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 貴族令息の装いをしたコンスタンスを従えて、エリューシアがクリストファの部屋から出て行くのを見送る。

 扉が閉まると同時に訪れる静寂が重苦しい。


 クリストファは思わず零れてしまった溜息に、無意識に肩を落とした。


 ―――コンコンコン


 聞き覚えのある穏やかなノックの音に、クリストファは返事をする。

 エリューシアのノックの音はとても柔らかな優しい音、コンスタンスは軽やかな音、アーネストとセシリアのノックの音は落ち着いていて、かなり似ている。

 意外とノックや足音でわかるものだ。そのどれもに合致しない音色はネルファ辺りだろうと思っていると、開いた扉の隙間からネルファの白色が目に入る。


「おや、クリス様、起きていて大丈夫なのですか?」

「ぁ……あぁ、ぅん…」


 表情が沈んだクリストファに、ネルファがそっと近づく。


「見つけましたよ」

「!」


 弾かれたように顔を上げたクリストファだったが、再び顔には昏い色が滲み始めた。


「………けれど…」

「今の状態の方が負担になっているのです。

 相性ってのもありますしね。

 ですが、馴染むまで無理は禁物です。

 大丈夫だと確信が持てたその時には、未だ惰眠を貪るイルミナス様を叩き起こしますので、どうぞ御安心下さい。

 まぁ、勿論それに伴って色々と不都合が生じると思いますが、エリューシア様と同じになると思えば………ね?」


 そう言って笑うネルファの指先には、金色の光球がふわりと舞っていた。







 日差しが眩しい穏やかなはずの日中……王都に新たに用意されたラステリノーア公爵邸内では、数少ない使用人達が忙しく行き交っている。

 数日前に領邸や借り上げ邸の方から、メイド他数名を呼び寄せて居て、決戦前夜の様相だ。


「マニシア、香油の追加を持ってきて」

「軽食はこっちに」

「あぁ、旦那様動かないで下さい!」

「ちょっと、水差し何処(どこ)に置いたのよ!?」


 普段からあまり社交をしない一家だったので、使用人達も慣れていないから仕方ない。

 そんな喧噪を余所に、エリューシアは自室でサネーラとオルガにマッサージを受けていた。

 本当ならオルガは借り上げ邸で、姉アイシアの護衛に残っててほしかったのだが『お嬢様の戦闘準備(ドレスアップ)を手伝えないなんて……死にます』等と、眉一つ動かさずに言うモノだから、アイシアから反対に泣き付かれてしまった。

 借り上げ邸の方にはメルリナが残ってくれているし、本来のアイシア専属護衛ニルス他も居るので大丈夫だからと、数日前よりオルガは王都の邸の方で寝起きしている。


「手を煩わせて、ごめんなさいね」

「何をおっしゃいますか。

 お嬢様の準備等、他家の令嬢の準備に比べたら楽なものです」


 そう言葉を挟んできたのは、水差しの交換に来たニーナだ。


「そうなの?」


 エリューシアは当然として、幼い頃から公爵家以外を知らないオルガとサネーラも、思わずニーナの方へ顔を向けた。


「はい。

 私がグラストン公爵家にお世話になる前に勤めていた伯爵家には、お年頃というにはちょっと……ぃぇ、御令嬢がいらっしゃったんですが、前日……数日前から…が正解かもですね……大騒ぎでした」

「前日…数日……?」


 ニーナの言葉に首を捻ったのはサネーラで、『つい』と言った感じで問いかける。

 美肌の為の施術は普段からして然るべきものだし、化粧他は当日の話なのに『前日』とか『数日前から』と言う単語が気になったのだろう。

 サネーラの疑問に、ニーナが困ったように眉尻を下げる。


「その……こんなお話をお聞かせするのは、どうかとも思うのですが……。

 えっとですね、御令嬢の体形とドレスサイズの齟齬が……当日に絞り上げるだけでどうにかなるものじゃなかったので……」

「……あぁ…」


 とても言い難い事を言わせてしまったようで、サネーラも申し訳なく思ったらしく、軽く頭を下げていた。


「その点、当家の奥様もお嬢様も、体形どころか全コンディションも素晴らしく、当日でさえ急いで何かしなければならないと言う部分がございません。

 ただ……その、申し訳ございません。

 コルセットが見当たらないのですが、何処でしょう…」


 最初苦笑いで答えていたニーナだったが、令嬢の必須アイテム『コルセット』が見つからなくて困っている様だった。

 ニーナとシディルが、色々あってラステリノーアへ来る事になったのも急な話だったし、まだそれほど経っていないので、この家に慣れていない、わからないというのは仕方ない。


「探す必要はありません」


 オルガがマッサージの手を止めないまま、相変わらずの能面で答える。


「そうなんですか?」

「はい。

 奥様の方は、必要ならドリスが準備すると思いますが、コルセットが必要な事はほぼありません。

 エリューシアお嬢様には更に、全く、必要ありません」

「まぁ!」


 オルガからの説明に、ニーナが目を丸くした。

 そしてエリューシアの隣では、何故かサネーラが仏頂面の中にドヤ感を満載して頷いている。


「奥様もお嬢様も、コルセット等なくとも十分に魅惑的ですから。

 反対にこれ以上魅力増し増しにしては、旦那様やクリス様に睨まれてしまいます。化粧他も手を抜く様に厳命されております」


 『ぁ、察し…』と言った表情になったニーナに、何故かまたサネーラがドヤ顔で頷いていた。


 セシリアは兎も角、エリューシアには最初から、唇に色を載せるくらいしかしない。

 する必要のない化粧に時間を割くのは無駄で、髪を整える方に時間を割かねばならないと言うのが正しい。

 何しろ、下手なセットでは、途中でするりとほどけてしまう髪質なのだ。

 その為幼い頃はメイド長であるナタリアしか、エリューシアの髪を弄る事は出来なかった。


 ニーナがエリューシアの部屋から出て行くのを見送った後、ドレスに着替えてからが本戦だ。

 オルガとサネーラが櫛とピン、紐等を手に静かに気合を入れる。


「さぁ、良いですね?」

「はい、オルガ様」


 自分達の主人であるエリューシアの初御披露目なのだ。

 気合を入れるなと言う方が無理がある。


 遠く……この国で広く行われる……はずだった5歳の御披露目。

 それを前にして不幸にも色々あった為、エリューシアはそう言う機会がないまま学院生となり、その後もそのままひっそりと卒業した。

 戻った公爵領では、人前に出る事がないまま領政を手伝い、ずるずると隠遁生活を送ってきたが、それも今日までだ。


「………ふ………ふふふ……」

「……………ふふ…」


 背後から聞こえてきた不気味な声音に、エリューシアが恐る恐る振り返れば、オルガとサネーラが能面と仏頂面のまま笑っていた。






ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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