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えっと、『異世界召喚、あるいは神隠しの片隅で』の時に自分用として描いただけの、簡単な物ですが、エリューシアこと真珠深のアパート近辺の地図です。
こんなに御近所だったんだよ~って事で(笑)
▼:雨龍神社
コンビニ││←大きめの道路
水無江高校 ↓││✖私立 聖智女子高等学校
✖ ▼ ✖ ││ (真珠深の家から5分と掛からない)
==========││=====←(少し細い住宅地の道路って
✖真珠深のアパート 感じだが車の通りは多く
││ スピード違反等違反車両
││ も多い)
✖水無江駅
準備が終わったようで、アヤコはメイド達に促されて立ち上がる。
一応『聖女』と言う建前があるので、ボディラインを見せないシルエットになっている。
自分が平凡且つ童顔な自覚はあるので、コンビニでアルバイトしていた時も、笑顔を心掛けていた。
しかし女性客は問題なかったが、男性客にはアヤコの顔ではなく大抵身体の方に視線を向けられていた気がする。
高校生と言う若さの中に、ちょっとボタンが窮屈そうな胸元とくびれた腰……けしからん体型だと友達にも揶揄われた事があるから、それも自分の個性の一つだと認識するようになった。
だから胸と細腰を強調出来ない服を、アヤコは普段から好まず、華やかなドレスを好んで着ていたのだが、公爵家から贈られてきた衣装がコレなのだから仕方ない。
さらりとした手触りの生地は白一色で、同じく白のレースと金糸の刺繍がふんだんになされている。
一目で手のかかった衣装だと分かるのだが、神職を意識した事が丸わかりのデザインで、大人しい印象しか残らない。
おかげでコルセットもしなくていいのは助かるが、こんな衣装では折角へとへとになるまで練習したダンスも映えそうにない。
思わずふぅと溜息を吐きながら部屋を出ると、既に準備を済ませていたチャズンナートが待っていた。
少々不機嫌そうに見えるのは、待ちくたびれたからだろう。
「遅い…」
「仕方ないじゃん。
あたしが自分で着替えられる服じゃないんだし、メイドに任せるしかないんだからさ」
「はぁ、ほんと、面倒くせぇ……」
チャズンナートの纏う上着も、アヤコの衣装と同じ生地で仕立てられているのか、白をベースに金の刺繍が目に眩い。
とはいえ彼の髪色だと少しぼやけた印象になり、ちょっぴり勿体ないと思ってしまった。
だが、折角着替えたのに女の子に一言もないとは……。
「ちょっと、せめてキレイだとか何だとかくらいは言いなさいよ。
一応令息様って奴でしょー?」
「あ?
あ~女ってほんっと面倒くせぇな…。
何着てたってアヤコはアヤコだろ?
それでいいだろうが」
いつかと同じく『こういう奴だったわ』と、肩を竦めていると、チャズンナートが手を差し出してきた。
エスコートされるというのは、この世界に来て初めて経験したが、コレは悪くない。アヤコは機嫌を直して自身の手を乗せた。
使用人が大きな扉の前で立ち止まり、二人掛かりで観音開きの扉を開けると、階下には着飾った紳士淑女達で煌びやかな色と光が広がっている。
「ふぁ……」
これまでパーティーに出席した事は何度もあったが、癒しの後の場合が殆どで、アヤコ自身は疲れ切っていた為、あまり記憶に残っていない。
何より家人のみの小さなモノばかりだったから、階上から入場し、着飾った貴族達が注目する中、階下へ降りる等と言う経験はなかった……いや、経験がないと言うのは語弊がある。
注目の中、壇上から降りて……と言うのはよくある光景だったからだが、大抵周囲を取り囲む色は茶色や灰色で、平民や貧民の注目なんてどれほど集めようと、心躍るなんて事はありえなかった。
「行くぞ」
チャズンナートの声に、ハッとして頷く。
――なんて気分がいいの!
――最近身体は辛いし、ヴェルメはシカトばっかりだしで、かなり気鬱だったけど、一気に吹き飛ぶくらいには気持ちいい!
――気分がいいから、ヴェルメの態度も許してあげちゃうわ
――それにしても見てよ。
――意外にこの世界って極彩色ね…目がチカチカする
――ま~茶だの黒だのばっかりよりいいけどさ……ちょっと悪趣味?
