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「………」


 手紙の封を切って目を通していたクリストファが、その手紙をエリューシアに見せてから、アーネストとセシリアの方へ向け直しテーブルへ置いた。


「義母からでした。

 何かあっても今は王都に戻るなと……」

「見せて頂いても良いかな?」


 テーブルの上に置かれた手紙に一度視線を流してから、アーネストがクリストファに訊ねる。

 それに躊躇う事なく、クリストファは頷いた。

 それを受けてアーネストが手紙を手に取り、隣のセシリアと共に文面に目を通していく。


「………スヴァンダット老から民に不安が広がっていると聞いてはいたが……」

「えぇ、まさか聖女とか、そんな噂まで流れる程だとは…想像もしていませんでしたわ…」


 クリストファは手紙をじっと見据えた後、エリューシアの方へ顔を向けてから身体毎改めて向き直った。


「…僕はエルと離れたくありません。

 やっと…やっと婚約出来たのだし、まずもって王位等欲しいと思った事もないし不要です。

 この国の民に恨みがある訳ではないですが、僕が優先したいのはエルだけです。エルが民を大切にしているから僕もそうしているにすぎません。元より成人すれば僕はこの国を出るつもりでしたから…。

 だから僕は王都へ赴く等考えていません……ですが……」


 隣に座っているエリューシアの手を握り、一息にそこまで言ってから、クリストファは目を伏せる。


「気にならない訳でもないのでしょう?」


 手を握られたまま、エリューシアが微笑む。

 この国や民にそれほど深い思い入れはなくとも、生まれ育った国であり、そこに住まう民だ、気にするなと言う方が無理がある。

 どうにも影を宿した表情になるクリストファを包み込むかのような、柔らかな笑みをエリューシアは深めた。


「不安の広がったタイミングに丁度良く聖女の噂だもの、深読みしたくなるのも当然よ」


 いや、深読みしてしまうのはエリューシアの方かもしれない。

 最推しの姉アイシアの安全を信じられるようになって、まだそんなに経っている訳ではない。言い換えればつい最近まで神経を尖らせていたと言う事だ。


(女神様……イヴサリア様はまだ微睡みの中なのかしらね……本当に、この世界はどこまでも……。

 だけど上等だわ。

 シアお姉様の次はジールだと言うのなら、受けて立ってやろうじゃないの。

 私は逃げたりしない。

 それにしても聖女…ねぇ。シモーヌとは違った意味で不気味かも…何より聖女と言えば転移転生がお約束……)


