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「お久しぶりです。

 お元気そうで何よりだ」


 明るい声で近づいてきたのは、やはり無駄に浮き上がっていた男女2組。

 トルマーシ侯爵夫妻とヘイルゴット侯爵夫妻だ。

 エリューシアとアイシアの専属護衛騎士の生家と言うだけでなく、アーネストとセシリアにとっても学院の先輩にあたるらしく、親し気に挨拶を交わしている。


 そんな夫妻達からちらちらと送られる視線に、コンスタンス扮するクリストファと苦笑しあっていると、流石に両親も気付いたらしい。


「あぁ、済まない。

 我が家のもう一人の娘で、名はエリューシアと言う」


 ヘイルゴット夫妻の方は兎も角、トルマーシ夫妻は息子がエリューシアの護衛騎士なのだが、これまで顔を合わせた事はなかった。

 聞けば、セヴァンは独断で公爵家の門を叩いたらしく、公爵家召し抱えになると同時に、生家と疎遠になってしまったのだと言う。


「それにしても、本当に精霊の愛し子様なのだな。

 セヴァンは家を離れてから、文の一つも寄越さないから、噂しか聞いた事がなくてな。

 実の所半信半疑だった」

「うちのニルスもだよ。

 折角、公爵家に籍を置かせて貰えたのに、顔出し一つしないのだからな。深青の淑女の護衛の護衛騎士になったと言うのも、風の噂で初めて知ったくらいだ」


 夫君がそんな話をしていると言うのに、夫人達の視線はエリューシアと、隣の顔だけクリストファに釘付けになっている。


「なんて麗しい御姿なのでしょう。

 あぁ、いけませんわ。

 ご挨拶申し上げます。

 私はナーレア・トルマーシと申します。以後お見知りおき頂ければ嬉しく思います」

「まぁ、私も…公爵令嬢に御無礼を…。

 ケナリル・ヘイルゴットですわ。

 あぁ、でもお隣の黄金は……その、やはり…?」


 婚約そのものは成立しているし、中央には届け出てあるが、まだ大々的に公表した訳ではないので、一応の確認と言う奴だろう。


「それにしても御労(おいたわ)しい。

 もしや……」


 そう言いながら、ヘイルゴット夫人が周囲へ素早く視線を走らせた。

 その様子に隣のトルマーシ夫人が片眉を跳ね上げる。


「ちょっと…流石に品がなくてよ?」

「あら、やだわ」


 どうやらこの場に集った夫人達の中で、ケナリル・ヘイルゴットが一番落ち着きがないようだ。

 とは言え(たしな)められれば、直ぐに引き下がるし、仲の良い仲間内だからこその態度だろう。


「ですが、困りましたわね。

 見知った顔が少なくて…」


 セシリアが苦り切って呟くと、それに答えたのは侯爵達だ。


「あぁ、仕方ないですよ。

 殆どが子爵位以下ですし、中には準位の方もいるらしく、とてもではありませんが、我等には把握が難しい」

「そもそも、前もって何方(どなた)が参加する等の情報は一切知らされておりませんし、調べるにしてもあまりに期間が短すぎて、到底……」


 侯爵達は肩を竦めて苦笑を浮かべた。


「王都に長い皆様でも難しかったのですね」

「私達は王都に来てまだ日が浅く、疎いからね」


 セシリアが伏し目がちに呟くが、アーネストは平然としたものだ。

 その様子にスヴァンダット老が溜息を吐いた。


「だからもう少し王都に来いとあれほど…」


 老人の悲壮感を詰め込んだ演技に、その場の空気が和らぐが、ヘイルゴット夫人の囁きで再び空気が重くなる。


「それにしてもお聞きになりまして?

