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緊急警報!緊急警報! 緊急『触腕』警報発令です!!
苦手な方は御注意ください!!
…すみません…………何だか…ファンタジーじゃないですよね…。ホラーにするつもりはないのですが……orz
「エルルも一緒でなければダメに決まってるだろう!!」
「そうよ、貴方を一人残して避難なんて……そんな事言うのは止めて頂戴!」
珍しくアーネストが目を吊り上げ、セシリアに至っては瞳が潤み始めた。
「お嬢様を残すくらいなら、私も御一緒します」
オルガも普段より声が低いし、サネーラも無表情で頷いている。
クリストファを装う為にずっと無言でいたコンスタンスまで、とうとうその口を開いてしまった。
「エリューシア様、私もそれなりの経験はありますわ。
どうぞ私にお命じ下さい!
そしてエリューシア様こそ、どうか安全な場所に退避なさってください!」
スヴァンダット老はじめ、他の者達が姿と声が違う事にギョッと目を見開いているが、今は説明している時間も惜しい。
エリューシアは柔らかく口角を引き上げた。
「誤解しないでね?
勝算もなく残ると言ってる訳じゃないの。
でも、それ以前に私以外は……」
そう言いながら、壊れたゼンマイ人形のように、歪な動きを繰り返す人々に視線を流す。
「あぁなってしまう可能性があるの。
皆がそんな事になってしまっては、それこそ打つ手がなくなるのよ。
私は嫌よ? 貴方達をどうにかしないといけなくなるなんて……だから、この場は引いて…。
お願いします」
紡がれる言葉に抵抗出来る要素を見つけられず、まだ正気を保ったままの全員が、苦渋の表情で唇を噛みしめた。
最後の『お願いします』と言う言葉は、ラステリノーア一行以外の者達へ向けてのものだ。
其処へ、ソミリナのメイドであるネマリーが説明を終えたのだろう、ネネランタ夫人達と共にやってくる。
その中にはソマエタ伯爵等、リムジール側が懇意にしていた者達の姿も散見出来るが、一様に倒れてしまいそうな程、顔面蒼白になっていた。
再度ざっとみまわし、ヴェルメの影響下になさそうな人物が他に見当たらない事を確認すると、エリューシアは『行ってください』と言いおいて、スヴァンダット達に頷き掛けた。
誰もが苦痛を耐えるような表情で、抵抗しようとするアーネストとセシリアを、スヴァンダットを筆頭に、トルマーシ、ヘイルゴット、他にも騎士達が総がかりで何とか捕まえる。
パーティー会場と言う事で武器は携帯していなかったが、元より魔法も一線級なアーネストとセシリアだ。
懇意にしている相手に対しても、止めるならば情けは無用と、容赦なく魔法を叩きこもうとするのだから、複数人が全力で押さえ込むしかなかった。
その様子に動揺し、一瞬の隙を突かれたオルガ達ラステリノーアの護衛組も組み伏されてしまう。
そんな大騒ぎの中で擬態を解き、男装の美少女と化したコンスタンスは徹底抗戦の構えなのか、蟲達と共闘して騎士達を威嚇していた。
コンスタンスが残ってしまった事は気掛かりだが、先に狼狽えて喚くばかりのリムジールとチャズンナートの方をどうにかするべきだろうと、エリューシアは向き直る。
「聖女の術を受けていないのなら、恐らくあのようにはならないと思います。
今は速やかに此処から離れて下さい」
ヴェルメの影響を受けていないのなら、この場を離れて貰った方が良いと判断したのだが、2人共その耳に言葉は届いていないらしい。
チャズンナートは狂ったように、苦しんで藻掻く聖女アヤコの腕を掴んで揺さぶるばかり。
リムジールの方は喚き散らしていないだけマシではあるが、自分を憐れむのみで、まるで一人劇場を演じているかのようだ。
「アヤコ!! お前がやってんだろ!?
いい加減にしろよ!! 俺になんか恨みでもあんのかよ!!??
