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今暫くは幸せな一幕を(笑)
書いてる方は悶絶しておりますが(爆笑)
尤もその場に居たのはソドルセン公爵等だけで、外部には洩れていない。王家派……既に元王家派と言う方が正しいだろうが、そちら側の者が居なかったのは幸いだった。
しかし、事態はそれに留まらなかった。
それと言うのも、バルクリス王子が何処で調達したのかわからないが、継承権放棄の言葉を口にした直ぐ後、止める間もなく何かの薬を煽り飲み、倒れてしまったらしいのだ。
側近として傍に居たハロルドも大いに慌てていたと言うから、バルクリスの独断なのだろう。
大急ぎで医師の手配他をした為に、騒動そのものは外部に漏れてしまった。
それが噂となって広まり、憶測となって不安が広がる。
数々の罪状により王家は幽閉され、王城に残ったはずの王子も毒を飲んでしまった。
それは自体は事実だが、正しくもない。
バルクリスは死んでいないのだから。しかし……。
ある意味、これはリッテルセン王国から王色が消えたと捉えられてしまったのだ。
この国の精霊への感情や考えには、信仰に近い部分がある。
精霊の姫が降嫁した事で、この国は精霊の庇護を得る事が出来たという、建国神話に基づいているのだが、その証左とも言える王家の金色、公爵家の銀色は、この国の民達にとって、思った以上に心の拠り所とも言うべきものだったようだ。
紛う事なき精霊の加護を纏った銀色は、目にした事がある者が限られている。
公爵家及びその使用人、副学院長と一部の教職員、学生も上位棟同クラスの者と他数名、スヴァンダット老人、警備隊長ヨラダスタン、後はメフレリエ家の面々くらいだ。
そして見た事がある者は、それを吹聴するような人物達ではなかったし、それ以外…例えば元オザグスダム王国王女ユミリナ等については魔法契約で拘束している。
つまりラステリノーア公爵領の殆どの民も、学院の殆どの者も、それ以外についても見た事がないと言う事で、多くの者にとっては御伽噺レベルで遠い存在なのだ。
しかし、王家は違う。
何かしらの行事でもあれば姿を見せる。
民にとって王家とは、精霊との繫がりを感じる事の出来る存在でもあったのだ。
王家がどれほど悪政を行おうと、証左の金色がくすんでいようと、民の心の安寧に繋がっていた事を露呈してしまった。
ジワリと広がる不安と動揺に、一部貴族が好機と捉えたのか、煽るような事さえし始める始末で、暫定中央を纏めるスヴァンダット老人もほとほと困り果てているらしい。
「だからってクリスを王都へというのは……どうやら意識がなかった間は時間そのものも止まっていたようで、今の所何かしらの障害等、不都合はみられませんけど……」
セシリアの表情が曇る。
「まぁうちに難癖をつけられる家も少ないからね」
ラステリノーア前公爵やその家族への仕打ちは、こちらも噂として広まっている。しかも現公爵家が否定しないのだから、状況は言わずもがなと言う奴だ。
おかげで王都へ呼ばれる機会が増えたとは言え、未だに領地に籠る事を強行出来ているのだから、この先もアーネストが噂を肯定的に利用するつもりなのは間違いない。
「やっぱり1日も早く婚約を決めてしまいませんと…」
「ッな!!!??? そ、それは!!」
「もういい加減になさいませ。本当にエルルから嫌われてしまいますわよ?」
「うぐ……っっっ…」
既に婚約の誓書は作成されており、残すはアーネストのサインのみな状態なのだ。
「それとも旦那様はエルルに涙を飲めとおっしゃるの?
中央が諦めてくれれば良いですけど、どう考えても諦める可能性は低うございましょう?
となればいずれクリスは王となる他ありませんわ。
王ともなれば外交等の絡みで、他国との婚姻も押し付けられる可能性がありますのよ?
そうなれば泣くのはエルルですわ。
旦那様はそれが良いと思ってらっしゃる?」
「ック…そ、そ、そんな事は思っていない!!」
「でしたら……」
アーネストが秀麗な美貌を苦し気に歪ませる。
思わず立ち上がってしまった姿勢から、どさりと力が抜けたように元の場所に腰を下ろした。
「そうは言うが……アイシアも卒業すれば婚約だぞ!?
忌々しいキャドミスタめ……あっさり私のアイシアを、大事な私の御姫様を……くぅぅ…」
駄々っ子のようになるアーネストに、セシリアが苦笑交じりに眉尻を下げた。
「ですが良い御縁ですわ。
今だからこそ言いますが、実は学院に行かせるのは、私はあまり賛成ではありませんでしたの」
「セシリア…?」
アーネストやセシリアが在籍していた当時にあった騒動が、前王ホックスの不貞の挙句の婚約破棄だった。
当時ホックスはベルモール公爵令嬢シャーロットと婚約を結んでいた。
これは政略によるものだったが、不出来なホックスを必死に支えようとするシャーロットを近くで見ていたセシリアにとっては、王立学院は何とも苦い記憶のある場所なのだ。
自身は努力もせず、地位とシャーロットの支えに胡坐をかいているようなホックスは、子爵令嬢であったミナリーに現を抜かし、挙句手酷くシャーロットを捨てたのだ。
「ですがシアもエルルも、本当に良い御縁に恵まれましたわ。
近くで見ていた旦那様の方が、それは良くご存じでしょう?
クリスもベルクも、本当に誠実で、真摯で……あんなにあの子達を愛して下さるんですもの、私達の娘はきっと幸せになりますわ」
「………」
「ですから、ね?
ほら、ここにサインを」
封書を持ってくるついでに誓書まで持ち込んでいたらしいセシリアが、とてもにこやかにサインを促す。
「旦那様?」
「………」
「簡単な作業ですわ。ここに名前を書き込むだけですのよ?」
「………」
「いい加減腹を括ってくださいませ」
「……で、でも……私の御姫様…」
「そうそう、お姫様には幸せになって貰いたいでしょう?」
「……ぃ゛…ぃ゛やだああああぁぁぁぁ!! まだ娘達と”離れ”た”く”なぁぁい”~~~~~~~~~~」
「まぁまぁ、何て酷い御顔でしょう」
「だって…だってだよ? シアもそうだけどエルルなんて…殆ど傍に居られなかったんだよ?
ずっと……ずっと邸に閉じ込めて…やっと一緒に出掛けられると思った矢先にあ、あ”んな……}
ふえぇぇと泣き出すアーネストの頭を撫でてやる。
「それなのに…こっちに戻らず辺境から学院に直行だなんて……やっと、やっとエルルが戻ってきてくれたのに……なのに、もう嫁に行くなんて……私は…私は耐えられない……」
当代一の美貌の貴公子と呼ばれた面影等、見る影もない。
とは言え、その美貌に惚れた訳ではないセシリアにとっては、どんなアーネストであっても問題ないのだが、流石にこれは酷い顔だ。
「泣き止んで下さいませ。
エルルもクリスも、フロンタール様も心配なさいますわよ?
使用人達だって貴方のそんな顔を見れば、御医師を呼んだり、大騒動になりますわ」
「……!」
しかしその後暫く、愛する妻に慰められたアーネストであった。
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