 パーティーの主催であるリムジール様と、主役達ですが、まだ此処(ここ)にいらっしゃらないんですって」


 聞き及んでいなかったのか、スヴァンダット老は目を見開いて固まる。


「それは……誠か?」

「ソドルセン様はまだお聞き及びじゃなかったんですね。

 何でも市街を馬車で巡ってから来るらしいですわ」

「「「「「……は?」」」」」


 トルマーシ夫妻とヘイルゴット夫妻を除いた全員が首を傾げた。


「王族でもあるまいし…って、一応『元』とはつくが王族…か?」


 スヴァンダットが呆れたように零すが、それをヘイルゴット夫人が素早く拾い上げる。


「リムジール様ではなく、メインは聖女らしいですわ。

 聖女アヤコ。

 まぁ平民以下からの人気は凄いですから…」

「平民以下だけでなく、最近では王派閥は勿論の事、そうでない貴族達も、文官人事を預かるソマエタ伯爵を始めとして、じわじわと浸透し始めていますわ。

 ほら、あそこに…」


 ヘイルゴット夫人ケナリルの言葉を、トルマーシ夫人ナーレアが補って、視線を滑らせた。

 その先には、此方(こちら)に近づいてくるソマエタ伯爵を筆頭に、その娘ヨナメル他が居た。


 彼等は少し手前で止まり、ソマエタ伯爵が深く頭を下げた。

 彼に声を掛けたのはヘイルゴット侯爵だ。


「伯爵、お久しぶりですな。

 御噂は聞き及んでおりますよ。

 なんでも…()()な人事を敢行なさったとか」

「ヘイルゴット侯爵、お声がけ感謝いたします。

 斬新とおっしゃっていただけるとは、感無量でございます。

 我が娘が受けた恩義に報いる為、また王都の民、()いてはこの国の民の為にした事でがございますが、自身の働きを閣下に認められるのは、本当に嬉しく思います」


 ソマエタ伯爵が自身の預かる文官人事部に働きかけ、主だった役人を聖女派…行きつくところ王派閥の面々に入れ替えているのは、かなり有名な話らしい。

 それにしても『斬新』と言われたにも拘らず、それに対し素直に嬉しそうにしている様子に、嫌味の通じない相手らしいと分かる。


 とは言え、それが聖女…ヴェルメの支配なりを受けての事か、それとも生来純朴なのかは、今は判断のしようがない。

 エリューシアがざっと視た感じ、ヴェルメの影響は非常に薄く感じられた。

 どちらかと言えば、娘らしき令嬢達の方が、気持ちの悪い気配が濃い。


 ふと向けられる視線に気付いて、エリューシアは顔を上げると、ソマエタ伯爵と目が合った。


「その……もし良ければ妖精姫様にお言葉を賜われれば…」


 遠足前の幼稚園児よろしく、ほくほくと何処(どこ)か落ち着きのない伯爵の態度に、微かな引っかかりを覚える。

 もしかすると、伯爵自身は聖女やヴェルメの影響下にないのかもしれない。

 同じように無言で走査(スキャン)しているであろうコンスタンスに視線を向けると、彼女も自信なさそうに頷いた。


 顔はクリストファなのだが、実を言うと、エリューシアにはもうクリストファの顔に見えていない。

 クリストファっぽく見える…かもしれないコンスタンス…というのが、一番近い感覚だろう。


 念の為アーネストとセシリアに目線で伺いを立てれば、微かに首肯していた。

 とは言え伯爵はまだしも、娘他は完全に警戒対象だ。短く挨拶のみで様子を見る。


「初めまして」


 家名他続けようとしたところで、ソマエタ伯爵の娘が言葉を被せてきた。


「あたくし、ヨナメルって言います!

 そっちの貴公子様、名前を教えてくれませんか?」

「な!?

 ヨナメル、お前そんな非礼な事を……」


 進み出ようとするソマエタ伯爵令嬢ヨナメルを阻むように、トルマーシ伯爵が割って入る。


「随分と礼儀のなっていない令嬢だ。

 まだこういった場は早かったのではないか?」

「も、申し訳ございません!

 その…娘は先頃の学院での騒ぎで大怪我をしてしまってから、つい甘やかしてしまったようで……。

 本当に申し訳ございません!

 ヨナメル、はら、下がろう」


 ソマエタ伯爵が、嫌がって手を振り払おうとする娘を引っ張っていると、アーネストが口を開いた。


「そうだね。

 下がった方が良い。

 私の娘には精霊の加護があるせいか、下手に近づくと「お父様放して!!」………」


 今度は公爵であるアーネストの言葉を遮る。

 まだ幼い……と言っても、エリューシアとは1歳しか差がない。

 確かにエリューシアには前世の記憶があり、年相応とは言い難いが、それにしたってあまりに不敬が過ぎる。


「なによ。

 お前なんかアヤコ様の足元にも及ばないわ。

 それより其方(そちら)の貴公子様、あたくしと仲良くしてくれませんか?」


 ヴェルメの能力に、『欲望に忠実になる』と言うモノがあったとは聞いてない。

 聞いてないが、思わず気の毒に…と、エリューシアは自分のやや後ろに立つコンスタンスに、そっと憐憫の視線を送ってしまった。






ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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