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 ぐうの音も出ないとはこの事で、ギリアンは頬を指先で掻きながら、彼女達の対面に座る。


「防犯魔具の起動はさっき確認したから、此処で話してくれていい。

 それで?

 確かに運び込まれたって聞いたけど、俺の担当じゃないぞ」


 その言葉にコンスタンスはムッと可憐な唇を歪めた。


「何て事でしょう。

 それなら戻すんじゃなかったですわ」

「何の事だ?」


コンスタンスはサーペントが襲撃してきた当日の話を、ギリアンに語って聞かせた。

 徐々にギリアンの表情は険しくなっていく。


「…………」

「「ギリアン?」様?」


 考え込んで口を閉じたギリアンに、オルミッタとコンスタンスの声が重なる。

 そんな2人を華麗にスルーし、ギリアンは『あ~』と溜息にも似た音を口にして頭を掻きむしった。


「まずい……かもな…。

 いや、大丈夫か……んん…」


 独り言のような呟きの後、すくっとソファから立ち上がる。


「ちょい行ってくるわ。

 母上もコンスタンスも、気をつけて帰れよ」

「「は?」」


 唐突な挨拶に面食らったのは、女性2人の方だ。


「ギリアン様、聞いてました?

 私はどうなったかが知りたくて、オルミッタ様に頼み込んで、此処へ連れてきて頂いたんですよ!?」

「はぁ……ギリアン…相変わらず人の話を聞かない子ね…いえ、話を聞かない以前だわ。

 気になある事があると、それ以外が何処かに吹き飛んでしまうのよね……はぁ我が息子ながら何て残念な子でしょう…これでは婚約なんて夢のまた夢だわ…」


 ここぞとばかりに愚痴を零すオルミッタに、ギリアンが固まった。


「オルミッタ様、スローク様には婚約者がいらっしゃいますし、仲も良好とお聞きしています。ロベール様も気になる女性がいるとかいないとか……。

 ですからギリアン様が多少…いえ、かなり残念でも問題ないはずですわ」


 ダメ押しとばかりにとどめを刺すコンスタンスに、ギリアンは項垂れてしまう。


「あぁあ~~~その、ちょっと気が逸れただけで……って…悪かった!

 悪かったって……すまん…。

 じゃあ聞いてくるから、此処で待っててくれ」


 女性2人を前に、口で勝てるはずもなく、大急ぎで面会室を出たギリアンは再びエレベーターに乗り込んでいった。


 目的のフロアに着き、暗い廊下を進むと、周囲に馴染まない金属扉が見えてきた。

 主に魔物の研究をしているこのフロアは、生きた魔物も運び込まれる事がある為、その警備防御はかなり厳重となっている。

 それ故、普通の開閉方法ではびくともしないので、中から開けて貰わなければ入れないのだ。

 金属扉の横の壁に、魔石が半分埋め込まれていて、まるで警告灯の様に存在している。

 それに魔力を流して、内部との通話が可能となるのだ。


「忙しい所すまない。

 魔具部門のギリアンなんだが、ちょっと良いだろうか?」

『え、ギリアン?

 どうした? あ~、ちょっと待ってくれ』


 返ってきた声は同期のゼダン・ウズォーダンのもの。

 ゼムイストの分家の出で、長男マクナスは後継を降りて外交の道を進んだ。その為次男であるゼダンが後継となっているのだが、本人は妹が説得に応じてくれたら後継を譲る気満々なので、自身は後継としての仕事もしながら塔に職を得ていた。


 ゴゴっと重い音がして、扉がゆっくりと開き始めた。

 人一人通れるくらいの隙間が空いた所で動きは止まり、中で待ち構えていたゼダンが入ってこいと手招きをしている。

 ギリアンが隙間を通り抜ければ、背後で扉は直ぐに閉じられた。


「魔具部屋に籠りきりのお前が出歩くなんて、雨でも降るんじゃないのか?

 それで、どんな用件なんだ?」


 へらりと冗談交じりに訊ねてくるゼダンに、ギリアンはどう言ったものかと視線を彷徨わせた。

 まさか塔に先んじて、親戚の令嬢が調べていたとは、とてもじゃないが言い出せない。


「あ~……学院に現れた魔物が運び込まれたって聞いてさ」

「ん?

