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 エリューシアは、自分のベッドで目をしばたかせ、何時もの天井を見つめた。


「……ぁ…私の、部屋…?」


 あの荒れた地にあった粗末な小屋で、必死に鑑定を駆使しながら異物除去処置を行っていたはずなのに…と、ゆっくり半身を起こした。

 蟀谷に指先を当てて、少し考え込む。

 後の事を思い出せず、恐らくだが気を失ったのだろうと結論付けた。

 となれば、どうやって帰邸した? 誰が帰邸させてくれた?…と考える。


 ジョイは地中を走れるが、患者もいたので無理があるだろう。

 イルミナシウスは、恐らく転移は可能だと思うが、以前ネルファが言っていたように、繊細な魔力操作は苦手らしいので、人間と言う脆弱な存在を連れての転移を了承するとは思えなかった。


(ま、そうよね。

 ネルファが態々(わざわざ)迎えに来てくれたと考えるのが自然だわ)


 エリューシアは立ち上がり、自分を見下ろす。

 どうやら一応着替えてはいるようだ。

 きっとサネーラかナタリーが着替えさせてくれたのだろうが、あの服の浄化を自分はしていない事を思い出す。


 患者の体内に巣食っていた異物の感染経路がはっきりしない以上、下手に触れない方が良いのは間違いない。そこまで考えて、エリューシアは自室を飛び出した。

 地面に膝をついたし、かなり汚れていたはずなので、一番に洗濯場を目指す。

 普通、高位貴族の令嬢が近寄る場所ではないが、エリューシアが普通ではないのは今に始まった事ではない。


 だが、途中でジョイに呼び止められた。


「お嬢様」

「! ぁ、ジョイ……ジョイも無事戻れていたのね」

「はい、ネルファ様に転移で連れ帰って頂きました」


 やっぱりかと、内心で漏らした苦笑が表情に出てしまう。

 だが、のんびりしている訳にはいかない。丁度目の前にジョイが居るのだからと、自分の懸念を伝えれば、既にネルファが対処していてくれたらしい。

 全員を公爵邸まで転移で連れ帰り、そこで着替えてから、念の為に衣服だの、焼却可能な物は焼却処分にしたそうだ。

 イルミナシウスが嬉々として燃やし尽くしたと、ジョイが困ったように笑う。


 そこへクリストファが近づいてきた。


「エル、目覚めたんだね。

 大丈夫?

 現地で倒れたと聞いたからね…心配で、ずっと傍についてたのに、ちょっと席を外した隙に居なくなっていたから、探し回ってしまったよ」

「! ごめんなさい」


 『エルが無事ならそれで良いんだ』と呟いて、クリストファがエリューシアを抱き締める。

 年下のジョイの目の前で何をするんだと、引き剥がしたい衝動にかられたが、本当にソレをしてしまうと、間違いなくクリストファが凹むので、グッと我慢していると、クリストファからつい今しがたまでの甘い空気は一掃され、真剣な声が洩れた。


