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 赤茶けた大地は乾き、足を踏み出すとザラリと脆く崩れる。

 ジョイは念の為ペンダントを握る。


 そう、あのイルが繋いだとか言うアレだ。

 だが、何かが伝わってくる様子はない。


 先だって実験的にイルから色々伝えて貰ったのだが、実を言うと直接的に細かな指示が伝わる訳ではなかった。

 単語と言うか、断片的に伝わってきた物を、自分で繋ぎ合わせてから確認すると言う作業が必要だった。

 元々イルが端末となる…今の場合ジョイのペンダント周辺にヴェルメが居ないか、探査する為のものだから仕方ない。

 断片だとしても伝わるだけで十分凄いのだ。


「ま、もしかしたらイルミナシウス様の力が強すぎて、俺ら人間への影響が大きいから制限してるだけかも…だけどな…」


 何にせよ、何も伝わってこないのだから周囲にヴェルメの気配はないと言う事だろう。


 乾いた大地に立ち枯れた…死樹が墓標の様に並ぶ中を進む。

 遠く、崩れかけた石作りの小屋が見えてきた。

 遠目にも古そうな其れは、この死の森がまだ青々としていた頃の名残だろうか…。


 自身の足音の中に、何かが混じった。


「……」


 ジョイは身を伏せ、死樹の影に一旦身を顰めて周囲を再度窺う。

 音はどうも小屋の方から聞こえるようだ。しかも単調な物音ではなく、高低のある音…話声の様に聞こえた。


 そっと小屋に近づく。

 踏みしめる大地が脆いので、気配を殺しながらだと近づくだけで一苦労だ。

 やっとの事で小屋の壁に身を張り付ける。

 崩れた一角を見つけ其処へ近づくと、やはり声の様な音が聞こえた。

 ジョイは耳を澄ます。


「……う、ダメで………………俺達………逃げら………」

「………なさ………あぁ、あの子は……………………私のせいよ、わ…………」

「…がう! ツヴェナ様の…………い!」


 そこまで聞いて、ジョイは心の中で呟いた。

 『見つけた』と…。

 その時、苦し気な呻き声が耳に飛び込んでくる。


「ぅ………ぅぁぁ……ぁ」


 色々と事情を聞かせて貰わねばならない相手だ。怪我人が居るなら恩を売っておいた方が聞きだしやすいだろうと、ジョイは気配を殺す事をやめ、崩れた箇所から顔を覗かせた。


「誰かいるんですかい?」

「ヒッ!」

「しまった…」


 相手方に怯えと警戒を感じ、ジョイは努めて穏やかな声を心掛ける。


「すんません。

 道に迷っただけの行商人なんですが、その…苦し気な声が聞こえたもんですから。

 もしかしたら、商品に持ち歩いてる薬草が役に立つかもと思いましてねぇ。如何です? これも何かの縁だ、お安くしときますよ?」


 金に細かい風を装う。

 大商人ならいざ知らず、こんな辺鄙な場所まで足を延ばす行商人等、そう多くはないし、行商人らしくない等と思われては困るからだ。


「い……いえ、すみません…。

 私共はお金の持ち合わせが……ですので…」


 女性の声が返ってくる。

 もしかするとさっきも名が出てきた『ツヴェナ神官』かもしれない。

 

 しかし……ツヴェナ神官だとするなら違和感を覚えてしまう。

 先だって話をした回収人の婆や、他に辛うじて話が出来た人との評価と、どうしてもズレを感じてしまうのだ。


 聞いた人物像だと、苦しむ人が居るならどうにか薬草を欲しいと願うだろうと思っていたのに…。

 ジョイは少し考え込むように目を細める。

 思ったより、事態は逼迫しているのかもしれない。


「そうですか、いや、お代はまたの機会でよろしゅうございやすよ。

 おいらだって極悪人じゃありませんや。そんな苦しそうな声をきいて、素通り出来る程腐っちゃぁいないつもりですよ。

 じゃあ、ちょいと失礼しやすよ」

「いえ、そんな…」


 崩れた箇所から離れ、扉の方へ回る。

 薄く割れたところも目立つ扉をあければ、『ぁ』と息を飲むような声が鼓膜を震わせた。

 だが、ジョイはそんな事を気に掛けられなくなってしまった。


 小屋の内部には錆び付いて、使われなくなってから久しいであろう道具類が転がっている。

 床は元々なかったのだろう。

 作業小屋、収納小屋だと考えれば、ごく普通の事だが、今はそのむき出しの赤茶けた地面に、5名横たえられている。

 男性4人に女性が1人。年齢は全員が中年と言った所か……老人や子供の姿はない。

 敷布も毛布もなく、ただ地面に苦しそうに身を丸めて横たわっているのだ。

 そして点在する茶色い染みの様なモノが確認出来る。


 その染みは気になるが、今はまず苦しそうな人々をどうにかせねばならない。


「こ…こりゃ酷い…」


 思わず何時もの口調に戻りかけたが、何とか取り繕えた。

 ざっと見た感じ、怪我と言うよりは病気だろうか…?

