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 結果から言えば、単にお茶会だけとなった。

 それも当然の結果ではあった。何しろまだベルモール家の意向等確認出来ておらず、ドレスや宝飾品の準備を何方どちらでするのか等、詳細が決まる前に突撃してこられても、丁重にお引き取り頂くしかない。


 実際青筋を立てたセシリアに、ネネランタ夫人が震えあがっていた。

 後から聞いたのだが、ディオンに至っては、今朝唐突に拉致られたのだと言う……夫人の熱意はありがたいが、暴走は困ると思った一幕であった。


 しかし、これが思いがけない僥倖に繋がる。




「全く……旦那様は予定を空ける心積もりのお願いをしただけだとおっしゃってたわよ?」

「あ~ぅ~……そ、それは……イエ、相違ゴザイマセン……」


 夫人とそのメイド、ディオンとカールを通した部屋に現れたのは、セシリアとエリューシアだけだ。

 アーネストやクリストファが現れてしまったら、夫人の暴走を止められなくなりそうな気がして、セシリアが止めていた。


「ディオン様も、大変でしたわね」


 以前から宝飾関連で公爵邸に出入りしていたし、学院でも1つ上の先輩と言う事で、エリューシアだけでなくラステリノーア公爵家とは顔見知りなディオンに、セシリアが気の毒そうな顔で言葉をかければ、ディオンとカールは苦笑いする他ない。


「兎に角、まだ今日の段階で細かい事は決められません。

 申し訳ないのだけど日を改めて貰っても良いかしら?」

「はい、勿論でございます」


 セシリアの言葉にディオンが笑みを浮かべて答えるが、ネネランタ夫人の方は何やらぶつぶつと扇の奥で呟いている。


「ネネランタ?」


 納得出来ていない様子に、エリューシアも声を掛ける。


「ネネランタ様、詳細が決まるまでお待ちいただけましたら幸いです」

「ぅぅ……だって…」

「はい?」

「だって! トンマースに後れを取りたくなかったんですの!」


 何の事やらさっぱりわからないエリューシアとセシリアは、思わず顔を見合わせる。

 次いでディオンの方に顔を向けるが、彼は何やら考え込んでいた。代わりに口を開いたのはカールだ。


「失礼します。

 トンマースと言うのは、南部で最近名が出始めた商会でございます」


 そこでディオンも思い当たったのか、あぁと頷き、言葉を引き継いだ。


「確か…神殿と繋がりの深い商会だったはずです」

「まさかとは思うけれど、トンマースに依頼したりしないわよね?

 エルルちゃんのお衣装は私がデザインするの!! シアちゃんのもよぉぉぉ!!」


 ネネランタの勢いに、セシリアの方はたじたじだ。


「し、しない…と思うわ。

 と言うか、そんな商会、初耳だもの」

「王都より南を商圏にしている商会ですから、こちらでは無名なのも仕方ない事です。何より最近名が出始めたばかりですので」


 カールの補足に耳を傾けていると、ネネランタが畳んだ扇をギリギリと締め上げている。


「だけど、大きな仕事を受注したと噂ですのよ!」

「大きな仕事…ですか?」

「えぇ! なんでも聖女お抱え商会になるとか何とかで……チュベクからの魔法布とか、希少な素材を取り込まれてしまいそうなんですの!!

 で、その成果を引っ提げて王都も、他も席捲するのではって専らの噂なんですの!」


 ネネランタの言葉に、エリューシアとセシリアが微かに反応する。

 しかし、本当に微かだったので商会組には気づかれずに済んだ。


「夫人…そんな話を此処でして良いのですか?」


 商いの話だし、信用にかかわるのではないかと危惧して、エリューシアは先に聞いておこうと少し身を乗り出した。


「構いませんわ。

 だって、もう商人の間では持ち切りな話題で、秘匿する意味なんてありませんもの」


 それなら…と、エリューシアは次の質問を投げてみる。


「『せいじょ』ですか……その、『せいじょ』と言うのは何なのですか?」

「私共も探りを入れてる所でして……

 まだ『奇跡』を起こす少女だとしか判明しておりません」


 カールの返答に、更に質問をする。


「そんな話、此方では聞きません。

 どの辺りの話ですか?」

「あぁ、それなら…確かビクラン……いや、その隣のフタムス領だったと思います」


 エリューシアは脳裏に地図を思い描く。

 フタムス領には大した情報を持ち合わせていないが、隣らしいビクラン領なら少しはわかる。

 グラストン領の南にあって、北方程魔物被害はないが、瘦せた土地が多く、領民は貧しく出稼ぎで凌いでいると聞いた事があった。

 実際、北方辺境の部隊にも居たはずである。

 その隣領だと言うなら、似た傾向の土地ではないかと予想を付けた。


 それにしても流石は商人と言った所だろうか、情報が早い。

 ジョイに伝えて、早々に調べて貰うのが良いだろう。







 突撃してきた商会面々を見送り、離棟に戻ったエリューシアはクリストファの部屋の前に立った。

 ノックをすると中から、少し戸惑うような声で返事がある。

 そっと扉を開けば、中にはクリストファと、その対面にドラゴンと猫も揃っていた。

 しかし、光の加減だろうか…クリストファの顔色があまり良くないように見える。


「ジール…? 大丈夫? 顔色が……」


 急いで駆けよるが、クリストファは何でもないと笑顔で首を横に振った。


「大丈夫だよ。

 それより夫人達は帰ったの?」


 触れて欲しくない話題なのだろうか…クリストファの態度に微かな違和感を感じるが、素直に頷く。


「えぇ、先程お帰りになったわ。

 まだ何も決められる状況じゃないし」

「そうだね」


 対面の方に顔を向ければ、イルミナシウスはじっとクリストファを見つめるばかり。

 ネルファが取り繕う様に口を開いた。


「お、お疲れ様でございました。

 えっと…そ、そうです! 暫く私がクリストファ様近くに控える事になりました」


 急な話題変更にエリューシアが目を丸くする。

 それを見たクリストファが苦笑交じりに補足してくれた。


「僕は転移とか出来ないからね。

 何かあっても即応出来ればと、打ち合わせしていたんだよ」


 澱みなく紡がれる言葉に、反対に引っかかるものを感じるが、その後の言葉に違和感はあっさり霧散した。


「それで……エルがこうして来たと言う事は、何かあった?」

「ぇ…ぁ、え、えぇ。場所がわかったかも…なの」

「場所?」


 エリューシアはこくりと頷く。


「聖女の所在……と言って良いのかしら…。

 少なくとも噂の出所か、それに近い場所だと思うわ」


 そう言って、先程ネネランタやディオン、カールから聞いた内容を話した。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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