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ジョイには早々に出所候補地の話は伝えられた。
何時もならアッシュ経由で伝えて貰うのだが、今回はイルミナシウスが繋いだペンダントのテストも兼ねて、そちら経由で伝えて貰う事になった。まぁ色々とありはしたが無事伝わったので良しとする。
そして現在はジョイからの連絡待ちだ。
あれから暫く経つのだが、音沙汰なしで少し落ち着かないが、待つ身なので仕方ない。
エリューシアは父母、そしてクリストファと共に夕食を終えた所なのだが、自室に戻る前に父アーネストから談話室への移動を促された。
何か話があるようだ。
母セシリアは何の話か聞いているのかいつも通りなのだが、エリューシアとクリストファは何も聞かされておらず、互いに顔を見合わせて首を傾げていた。
談話室に移動し、全員がソファに腰を下ろすと、アーネストがまず口を開く。
「時間を取らせて悪いね」
「いえ、問題ありません。
それで何のお話でしょう?」
早々にエリューシアが本題へと切り込む。
「あ~…エルルは相変わらずだね」
アーネストが苦笑を浮かべるが、直ぐに表情を改めた。
「まぁ回りくどくしたところで時間の無駄か…な、うん。
先日から王都で探し物をしていてね。それで適当なものが見つかったようだから、今日手続きを終えておいた」
時間の無駄だと言いながら、何とも婉曲なわかり難い言い方をするアーネストに、セシリアがくすりと笑う。
「旦那様、それでは伝わりませんわ」
セシリアの言葉に『え』と狼狽えるアーネストを蚊帳の外にして、エリューシアとクリストファに向き直った。
「先日から王都で屋敷を探していたのよ。
エルルとクリスの婚約も受理されたし、早々に発表、そしてお披露目しようって話になったのよね」
「そうなのですか?」
てっきりクリストファが成人となる15歳になってからだと思っていたのだが、何か急ぐ理由でもあるのだろうか。
隣に座るクリストファも違和感を感じているようで、その様子を見たエリューシアが疑問を口にする。
「急なお話ではありますが、私は構いません。
ですが、理由をお訊ねしても?」
「えぇ、勿論よ。
本当はもっとギリギリまで領地に2人を隠しておいてあげたかったのだけど……」
セシリアの表情が痛まし気に沈む。
アーネストがあやすように、セシリアの手を軽く叩いた。
「何時だったか、グラストンから嫡男との顔合わせ希望の話が来ただろう?
当然直ぐ断ったのだが、どうやら学院の方に強行したようでね……」
「な……
ぁ…と言う事は……お姉様は!?
お姉様は無事なのですか!?」
一瞬で蒼白になったエリューシアが、思わずソファから立ち上がりかける。
「あぁ、ネイサンが何とかしてくれたようだ」
「……ホッとしました。
お父様、ネイサンに褒美をお願いします」
「あ、あぁ、勿論。
で、王都の方も不穏だしね……もうエルルとクリスの婚約を先に発表してしまおうと思ったんだよ。
時機を見てシアの方も発表する事になるだろうが、そちらはキャドミスタとの調整がまだだから、もう少しかかりそうかな。
発表周知が落ち着いてからお披露目の予定だが、あまり早すぎてもエルルとクリスの見た目では大騒ぎになるだろうし、タイミングをどうするかはまだ未定だ。まぁどちらにしても王都に場所があるほうが動きやすい。シア達が卒業すれば借り上げ邸は返す事になるからね」
不穏と言うと、やはり『聖女』の噂だろうか。
気になってそれを問えば、半分正解だったようだ。
どうやら外交が関係しているらしい。
これまで殆ど国交もなかった北の小国から、外交使節団を送りたいと言う話が来たのだそうだ。
数年前に南東のオザグスダム王国の因縁自演に巻き込まれそうになって以降は、それほど外交面で大きな動きはなかったのだが、最近は北方の国々が少しざわついているようだ。
リッテルセンの北方には、巨大な魔の森と険しいマウトル連山等々を越えた先にホーテルント連国がある。
