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翌日、朝食を終えて少しした頃、アッシュがやってくる。
ジョイが戻ってきたと言う報告だ。
別にジョイが直接来ても構わないし、そう言ってあるのに何故か大抵アッシュを一度挟む。
態々申し訳ないと思いつつ、クリストファと連れ立って談話室に向かう。途中イルミナシウスとネルファにも声を掛けた。
談話室に向かえば、ジョイが部屋前の廊下でアッシュと何やら話している。
「ジョイ、待たせてごめんなさい。アッシュもありがとう」
「お嬢様、おはようございます」
「滅相もございません」
アッシュは別の仕事があるのか、談話室の扉を開けてくれた後は何処かへ向かっていった。
それを見送ると、ジョイが徐に向き直ってエリューシアとクリストファを通り越した後ろを見上げる。
「お嬢様、其方は?」
ジョイに釣られるように、エリューシアとクリストファも背後を振り返って顔を上げた。
視線の先には真っ白なストレート髪が美しいイケメンが微笑んでいる。
ちなみにイルミナシウスは一番小さい為に、目立っていない。
「あぁ、此方はイルミナシウス様とネルファ様よ」
存在感アリアリに立っていたネルファと、皆の背後に隠れるように立っていたイルミナシウスの紹介の為に、エリューシアとクリストファは横に一歩ズレる。
「イルミナシウスだ」
「初めてお目にかかります。
ネルファと申します」
簡単な紹介が終わった所で、ジョイを除く全員がソファに腰を下ろした……いや、約1名は座らされた。
エリューシアがお茶の準備をしようとしたのだが、ジョイとクリストファの連携により、ソファへ運ばれてしまったのだ。
ジョイがお茶を人数分用意し、腰を下ろしたところで報告に移ろうとするのだが、困惑したような視線を彷徨わせ口籠ってしまう。
「ジョイ?」
「ぁ…ぁ~っと……その、このまま報告で良いんですか?
その……」
視線の先には、つい先程、名を知ったばかりの2人が鎮座している。
エリューシアは何か察した様に頷いた。ジョイにとって新顔の2人は、何処の誰とも知れぬ不審者でしかない。
苦笑を浮かべつつ口を開いた。
「そうよね、名前だけじゃどうして此処に居るのかとかわかるはずないわね。
説明不足だったわ、ごめんなさい。
こちらの御二人は神の眷属……イルミナシウス様の方は銀光龍、ネルファの方は真っ白なフラウロスみたいな、平たく言うと神獣でいらっしゃるの」
エリューシアのさらりとした補足に、ジョイが目を見開いて固まる。
その様子にクリストファがククッと小さく笑い出した。
「ジョイ、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
「ぁ、そうね…神獣なんて聞かされたら、固まるのも当然よね。
私ったらさっきから言葉が足りてなくて、本当に申し訳ないわ」
「い、いえ! その……ジョイ、です。
よ、よよ、宜しくお、お願いします!」
人間サイドのやり取りに、恐縮した様にネルファが頭を下げた。
「申し訳ございません。
どうぞ楽になさってください。
眷属ではございますが、現在はエリューシア様はじめ、皆様にご協力をお願いしている立場です。
他の皆様と同じように接して頂ければ幸いです」
「うむ。
ジョイとやら、楽にするが良い」
やはり何故か得意気に踏ん反り返って言うイルミナシウスの頭が、ネルファによって小気味良い音を立てて張り倒される。
「イルミナス様!」
「ぅ”……い、痛いではないかッ!」
もう何度も見た光景に様式美は感じるものの、このままでは何時まで経っても話が進まない。
エリューシアは彼等をさっくりと視界から削除して、ジョイに向き直った。
「それで、どうだったの?」
「あ、はい」
まず報告されたのはジョイが預かっていた予備の誓書の事。
問題なく消え失せたと言う話だったので、此方での顛末も話しておく。
「あぁ、良かった。
じゃあ誓書については一安心ですね」
「えぇ、反対にアッシュには申し訳ない事をしたわ」
「兄はお嬢様の用向きなら大喜びするだけなんで問題ないです。何ならもっとこき使ってやってください。最近お嬢様が何も頼んでくれないと泣いてましたから。
あ、俺も尻尾振って喜ぶんで、もっと使ってくださいよ。
それは兎も角……確かに神殿長は少し心配ですね」
王都で店番やらをしていた頃より身長は伸びたが、相変わらず美少女と言い張れる顔立ちのジョイが、笑い交じりに肩を竦めてから、真顔に戻った。
「で、報告なんですが、王都では『聖女』の噂はありました。そこそこ広まってますね。
平民の間で多く広まっているようですが、特に貧民層が傾倒してます。
元々は南の方から流れてきた噂みたいです。
まだ場所の特定にまでは至っていなくて…すみません。
ただその噂を頼りに、貧民達が一部南を目指したりし始めているみたいで、大きな騒動にはなっていないものの、警備隊には悩みの種になっているようでした」
「そう……まぁ、大きな騒動になっていないと言うのは、少しホッと出来るわね」
「ん~何とも言い難いですね…と言うのも、貧民が動く事で治安に対する不安なんかも囁かれる始末で、門近くでは小競り合いに発展するケースもあったようです。
とは言え、そんな状態ですから『聖女』とか言う輩は、まだ王都に居ないと思って大丈夫そうです」
ジョイの報告に、全員が思考の海に沈んだ様に重い静寂が落ちる。
沈黙を破ったのはエリューシアだ。
「他には?
そうね……『聖女』って、何を以て『聖女』と呼ばれているの?」
「あぁ、何でも怪我や病気を癒してくれるんだそうですよ」
「癒し系…ね」
「えぇ、なんだっけ、そうそう、花が咲くとか何とか言ってましたね。
だから別名『花乙女』とも呼ばれ「「「「花!?」」」ですって!?」てるとか……」
『花』と言う言葉に、ジョイ以外が大きく反応した。
訳が分からず目を瞬かせるジョイを余所に、エリューシア達は厳しい表情になっている。
「まさかとは思うけど……」
「えぇ、まさかと思いたいのは同じよ。
だけどタイミングが良すぎるわ」
クリストファの呟きに、エリューシアが答える。
「ぇ……ぁの…?」
「ぁ、ごめんなさい…ジョイには何の事だかわからないわよね。
えっとね…」
エリューシアはイルミナシウスとネルファから聞いた話、協力要請の事等の一連について、ジョイに話し始めた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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