――……って、あそこ……あの一角だけなんか空気が違う…?
チャズンナートのエスコートを受けながら、見せつける様に階段を降りている最中に、アヤコは壁際の一団に目を奪われる。
視界の大半を埋める極彩色と違い、落ち着いた色味の集団だが、放つ空気感が違うと言えば良いだろうか……。
例えるなら安っぽい玩具のアクセサリーの中に、一つだけ本真珠を混ぜた様な感覚だ。
だが、そんな感覚がヴェルメによって掻き乱される。
―――――!!
ツキリと頭の中までひっくり返されるような痛みが走り、アヤコはヴェルメに内心で声を荒げる。
――イッタい……
――…ちょっと、痛い、痛いって!! 何? 何にそんなに引っ張られてんの!!??
――ヴェルメ!!??
―――――……………
内心で怒鳴られたからか、ヴェルメが引き下がった事で頭痛が和らぐ。
――ふぅ……もう…あたしに負担掛けないでよ!
アヤコは憤慨しまくっているが、ヴェルメの方は何かに気を取られているのか、それとも他に理由があるのかわからないが、アヤコの怒りに反応する事はなかった。
ヴェルメの無反応は最近では珍しくないし、頭痛が落ち着いてきたので、アヤコはチャズンナートに小さく声を掛けた。
「(チャズ、ちょっといい?)」
「(は? お前階段踏み外すぞ?
俺はお前の巻き添えなんて御免だから、踏み外したら手を離すからな)」
「(ひっど!…って、そうじゃなくて、あそこ……知ってる?)」
前もって招待客の顔と名前は確認しておけと言われてはいたが、日々くたくたで疲れ切っていたし、オツムの出来が今一つなアヤコは、最初から手に取る事さえしていなかった。
「(はぁ? 俺様がそんなくだらない事に時間と労力を割くなんて、する訳ないだろ!)」
やはりと言うか何と言うか、チャズンナートも勤勉な質ではないらしい。わかり切っていた事である。
「(えー、でも、なんかあそこだけ雰囲気が違うんだモン)」
「(ったく…どこだよ)」
「(あそこ、壁の近く)」
「(あ? 壁ぇ? ………)」
チャズンナートから表情が抜け落ちる。
「(チャズ?)」
心配そうに名を呼んだからではないタイミングで、チャズンナートの口元に歪な笑みが浮かぶ。
「(………あぁ、俺達の敵だな)」
続いた言葉に、アヤコが目を見開いた。
敵らしいと分かったが、そんな存在に引き付けられているヴェルメに、アヤコは疑問符しか浮かばない。
――でも、ヴェルメもあっちも静かだし、とりま様子見かな
そんな事を考えているうちに階下へ辿り着き、いつの間にか傍まで来ていたリムジールが声を張り上げた。
「我が息子チャズンナートと聖女アヤコだ。
今日この良き日に、2人の婚約を正式に発表する!
どうか皆も祝って欲しい!」
彼等を取り囲むように立っていた紳士淑女達から、盛大な拍手が沸き起こる。
「おめでとうございます!」
「公子様、聖女様、万歳!!」
「良き日に乾杯!」
この国の高位貴族の集いでは見られない光景……。
皆が我先にと無秩序に、大きな声で祝福し始める等、高位貴族ではありえない。
壁際で主役達が階段を降りてくる様子を見ていたエリューシア達は、全員が揃ってスンとしらけ切った表情になっていた。
「(まるで餌に食いつく観賞魚の群れのようですわね)」
「(まぁ、あれはあれで、愛好家の方々には愛らしい姿に見えるそうですから、流石に一緒にするのは可哀想ではありませんか?)」
声を顰めてはいるが、ヘイルゴット夫人もトルマーシ夫人も、なかなか辛辣だ。
周囲の男性陣も苦笑いを堪えている。
そんな周囲の様子に合わせる事無く、エリューシアは無言で主役達を見つめていた。
(あれがグラストンの嫡男……ジールを弾き出し、妹コフィリー様の死の要因となった……そう…あれが……。
そして『聖女』…顔の判別には少し距離があるからわからないけど、近所の女子高の生徒だったようだから、もしかすると何処かですれ違うくらいはしてるかもね。
尤も、その程度で温情をかけるなんてありえないけれど)
エリューシアはじっと、その宝石眼で見透かすような視線を送り続けた。