 そこまで考えて、エリューシアは扉近くに控えているハスレーに顔を向ける。


「ハスレー、アッシュかジョイを呼んで来て貰っても良い?」

「畏まりました」


 一礼して扉から出て行くハスレーを見送る。

 だが、そこで集まる視線に気づいたエリューシアは首を傾けた。


「……?」

「エルル……何故アッシュかジョイ?」

「お父様、まず情報を集めませんと、ね?」

「いやいや、態々アッシュに言わなくても、王都にはまだオルガやニルス達もいるだろう? 他にも影達だって……」


 アーネストが不思議に思うのも理解出来る。

 ラステリノーア公爵家領のあるオーリスタ地方と呼ばれる場所は、王都から見て北方にあり、間に他家の領地を幾つか挟んでいて、かなり距離があるのだ。

 そんな遠方に居るアッシュやジョイを動かすより、王都に居る者を動かした方が早いと言いたいのだろう。

 しかし……。


「手紙には『地方に現れた聖女らしき噂で巷がざわついている』とありました。

 つまりは『聖女』と呼ばれる者は王都に居ないと言う事ではありませんか? ならば王都で調べ、尚且つ聖女の居る地方へも足を運んで貰わないといけないかもしれません。

 ならば機動力他で勝るジョイやアッシュに頼んだ方が早いと言うモノです。

 それに王都の調査なら私が向かっても良いですしね」

「「「ダメ!!!」」」


 にこやかに言い放ったエリューシアに、3名の声がシンクロした。

 仲が良くて何よりだ。




「しかしな……」


 尚も渋るアーネストに、エリューシアは首を横に振った。


「平穏な学生生活を楽しんでいるオルガ達を態々不安にさせる必要もないでしょう? それに、ほら…私は………ですから」


 エリューシアの意味深な言葉に、アーネストとセシリアは唇を噛み、クリストファは握っていた手にさらに力を込めた。


 そう……フラネア達の処刑が済み、学院の前倒し卒業を決めた時、エリューシアは両親に話したのだ。


 自分には異世界の…前世の記憶がある事

 それ以前の記憶はないけれど、元々エリューシアだった事等々……。


 何度も何度も殺され、傷つき疲弊した魂が限界になり、女神イヴサリアによって他世界に避難させられていた事も何もかも…。

 信じてもらえるかわからないし、下手をすれば気が狂ったと判断される可能性もわかってはいたが、姉アイシアがベルクに思いを寄せ、後継から外れる未来が見えた時、話しておくべきだと思ったのだ。


 確かに元々エリューシアと言う存在で、貴族的な考えもわかってはいるが、前世の影響は思った以上に大きかった。

 どうしても納得出来なかったり、相容れなかったりする部分がこれから多くなっていくだろう事は、簡単に予想出来る。

 ならば最初から話して、その上で両親にも判断して貰いたいと思ったのだ。


 異世界の記憶を持つエリューシアである自分を、本当に後継として良いのかどうかを……。


 結果は…現状から察して貰えるだろう。


 話し終えた時、暫く重苦しい沈黙が続いたが、その後に続いた言葉はエリューシアが想定したモノとは異なった。

 てっきり否定が最初に来ると思っていた。次に『気が狂ったか?』とか『娘に取り憑いた悪霊か?』とか…罵倒されると思っていた。


 しかし両親の取った反応は全く違った。


 母セシリアは、あの5歳前の襲撃に思い至ったのか、涙を流してエリューシアを抱き締め、一言『抗ってくれてありがとう』と言ってくれた。

 その後『辛い思いをさせ続けてごめんなさい』とも…。

 父アーネストはまた違った反応だったが、最終的にはセシリア同様、エリューシアを抱き締めて受け入れてくれた。


 ちなみに『違った反応』と言うのは、どうやら自分が母を亡くした娘――その時エリューシアは既に死亡していたのでアイシアの事だが、その娘を仕事とは言え、一人寂しく…いや、見捨てたかのように思えるほど冷たく死なせてしまったという事に衝撃を受けていた。

 何なら床に頽れ、倒れ込んでしまう程に打ちのめされていた。


 だが、この後、目に見えてエリューシアへの過保護は減った……と思う。

 それはそうだろう…前世は両親より年上の人間だったのだ。


 いや、減ったのか? 溺愛は相変わらずだが、1人でも散歩くらいは笑って見送ってくれるようにはなった。

 この程度で過保護が減ったと思える事自体が、既に毒されているような気もしなくは……ない、が…。

 何にせよ、前世は両親より年上だった記憶があると言っても、彼等にとって愛してやまない娘であると言う事に変化はなかったようだ。


 アイシアには話していない。

 話しても混乱させるだけだろうし、何より彼女は現在、年相応の成長をしているだけの少女だ。こんな荒唐無稽な……それ以上に妹であるはずのエリューシアが、アイシアの為にずっと抵抗を続け、暗躍(笑)してきていただなんて事実は、きっと受け止めきれないと思う。


 そしてクリストファには、彼が目覚めて少ししてから話した。

 それでも自分を望んでくれるのか? …と…。


 こちらも結果は見ての通りだ。


 彼は『そのままのエリューシアが良いんだ』と臆面もなく言ってのけた。

 聞かされるエリューシアの方が羞恥にのたうった程だ。


 だってそうだろう? 前世アリの年上お姉さん(おばちゃんとは言うな……絶賛お一人様の社畜で御局候補だった事は認めるが、おばちゃんは許容範囲外だ)なのだから気持ち悪がられるのが普通だと思っていた。なのに気持ち悪がるどころか、エリューシアの方がドン引きになる程、前のめりに求婚されてしまった。

 これまでと変わらないどころか、反対に拘束はきつくなってしまった。

 年上だからこそ1人で考え抱え、行動するだろうから目が離せないとでも思われた様だ……解せぬ。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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