……なぁ……頼むよ……アヤコォ!!」
「嘘だ、嘘だ……こんな事、認められる訳がないッ!
やっと私の番が来たんだ……もう愚かな兄の…義姉の尻拭いをしなくていいんだ……なのに、これはなんだ………私の栄光が……私の玉座が…」
自分の言葉に反応しないアヤコから手を離し、チャズンナートは何を考えたのか、今度はエリューシアに掴み掛ろうとした。
「お前か!?
お前が此奴等を…アヤコをおかしくしたんだろ!?
止めろよ!! 止めろって言ってんだよ!!」
しかし当然その手が届く事はない。
腕を伸ばしきるより早く、彼の身体はとんでもない勢いで吹き飛ばされる。
ただ舞台背景の様に立ち並んでいた人々……今は壊れた玩具の様にガクガクと震える彼等がクッションとなり、チャズンナートの代わりに吹き飛ばされ、不気味の動きを停止する事になった。
壁に叩きつけられる事はなかったし、他の人々がクッション代わりになったとは言え、その勢いは殺しきれるものではなく、チャズンナートの身体は床に叩きつけられる。
「くっそ…」
倒れ込んだ拍子に顔を強か打ち付けたらしく、手で鼻を押さえながら、のそりと上体を起こしたチャズンナートは、そのまま固まってしまった。
リムジールの身体がガクガクと震え始めたのだ。
「ぅ…ぅぐぁ……違う。
わ…私は……なん、だ…痛み…?
違ウ、ワタしはあんな姿になド……なら……ぁああああぁぁぁぁ!!」
「父様!!??」
自分を溺愛してくれた父親のその姿は、チャズンナートにとって耐えがたい物だったらしい。
彼は泣き喚きながら、髪を掻き毟り震えるリムジールの身体に取り縋った。
「父様!! 父様!! やだ…やだよ…俺…」
クリストファの兄なのだから、彼より年上だし、聞いた話では既に成人しているはず…。
しかし震える父親に縋る様は、幼子そのものだ。
リムジールは父親として、自身が教えられた通り嫡男至上主義の名の下、チャズンナートを溺愛し、思うがままに振る舞わせたが、行き過ぎた溺愛は彼から色々なものを奪い去ったのは間違いないだろう。
彼は年相応に考え行動する事も出来ず、ただ父親に泣き縋るしか出来ないでいた。
「いやだ、父様……いやだよ。
俺……。
…………………お前だ…やっぱりお前が悪いんだ!」
目を血走らせ、床に落ちていた棒を掴み上げる。
安っぽく、ちぐはぐな調度品の中にあったモノの残骸だろう。
ゆらりと立ち上がり、その棒を振り被るや、学習能力がないらしいチャズンナートは、再びエリューシアに殴り掛かった。
其処に絶叫が響き渡る。
地の底から這い出てくるような、断末魔のような音……少なくとも少女の声とは思えないソレは、長く尾を引き、徐々に小さくなって掠れるように消えた。
その後に場を支配したのは静寂……。
気付けば、頭を抱えたまま海老反る動かないアヤコだけでなく、リムジール達壊れたゼンマイ人形達も動きを止めていた。
衣擦れの音さえない無音の中、思いもしなかった光景に、その場は凍り付いた。
グ……ズル………。
……ズズッ……ググ、ズ、ズズ……。
彫像のように動かなくなったアヤコの口から、どす黒い何かが伸びてきた。
例えるなら軟体動物の触腕。
先端は細く、まるで針のようになっている。
表面は滑らかな質感ではなく、枯れ枝の様に黒く節くれだっていた。
一見硬そうに見えるのに、太く細く、蠕動するその黒い触腕が、聖女が苦痛の呻きを漏らすのも気に掛ける事無く彼女の口を無理やり押し開き、ズルズルと重力抗う様に中空に腕を伸ばし這い出てきたのだ。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。
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もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>