 まぁ、確かに運び込まれたけど、お前、学院にそんなに思い入れあったっけ?」

「ぅ……。

 んとだな、そう、ベルク!

 ベルクは俺の数少ない友人なんだが、あいつ、今も学院に出入りしてるから、気になっちまって…」

「自分で友人が少ないとか言うなし……」


 呆れたように肩を竦めるゼダンに、ギリアンは苦笑を浮かべるしかない。


「それに……ほら、今、親戚が一人学院生なんだよ」

「あぁ、そう言えばソナンドレの令嬢がいたっけ。

 ……でも養女なんじゃなかったっけ? 血の繋がりもないのに、そんなに気にするって事は、もしやその令嬢がお前の婚約者だったり?」

「はぁ、冗談でも勘弁してくれ。俺にも選ぶ権利と言うのがある!

 それにあいつの婚約者は半ば決まってるから、噂の種にはなってやれないな」

「むぅ……ま、仕方ない。ネタにするのは諦めてやるか…。

 ふむ…ま、養女とは言え、同門の令嬢がいるなら、気になるのも当然だろうしな」


 納得してくれて一安心だが、このゼダンという青年、なかなか侮れない。

 一応後継を維持している事もあって、どうしても外せない社交は行っているし、何より4人兄姉妹(きょうだい)で、姉妹に挟まれる形で育ったためか、女性の話の輪に加わるのが上手いのだ。

 そのせいか、塔内の噂話は、大抵ゼダンが情報源だったりする。


 適当な椅子を引っ張って座ると、ゼダンが話し出した。

 個体情報なんかもずらずらと教えてくれるが、その辺りはギリアンの持つ知識と照らし合わせても齟齬はない。


「他には?」

「他?」

「あぁ。おかしな所とかなかったのか?

 普通に考えて、南部に生きるサーペントが、遠路はるばる北上してきたなんて、おかしな話だろう?」

「まぁ、人為的な何かが絡んでいそうだなとは、こっちでも話は出たし、調査も開始してるよ」

「ふむ、じゃあそれ以外は何もなし?」


 突っ込むように訊ねるギリアンに、ゼダンが途方に暮れたように視線を泳がせてから、ガックリと肩を落として溜息を吐いた。


「何なんだよ……もう、事前に調べるとかした?

 ……………まぁ、遅かれ早かれ情報は出回るんだし、いいか……」


 ギリアンはやっとかと内心思いながらも、それをおくびにも出さず、しれっと先を促す。


「まだ口外禁止で頼むよ?

 もしかしたら…なんだけど、操られてた可能性があるんだ。

 テイムされてるとかではなく、異物が埋め込まれてたんだよ」


 そう言って、ゼダンは自分の眉間を指さした。


「へぇ、じゃあその異物は重要な手掛かりなんだな?

 もうその出所とか諸々は、判明した感じ?」


 ギリアンの問いに、ゼダンは大仰に両手を上げる。


「いーや、からっきし…。

 パッと見は種って感じなんだよ……でもそれだけ。

 表面はデコボコしてて硬いし、ホント何の変哲もない種って感じなんだけど。

 他には寄生性の新種の植物かもって意見もある。体内に、しかも消化管以外にあるってのは不気味だからな。その可能性も含みで必死に調査してるとこだよ。

 一応、種らしき物体の方は、水に浸して変化を見てる所だな」

「鑑定は?」

「当然、鑑定持ちが試みたさ。

 だけど、どうもよくわからないみたいで……」

「俺も見させて貰っていいか?」

「ギリアンって鑑定持ちだったっけ?」

「いや、だけど別の視点からみたら、何か気付けるかもしれないだろ?」


 ギリアンの言い分に納得したのか、すぐさまゼダンが異物の場所へ案内してくれた。


 案内され、異物を見せて貰う。

 コンスタンスから聞いていた通り、直径が1cm程の歪な球体で、表面は硬そうだ。

 だが微妙な波動と言うのはわからない。


 一応どんな危険があるかわからないと言う事で、魔具による結界が幾重にも張られた中に置かれているせいかもしれない。


「なぁ、これ……ちょっと預かっても良いか?」


 ギリアンの言葉に、ゼダンは目を見開いて固まっていた。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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