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メネライト…ここまで義兄としか書かれていない、コンスタンスLOVEが過ぎて、他家族から呆れられている残念お義兄様です。
「は?
……いや、俺、言ったよな?
新種の寄生性植物かもって……話したの、ついさっきだよな?
それを持ち出そうって…お前なぁ…」
「ちゃんと魔具で厳重に囲ってからしか持ち出さないけど、ダメか?」
「流石にそれを上に言う気にはなれないぞ…」
ギリアンは口をへの字に曲げる。
ギリアン自身には、残念ながら鑑定や走査の能力はない。
此処『塔』で魔物を専門に研究している者達も、異物の正体に迫れていない…。
その上コンスタンスでわからないのなら、他に鑑定持ちは……と考えて、エリューシアが脳裏に浮かんだ。
だがエリューシアに話を持ち込むなら、公爵領まで足を延ばした方が早い。手紙でも良いのだが、直送の許可を貰った記憶はないので、通常手順となってしまい、そこそこ時間が掛かってしまうだろう。
しかし話はそれ以前だ。
持ち出し許可が下りないなら、同行して貰うしかない。
其処まで考えてギリアンはニヤリと口角を、片側だけ微かに上げた。
塔に籍を置く魔法士達は基本的に引き籠りだ。
だから世相に疎いと思われるのは仕方ない。
しかし、意外と情報は流れている。多くはゼダンが仕入れてきた噂話だが、それ以外からも聞こえてきていて、最近はやたらと『聖女』と言う単語を耳にするようになっている。
ギリアンは過去、最後の王子となったバルクリスから話を聞いていて、自分の友人であるクリストファに王位を…と言う話を知っている。
そして、現在それに賛同しているギリアンとしては、クリストファの隣に立つであろうエリューシアの足場固めも、始めたいと考えていた。
此処『塔』を手始めにするのは丁度良いだろう。
何しろ塔のゼムイストの令嬢カリアンティが、後継を蹴ってラステリノーア…と言うよりエリューシアに仕えると言っているのは、知る人ぞ知るである。
自分も、自分の家も、それ以外も…エリューシアと関わった事がある者は、皆、一様に口が堅い。魔法契約で縛られていない者でさえ、噂のネタにして耳目を集めるより、彼女の平穏をつい考えてしまうのだ。
しかし王都の現状は不穏で、下手をすると『聖女』とやらを神輿に担いだ王派閥が、大きく力を伸ばしてしまうかもしれない。
何より王弟の息子……クリストファの兄にあたるチャズンナートが、聖女とよく一緒にいるらしいと言う話もあった。
民衆の後押しで、王弟……いや、元王家の血筋に玉座が舞い戻るのは、望ましい未来ではない。
予定は決まった。
「わかった。それを調べられそうな人物を連れてくるつもりだから、またな」
そう言ってギリアンは1階に戻り、面会室の扉を開いた。
扉を閉めるや否や、ギリアンはソファに座る母オルミッタとコンスタンスに話し出す。
「公爵領へ行こうと思う」
そして視線だけ流してコンスタンスに据える。
「お前も、いいな?」
「え…本当に?」
子供達の様子に目を丸くしたのはオルミッタだ。
「は? 話が見えないのだけど…」
ギリアンは搔い摘んで説明する。
「なので、とりあえずエリューシア嬢に鑑定を頼みたいんですよ」
「なるほど。
それはわかったけれど、どうしてコンスタンスを同行させる必要が?」
ギリアンは怪訝な表情を浮かべた。
「へ? あれ?
コンスタンス……お前、言ってないの?」
「あ~……オルミッタ様やゲウート様には、確かに何も……」
やらかしちゃったなぁと言いたげに、引き攣った笑いを零すコンスタンスに、ギリアンがゆるゆると首を振った。
「あ~ほら、もうアマリア様の捜索任務が完了したから、ソナンドレ家だけでなく、メフレリエ縁者でその任に当たっていた者達は、全員手持無沙汰になったんですよ」
オルミッタも若干引きながらではあったが、その話には頷く。
遺言に従って、過去の当主の妹君の捜索を続け、例え遺品だけでも……と、それを悲願に多くのメフレリエ縁者が、長年調査探索に当たっていた。
だが、何処がどうなってかわからないが、エリューシアによってその悲願は果たされた。
残念ながらギリアンはそれに立ち会えず、実感はないが、任を離れた一部の者が燃え尽き症候群になっていると言う話は耳にしており、他の任務を手配したりと、陰ながらフォローしていたのだ。
で、実はコンスタンスもずっとその任に当たっていた。
強力ではないが、鑑定も走査も使える希少な人材で、しかも蟲使いでもある為、戦闘力も申し分なく、令嬢でありながら各地を飛び回って捜索してくれていたのだが、彼女も一時期呆けていた。
だからギリアンや、彼女を溺愛してやまない義兄が、あれこれ提案していたのだが、その中で妖精姫こと、エリューシアがコンスタンスの琴線に触れたらしい。
会ってどうしたいのかまでは聞いていないが、まぁ会わせてみればわかる事だし、なるようになる。
コンスタンスがエリューシアに仕えるとか言ってくれれば、メフレリエはソナンドレを介して、ラステリノーアにつく事も可能だ。
宮廷魔法士を多く輩出してきたメフレリエだが、王家に阿った事はなく、常に中立を心掛けてきた。
しかし、宮廷魔法士としての歴史が長い為、どうしてもそう見られがちで、かなりなストレスになっている。
中立を謳っている以上、旧王家より暫定中央やラステリノーアに、大っぴらに迎合する訳にも行かず、当主や嫡男は溜息を零す事が多くなっていた。
ギリアンからしてみれば、別にそんな気兼ねせず、暫定中央でもラステリノーアでも、手を組めばいいと思っているのだが、まぁそこは面倒くさい貴族ならではの何かがあるのだろう。
「色々と断片的過ぎて、今一つピンとこないけれど、まぁコンスタンスだものねぇ…。
良いでしょう、気を付けて行ってらっしゃい。
ですがエリューシア様は我らにとって大恩ある御方…決して粗相のないように」
「はい!」
何故が姿勢を正して滔々と述べるオルミッタに、コンスタンスは珍しく満面の笑みを浮かべた。
「明日には出立したいから、あまり大荷物にならないようにしろよ?」
「心得ておりますわ。
ずっとあちこち飛び回っておりましたもの」
「……まぁ、うん……メネライトまで一緒に行くから、ソナンドレへの連絡には支障が出たがな……」
「仕方ありません。
お義兄様は私から離れてくれませんもの」
清々しい程良い笑顔で言われ、ギリアンとオルミッタは苦笑を浮かべるしかなかった。
だが、旅の準備は必要なかったと知るのは、もう少し後の事…明日になってからである。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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