 しかし顔色は悪く、小刻みに震えている。

 熱でもあるのだろうか…となれば何を一番に疑えば良いだろう?

 だが、何を疑うにしても熱発を伴う病は多い。まずは念の為に、まだ起き上がれている人…所々破れた神官服を身につけた女性と、最早服なのか何なのかわからない襤褸を纏った痩せぎすの男性の2名だけだったが、其方に薬草を背負い袋から取り出して渡そうと地面に置く。


「あんたらも、これが効くかどうかはわかりゃしませんが、とりあえず食っといてくださいよ。煎じる道具も何もないから、それで我慢しとくれよ」


 言うが早いか、ジョイは取り出した薬草の残りを手に、横たわる病人へ近づこうとする。

 しかし鋭い声でそれは制された。


「いけません!!」

「……ぇ…?」

「ダメです……近づいてはなりません……。

 心優しい行商の方……どうか直ぐ此処から出て行ってください」


 神官ツヴェナは無意識だろう。

 涙を浮かべて、それでも首を横に振り続ける。


「もう……もう出来る事等ないのです…。

 どうか……私達の事は捨て置いてください……」

「ツヴェナ様……」


 痩せぎすの男性の方も、辛そうに顔を歪めるだけで、彼女の言葉を否定も何もしない。


「それは……どう、いう事……で…」


 頭が混乱する。

 ジョイは言葉に詰まり、途方に暮れた。

 相変わらずペンダントは無反応だ。

 ならば単なる病気なのではないだろうか? 最悪感染したとしても、ジョイには主であるエリューシアが居る。

 口外不可ではあるが、彼女に癒せない病ではないだろうと高を括っていたのだが……。


 ツヴェナは両手を祈る様に組み、しばしの沈黙の後に続ける。


「何故こんな事になったのかわかりません…いえ、違いますね……。

 あぁ、そんな事は今はどうでも……」


 彼女の頬を伝い、雫が落ちる。

 そしてツヴェナは視線を茶色い染みの方に向けた。


「あぁは……なりたくない、で…しょう……?」

「……あ……え…?」


 どう言う事だと、ジョイは頭を抱えたくなった。

 人が茶色い染みになる病等、聞いた事もない。

 いや、それ以前に病なのかもわからない。

 混乱した様に固まるジョイに構わず、ツヴェナは話を続ける。


「私も…彼も、そう時間を置かずにあぁなってしまうでしょう……。

 そして其処に横たわる方々は間もなく……」

「いや…だって……そんな訳……」


 動けないジョイの背後で叫び声が響く。


「いけません! 離れて!!」


 ツヴェナはジョイを引っ張り、扉の外へと押し出そうとした。

 痩せぎすの男性もそれに加勢してくる。


 だが、そんな2人の後ろでは、地面でのたうち苦しむ中年男性が、更に苦痛の悲鳴をあげているのだ。


「う゛あぁ……ぐ…がぁぁああああああああああ」


 叫びをあげる中年男性の身体が、仰け反り跳ねる様が、自身を押しやろうとする2人の合間から見える。


「ぎぃぃぃいいいいいいあああぁ……ぎゃぁぁぁあああああああああ!!!!」


 紛う事なき断末魔……。

 仰け反る中年男性の身体が、不自然にうねる。

 血の気を失ったように青白い肌が、ボコボコと奇妙に蠕動したかと思うと、ぶわりと膨れ上がった。


「!!」


 膨れ上がって……そして弾けた。

 弾けたのに血の一滴も飛び散る事なく、無数の蔓の様なモノが吹き出す。


「ぐががが……が……っは……………」


 蔓は自身が生える男の身体に巻き付き、見る間に花を咲かせた。


 咲いては散り……

   咲いては散り……


 ……………咲いては散り続け……



 最期には干からびて茶色くなったかと思うと、ボロボロと崩れ…崩れて、茶色い染みのようになった。


 病じゃない、病でなんかある訳がない。

 ジョイは2人に押し出されながら、必死にペンダントを握りしめた。


 ―――反応しろよ…

 ―――神龍なんだろッ!?

 ―――反応しろって!!!

 ―――これは……どうみたって……お前が探してるモンだろうがッ!!!!!





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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