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七寸:蛇の急所。

   頭部から七寸(約20cm)下の場所とされているそうです。

   故事成語にも『打蛇打七寸』とあるそうな。




 だが、遅かったのだと直ぐに知る事になる。


 いそいそと借り上げ邸へ向かうオルガの背中を見送って、残されたお弁当にアイシアをメルリナが手を付け始めて直ぐ、見送ったはずのオルガが血相を変えて温室に転がり込んできた。

 その後ろ、微かに悲鳴のような声が聞こえる。


「メルリナ!

 アイシアお嬢様を連れて! 早く!」


 普段から落ち着いて大人びているオルガの取り乱した様子に、メルリナはただならぬものを感じ、すぐさま行動に移していた。

 目を丸くしたまま、呆然としたようなアイシアの手を取る。


「アイシアお嬢様、失礼します!」


 オルガが温室の扉を、開いたままの状態で押えている。

 そこを急いで通り抜けると、喧騒から遠ざかる様に、メルリナはアイシアを連れて駆け出していた。


 メルリナが正しくアイシアを避難させてくれた事を確認したオルガは、すぐさま喧噪の方へ取って返す。

 上体を低くして重心を前に落とし、淑女とは言い難い速度で駆け抜ける。



 学院内は基本武器の持ち込みは許されていない。

 それ故オルガも暗器の類でさえ身にけていなかったが、だからと言って全くの丸腰と言う訳ではなかった。

 この世の至宝と尊んでいるエリューシアは当然の事、そのエリューシアが慕うアイシアも深青の小淑女と呼称される貴人で、そんな2人を守るために武器の代わりとなる物は常に身にけている。


 剣槍が許されないならカトラリーを。

 カトラリーが許されないなら小石を……。



 オルガは手に小石を幾つか握ったまま、鉄臭さと悲鳴が充満する場所へ駆け込んだ。


「きゃぁぁぁ!!」

「うわあああぁぁぁぁ、ど、どけよ!!」

「た、たす、け…て……」

「ぅ……ぁ……ぃ、ぃた…い…」


 中庭には無残な光景が広がっていた。

 整えられた花壇は、無粋に踏みにじられている。

 周囲には血にまみれた学生達が、恐怖と痛みに呻いているが、それを嘲笑あざわらうかのように、見上げる程の大きな蛇型の魔物が不気味にチロチロと赤い舌を覗かせていた。


「……サーペント…あ…あり得ない…」


 サーペントと呼ばれる大型の蛇種魔物の生息域はもっと南のはず。

 ずっとずっと南西の、海に程近い場所を生息地としていて、人間の領域で見かける事等、辺境でもほぼ無い魔物だ。

 その強さも相当なもので6階級…Bランクに相当する強さを誇る。とは言え感覚的には7階級にも感じられると言われている。

 それと言うのも状態異常攻撃が豊富で、弱点を突けないとじり貧になる事が多く、嫌厭けんえんされる魔物の一つなのだ。


 オルガがすんなりとその名を口に出来たのは、知識としては知っていたからに過ぎず、実際に見た事等なかった。恐らく北の辺境出身で実戦経験も豊富なメルリナも見た事はないだろう。


 オルガはクッと唇を引き結び、悠然と獲物を睥睨へいげいするサーペントを見据みすえる。

 全身を覆う鱗は金属のような光沢を帯びていて、手にした小石はおろか、恐らく少々の武器では傷一つつけるのも難しいだろう。

 横の方から近づいてくる足音に気付き、予断なく視線を動かせば、血相を変えたベルク達の姿が見て取れた。


 緊急事態と言う事でベルクを始めとした教職員も武器を手にしているが、それでも目の前の魔物をどうにかするのは難しいと言わざるを得ない。

 しかし、このまま睨み合いを続けていても、埒は明かないし、何より負傷した学生達の命に関わってしまう。


 オルガはサーペントから少し離れた場所で観察していたが、口を開くと同時に学生達とサーペントの間に割り込むように躍り出た。


「ベルク様、私が気を引きます。

 その間に負傷者を!」

「な!?」


 ベルクを先頭に、教職員や衛兵達は驚愕の表情を隠せない。


「オルガ嬢、あまりに危険だ!

 君は下がってくれ!」

「そうです!

 後は我々が!」


 ベルクの言葉の後を引き取った衛兵の一人が、言い終えるや否や、剣を振り被ってサーペントに一直線に切り込んだ。


「うあああああああああぁぁ!!!」


 グンと空気を割く様な音と共に振り下ろされた剣は、サーペントに傷をつけるどころか、掠める事もなく一振りした尾先であっけなく振り払われる。


 グチャと嫌な音を立てて、衛兵の身体が地面に叩きつけられた。


「「「「「!!!!!」」」」」

「言ったでしょう!?

 私が気を引きます!

 この中で私が一番身軽でしょう、だから、その間に負傷者の回収を!!」

「わ、わかった!

 皆、今は学生達の安全の確保を!!」


 ベルクの怒号を背後に、オルガは衛兵が落とした剣を拾い上げて構える。


「お前の相手は私です!」


 オルガが左手に持ち替えていた小石を、サーペントの顔面目掛けて投げつけた。

 一瞬見下すように目を細めたように見えた魔物が、小石を尾先で弾く。その隙に距離を詰め、その顎下を狙う。

 出来れば背後から襲い掛かりたい所だが、現状其れは不可能だ。

 サーペントは既にオルガを認識していて、意識を向けている。

 ならば少しでも鱗の薄そうなところを狙って隙を作るしかない。


「この勝負、分が悪すぎますね……。

 メルリナだったら、もう少し良い勝負になったかもしれませんが、現状出来る最善を尽くすしかありません」


 滅多に表情を動かさないオルガだったが、小さくそう呟いて口角を歪めた。

 剣を握り直し、地面を踏みしめて体勢を整え、まず横薙ぎに一閃。剣先が鱗を捉えるが、案の定傷一つつかない。


 せめて口を開いてくれれば、小石をぶち当ててやるのにと、オルガは何とか隙を作ろうとするが、サーペントの方も流石は6階級…なかなかにさかしい。


 弱点と言われる七寸を、オルガに決して晒さない。


 だが、そうしてオルガがサーペントの気を引きつけていたおかげで、負傷者の回収保護は、ベルクと更に駆け付けた副学院長の主導の下、順調に進んでいた。


 しかし折角の獲物をサーペントがみすみす逃がすはずもなく、オルガが身を捩って回避した隙を突き、無防備な負傷者と救護人達に襲い掛かった。


「ッ!!」


 オルガの視界に、厳しい表情のベルクが前に出る様子がスローモーションで映る。

 不味い…。


 オルガが何を置いても守りたいのはエリューシアだが、だからこそエリューシアが慕うアイシアも、アイシアに連なる者達も守らなければならないのだ。

 それなのに……




 あぁ……間に合わない!!


 伸ばしたオルガの手が虚しく空を掻く…その刹那…






ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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