を極めたパーティーから、もう随分と経った。


 あの日、地獄絵図だったのはパーティー会場だけではない。アヤコがこれまで訪れた村や町、また、そこから移動した人々もまた、花開いて死に散っていた。

 その数は膨大過ぎて、未だに把握しきれていない。

 その為アーネスト含めた暫定中央の面々は、途轍もない多忙を余儀なくされ、過労死寸前にまで追い込まれた。


 多くの人命が失われた事は、間違いなく辛く悲しい。

 だから喜ばしい事ではないのだが、恩恵もなくはなかった。

 何しろリムジール、ガロメン侯爵他を始めとする王派閥の殆どが死亡…死に至らずとも大打撃を受けていて、中央の風通しがマシになったのだ。


 ただ市井の混乱と絶望は酷かった。

 それも当然だろう。平民や貧民達も全員が馬鹿ではない。

 突然身体から花を咲かせた者達が、聖女の癒しを受けていたと気付くまでそう掛からなかった。


 信じ、希望と仰いだ存在が殺人鬼だったなんて、感情が追い付かないのは当然だ。

 だが、それも風通しの良くなった暫定中央が直ぐに動いた。

 精霊の加護を持つ金と銀の存在を明らかにしたのだ。その婚約も同時に公表した事で、民衆達は顔を上げる事が出来たらしい。


 尤も、当人達は早々に王都を出て、ラステリノーア公爵領へと戻っていた為、もみくちゃにされる危険は回避出来ている。



 視界の端に桜色が飛び込んできた。

 実を言うと、以前より青味がかって見えていて、桜色と言うより藤色と言った方が正しい。

 イルミナシウスとネルファが言うには、フィンランディアに間違いないらしいので、成長か変異かわからないが、そういうものだと受け止めている。


 エリューシアが再びフィンランディアと会う事が叶ったのは、そのイルミナシウスとネルファのおかげだ。


 クリストファの命を繋ぎ止める為、その身を犠牲に飛び込んだのだが、そのフィンランディアの力は、人の身で受け止め切れる程小さくなかった。

 相性も決して良かった訳ではなく、その他諸々もあって、クリストファの命が脅かされていたのだが、それを解決するべく動いてくれたのが、イルミナシウスとネルファだった。


 ネルファがクリストファと相性の良い精霊を片端から訪ね歩いて見つけ、イルミナシウスがその精霊から貰い受けた精霊石を、クリストファに合わせて調整し埋め込んだのだ。


 ちなみに精霊石と言うのは、精霊から溢れた力が凝集して宝石のようになったモノらしく、精霊達が集う里にしか見られないモノなのだそうだ。

 恐らく元々精霊達の集う里では、精霊の力が充満しきっていて、結晶となって出現してしまうのではないかと考えている。


 精霊自身の代わりに、溢れ出た純粋な精霊力のみを調整して埋め込んだ事で、クリストファの状態は安定し、それだけでなくエリューシアと同じく髪まで発光するに至ったのだそうだ。






ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

やっと終わりが見えてきました。

後もう少しだけ、拙い作者&作品ではありますが、お付き合いしてやって頂けましたら幸いです。


もし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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