「じゃあ行こうか」

「うん」


 エリューシアとクリストファの後ろをついてくるジョイから、妙に生暖かい視線を感じ、エリューシアは、気恥ずかしさに居たたまれなくなりながら連行されて行った。







 本棟の一室に連れていかれれば、其処には公爵家面々に加え、イルミナシウスとネルファも揃っていた。

 ただイルミナシウスとネルファは人型ではなかったので、エリューシアは思わず目を見張ってしまった。

 その視線に気づいたのか、ネルファが苦笑する。


「申し訳ございません。

 少々人型を維持するのが覚束なく…」


 そこまで聞いて納得した。

 確かに何度も転移して貰ったし、イルミナシウスも焼却等を行ったらしいので、魔力の温存を図っているのだろう。


 なるほどと頷きつつ空いた席に座れば、すぐさまアーネストから労いと安堵の言葉が掛けられる。


「エルル、本当に無事で良かった。

 座った姿勢で辛くないかい?」

「はい、大丈夫です。

 ご心配をおかけし、申し訳ございません」


 座ったままだが、軽く姿勢を正して一礼すれば、セシリアもホッとしたように微笑んだ。


「それじゃあ、今後の事も含めて……。

 まずはジョイからの救援要請の顛末を聞かせてくれるかい?」


 エリューシアは、一連を順を追って話す。

 途中ジョイが補足したりしていたが、ネルファの言葉にアーネスト達は眉を顰めた。


「念の為、皆様の衣服等に関しては焼却させて頂きました。

 焼却できない物については、浄化してお返ししております。


 あくまで現段階で…ではあるのですが、恐らく触れた程度では問題はないと思われます。

 ただ、一度でも術を行使されれば、種は確実に植え付けられているでしょうね」


 ネルファに顔を向けてクリストファが問う。


「やはり聖女がヴェルメに関与していると思って間違いない?」

「はい。

 微かですが聖力の残滓がありましたので、聖女とか言う人物の関与はあると思います。

 ただ、その人物が乗っ取られているのか、それとも協力関係にあるのかはわかりません」


 室内に沈黙が流れるが、ジョイが『ぁ』と声を上げた。


「お嬢様、此方こちらを」


 ジョイがポケットから何かを掴みだして差し出して来た。

 それを受け取ると、隣のクリストファは勿論、その場に居る全員が覗き込んできた。


「まぁ、随分と細かい細工ね」

「それは金属なのかい? 細工もそうだが、とても鮮やかな色彩だな」

「金属に色づけしてある? そんな技術は……」


 セシリアが感嘆する様に呟くと、アーネストがその後を引き継ぐ。

 そしてクリストファの言葉に、エリューシア以外の皆が頷いた。


「これは?」

「分院の一室に落ちていた物です。

 一応ツヴェナ神官に確認したのですが、見た事がある気もするがはっきりと覚えていない…との事でした」

「そう……神官は無事目を覚ましているのね、良かったわ」


 エリューシアはジョイからの報告を聞きながら、掌の上の小さなソレに目を細めた。


「お嬢様、これは何なのでしょう……」


 弱ったように呟くジョイに、エリューシアはそっと溜息を吐いた。


(転移決定……。

 しかも、何なの…。りにもって何でコレなの……。

 本気で頭が痛い…だって、もしかするとその聖女とか言うのが転移した原因って、私かもしれないじゃないのよ……あぁ、もう……)


 もう一度溜息が零れてしまうが、話さない訳にも行かないだろう。


「……これは校章と言う品ね」

「こ…う、しょう…?」

「えぇ……」


 エリューシアはそこで言葉を途切れさせてしまう。

 と言うのも、自分が転生者であると言うのは、両親とクリストファにしか話していない。

 イルミナシウスとネルファは、イヴサリアの眷属なので察しているかもしれないが、他には話していないのだ。

 別にジョイ達なら知られても問題ないと思うが……。


「えっと……とても遠い場所では学校毎に紋章があるのよ。

 それをこういう小さな…何と言えば良いかしら…アクセサリーみたいな物にして、生徒はそれを身に着けるの。

 だから、これだけでも何処の学校かとか、見る人が見ればわかるようになっているのよ…他にも一部では学年なんかもわかるらしいけれど…

 まぁ身分証明の一つと思って良いわ」


 そこまで言い切って、エリューシアは項垂れた。


(そう…何処かわかる…。

 えぇ、見たことあるもの……道路挟んで5分もかからずにあったあの学校…。

 珍しく女子高だったのよね……その名も『聖智女子高等学校』略して『聖女』だったわぁぁぁ!!

 本当にご近所で、近くのコンビニにはそこの生徒が良く寄り道してたのよね…。

 つまり…つまりよ!?

 私が転生した事で、世界を隔てる壁が薄くなってたとか、そういうオチだっりしない!?

 もしそうなら、聖女は完全に私の被害者じゃないのよ……)





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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