連国と言う名からもわかる様に、氏族が集まって治めている国で、各氏族がしっかりと力を持っている。
そのせいか少々排他的なのだが、海路での交易があり、その歴史はそこそこ長い。
距離的には陸路の方が短く、海路の方が大きく迂回しなければならないのだが、海路の方が魔物等の危険が少しマシで、陸路は正直言って現実的ではない。
そのホーテルントの東にはゲラスタン王国と言う国があるが、ホーテルントと魔法大国チュベクを通じて交易品が流れては来るものの、直接的な行き来はない。
直接通じる道…ルートがないのだ。
近辺の国々の中では一番の国力を持つ国だが、行き来は実質不可能……勿論転移能力を持つエリューシアやネルファ(多分イルミナシウスも持っているだろうが)には全く問題ないが、行く理由もない。
今回外交使節団の派遣を希望しているのは、そのホーテルントとゲラスタンの北側に跨る様に存在する小国――ニグナンデ王国だ。
ぶっちゃけた話、資源に乏しく、最低ではないが最高にもなれないリッテルセンとの繋がり等、大した効力もないように思えるが、実は保有する戦力は大国ゲラスタンや戦狂国家オザグスダムに勝るとも劣らない。
いや、戦力の大半を保持する辺境家なら、劣らないどころか圧倒しているだろう。
その上、大陸の西の端に、魔の森や険しい山々で隔絶されて存在するリッテルセンは、土地や地域的な旨味がない事も相まって戦争を吹っ掛けられる事もなく、実は他国に比べて歴史はかなり長いのだ。
住まう人々も人間種だけで、獣人他は居ない。
そう言う面からも、ゲラスタンやホーテルントへの牽制の為に、リッテルセンとの繫がりを欲しているのではないかと言う分析結果を出したようだ。
王家不在で、暫定中央が舵取りをしていると言っても、聖女の噂に代表されるように隙だらけで揺れているリッテルセンにとってはありがたくない話で、外交使節団等受け入れている場合ではないのだが、其処は何らかの思惑も入るのだろうから仕方ない。
そんな理由もあって、ソドルセン公爵からの手紙は増える一方なのだそうだ。
「面倒な話だが、これまでのようにウチも距離を取っている訳にはいかないからね…。
何もこんな時期にと思わなくもないが、彼方の思惑を完全に把握する事は難しい。
そんな訳で警戒はしておきたくてね。万が一の横槍等は御免被る。
だから早々に2人の婚約を公表してしまおうと考えているんだ。
2人共、何があっても婚約の撤回や破棄は望んでいないのだろう?」
掌で踊らされるのは拒否したい所だが、エリューシアもクリストファも貴族の血だ。貴族の務めも重々承知している。
だから公表もお披露目諸々も受け入れるが、離れる事は断固として拒絶する。
「当然です。僕はエル以外要らない……」
「私も、同じくです」
「うん。
慌ただしいけれど、出来るだけ早々に行動したいから心積もりしておいてほしい。
それでなんだけど、明日、商会を呼んでいるから今日は早めに休むんだよ。
あぁ、今回はクリスも同席して欲しいんだが、構わないかい?
ボルトマイス伯爵夫人もルダリー伯爵の方も、2人に関しては暫く口外不可の念書もお願いするから、そこは安心して欲しい。
もうね、何処からどんな邪魔が入るかわからないし、悠長に構えず、さっさと広めてしまおうと考えているんだ」
「明日…?」
「さっさと…ですか?」
アーネストは子供達2人の戸惑いを余所に、ニヤリと笑った。
「あぁ。
アレ等の思惑等知った事か。
スヴァンダット老もベルモール家も乗り気だから、何も問題はないさ」
何だろう……。
『アレ等の思惑』と言う文言が気にはなるが、どうせ突っ込んだ所で予定が変わる訳でもないし、公表する事に不都合がある訳でもない。
エリューシアの手をそっと握ってくるクリストファの手を握り返して頷いた。
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