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程なくして開かれた扉は、ギリアンを先頭に全員が入り終えたところで、重い音を響かせながらゆっくりと閉まる。
途中振り返ってみたが、扉の厚みは優に20cmはありそうに見えた。
「よぉ」
片手を軽く上げながら近づいてきたのはゼダンだ。
「前に言ってた『調べられそうな人物』を連れてきた」
ギリアンがそう言うと、ゼダンは呆れたように肩を竦める。
「本気だったのか。
ふぅん…で、後ろの可愛い女の子達がそうだって訳?」
ゼダンがギリアンの背後を覗き込んで、ニヤリと笑った。
「いいねぇ、女の子!
しかも何? この美少女率!
ギリアン……お前、今度俺にも紹介しろ……」
最初ふざけた空気を醸していたゼダンだが、途中からは真顔になる。
変装しているエリューシアは酷く平凡な姿になっているので、今は捨て置くとしても、艶やかな黒髪に深紅の瞳というクール系美少女であるオルガと、純白の髪に灰色の瞳が儚さを一層引き立てているコンスタンスという美少女まで連れているのだから、羨ましいと思われても仕方ない。
ギリアンからしてみれば、盛大に溜息を吐きたい所だろうが、まずは先にと、魔法契約書の書類を取り出した。
「紹介云々はとりあえず置いとくとして、まずはこれにサインしろ」
「えーー!!?? なんでだよ……って、何だ?」
ゼダンは渡された書類の一番上をチラと見て固まり、顔を引き攣らせる。
「ちょ……待てよ…魔法契約って……?」
「良いから。
話はそれからだ
お前の口の軽さは警戒警報発令レベルだからな」
「は? 俺は大事な情報には口は堅い!!
どうでも良い事だからしゃべくってるだけだよ!!
そうじゃなきゃ塔で働ける訳ないだろ!?
って、そうじゃねぇ……流石に俺でも訳わかんない書類にサインなんか出来ねーよ!」
「俺は良いけど?
でもさ、今日に至っても成果は何にもないんだろ?」
目を眇めてニッと嫌味な笑みを向けるギリアンに、ゼダンはグッと苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。
「折角調べられそうな人物連れて来たって言うのにさぁ?
その機会を棒に振る訳?」
「……………」
ギリアンと暫し睨み合いを続けていたゼダンだが、チッと舌打ちをした後、思い切り嫌そうに契約書にサインをした。
「これでいいんだろ」
「おう、結構結構。
で、お前内容読んでないだろ? 良いのか?」
「良いも悪いもあるか!
俺は知りたいんだっ!!
知れると言うなら悪魔に魂を売っても後悔はない!」
書類の一番上に書かれた魔法契約と言う単語だけに反応していたらしいゼダンが、何故か踏ん反り返って自慢げに吐き捨てた。
読んで理解したところで、選択に変更はないと言う事なのだろう……仮にも成人した大人がそれで良いのかと突っ込まれそうである。
軽く肩を竦めてから灰色の癖毛と目立つ瓶底眼鏡のせいで、目立つはずなのに、妙に印象に残らない少女に、ギリアンが大仰に一礼してから受け取った書類を黒髪の少女に渡す。
「お待たせだったな。エルル嬢、もう変装解いてくれて良いぜ」
少女が顔を俯けて眼鏡を外し、灰色の髪を引っ張ると、思いもよらない色彩が現れた。
「…………ぇ…………ぇぇええええええええええ!!??」
煩いと言うと同時にギリアンが、喚くゼダンの頭を張り飛ばす。
「ってーな!!
いや……でも……」
久しぶりの新鮮な反応だが、エリューシアは然して気にする事もなく微笑んだ。
「初めてお目に掛かります。
ラステリノーア公爵家が第2女、エリューシア・フォン・ラステリノーアと申します。
以後お見知りおき頂けましたら幸いです」
オルガとコンスタンスと言う美少女2人に引けを取るどころか、大幅に上回る美貌の少女に微笑まれて、ゼダンはゴクリと喉を鳴らした。
「ひゃ…ひゃい!!
ゼ…ゼ、ゼゼゼゼゼダンとも、申しまっしゅ!!」
いい年をした大人の男性が、幼子のように舌を噛むと言う挨拶を以て、初対面は締めくくられた。
初対面の場から更に奥、入り口同様分厚い金属扉の更に奥に実験部屋が置かれていた。
と言っても、前世の様な精密機器やガラス器具等が、所狭しと並んでいる訳ではない。
魔法も併用するのが基本な為、大掛かりな器具が必要ないと言う事、また、そんな機器、器具が必要になるほど技術が進んでいないと言うのもあって、室内はゆったりとして見えた。
当然のように通路も存外広く、突き当りに魔具で厳重に囲われた台座が、近づかずとも見えている。
ギリアンは前回も此処まで案内して貰い間近でそれを見ているが、変化はこれと言って無いように見えた。
大きさも、表面の様子も一見変わりない。ただ、前回は水に半分ほど浸かっていたが、現在は完全に水没している。
エリューシアは実験室全体も、一応視ておこうと視線を走らせる。
特に違和感は感じない。
次いで、ゼダンのすぐ横の台座に視線を戻す。
聞いていた通り、見た目は少し大きめの種。
鑑定を発動させると、種はピクリと震えたように見えた。
尤も、そう見えたのは恐らくエリューシアだけだろう。影として訓練を受けてきたオルガやコンスタンスでさえ、その様子に変化はなく、小さな異変に気付いていないと言うのがわかる。
内部をじっと見つめる。
生きている……と言うのは正確ではないかもしれない。清浄な気の巡り、生命力とでも言えば良いだろうか…そう言ったモノが見られないのだ。
当然、植物の種なら備わっている胚等の構造も見られない。
普通ではない――つまり植物型の魔物であっても、子孫を残す、繁殖すると言う意味で種様の存在を作り出す種の場合、その内部構造には然程差はない。
そうは言っても、全く違いがない訳ではなく、大きく違うのは胚乳で、瘴気だったり魔力だったりが主な成分だ。
まぁ、それ以前にただの種なら、鑑定の波動を感じて揺れる等ありえないのだから、歪な存在であると言う事に間違いはない。
「手を変え品を変えしてるけど、今の所うんともすんとも言わない。
まぁ、お手上げ状態って奴だな。
種っぽく見えるし、最初は水、次に泥水、他にも冷やしたり温めたりしてるが、変化は見られない。まぁ破損したりもしないから、普通の種じゃないのは確かだろうけどな。
一応今も変化を与えて、観察とデータ収集は続けてるけど、見事に変化なし!
こうまで変化がないと、死んでる……休眠じゃなく永眠な?
そう言う状態になってるんじゃないかって言いだす奴もいて、困り果ててるよ。
とは言え、鑑定持ちに見て貰っても内部がわかんないって言うし、下手な扱いも出来ないから、今もこうして囲ってるんだけど……」
そう言いながらゼダンが種に手を伸ばした。
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