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神の眷属が従魔登録等して、得られる何があると言うのだ?
残念ながらエリューシアもクリストファも思いつけず、眉間に皺を刻むだけになっている。
「その……確かに本来の姿で人の居る場所を闊歩したいと言う事でしたら、従魔登録と言うのは一つの手段かと思われますが、そんな事をする必要性がないのでは?」
エリューシアは思ったままの疑問点を、ダイレクトに伝える。
此処は言葉を飾る等して、結局真核に辿り着けないと言うような愚を犯す事は出来ない。
「人型を取っていると、どうしても魔力を其方に割く事になり、本来の力が出せないのです。
仮にヴェルメを見つけたとしても、人型で対応しきれるかどうか……何しろある意味宿主を盾にされている状態になるでしょうから」
なるほど。
敵と相対した時の事を考えているのなら、その選択もアリかもしれない。
「人型になる時って、衣服他も魔力で整えておりますので、なかなかに魔力を消費するのですよ」
つまり、あまり人型を維持する羽目にはなりたくない……と言う事かと、エリューシアもクリストファも、やっと納得出来た。
だが、ここでフッと疑問が浮かんだ。
(さっき、イルミナス様とやらは、服がないと言っていなかったかしら?)
今のネルファの言い方だと、ネルファも服を持っている訳ではなく、そう見せかけていると言う事になるのではないだろうか?
そのまま疑問をぶつけてみる。
「あぁ、それはですね……イルミナス様は苦手でいらっしゃるのです。
こう、繊細な魔力操作と言うか、細かい作業と言うか……力をバッと出してドンと一撃完了と言うのは得意でいらっしゃるのですが……」
「当たり前だ!
何故我が、そのようなちまちました事をせねばならぬのだ!」
「……これなんですよ…ハハッ…」
ネルファが力なく苦笑いを浮かべる様子は、憐憫を誘った。
結局、森の異変の報告も、ネルファの案でいくことになった。
正直、バックレても良い様な気もしたが、何故かネルファは人間の町に興味があるようで、是非ともとお願いされれば断る事も難しい。
イルミナスの方は流石に従魔登録と言う訳にも行かないし、本人ならぬ本龍も希望しなかったので、エリューシアとクリストファは、揃ってホッと胸を撫で下ろした。
迷子になり、弱った子猫魔獣が居たと言う、予め考えた筋書きでギルドへ報告し、従魔登録も済ませる。
案の定と言うか、ネルファを伴って窓口に向かった時は、ギルド内が揺れた。
高さだけで大の大人くらいは優にある猫型魔獣なので、実質人間なんて玩具レベルとも言える体格な訳だが、当然そんな魔獣を連れ歩く訳にもいかない。ある程度体格も変化させる事は可能だと言うので、大きさを小さくして子猫魔獣になって貰ったのだが、それでも『フラウロス』と呼ばれる種は7階級…Aランク相当に分類される種なのだ。
どよめかないはずがない。
尤も、ネルファはフラウロスではないと思われるが、その辺は亜種とかで押し通すだけだ。
従魔登録が完了した時には、周囲から安堵の溜息が零れまくっていた。
何とか無事にギルドへの報告、従魔登録も終え、後は帰るだけとなったが、当然ながら既に夕食の時間は過ぎてしまっている。
目を吊り上げた父母を、どうやって宥めるかと頭を抱えつつ、転移で帰邸した。
当然ながら目を吊り上げた父母の出迎えを受けたが、結局有耶無耶となった。
ドラゴン姿のイルミナスと、猫型魔獣姿のネルファを伴っていたのだから、当然の結果とも言える。
そして現在……。
本棟の大き目な一室にて、公爵家勢揃い状態を前に、イルミナスとネルファは、テーブルの上に並ぶ物に目が釘付けとなっていた。
いや、正確ではない……テーブルに目が釘付けなのはイルミナスだけで、ネルファも一瞬目をキラキラとさせたが、その後はイルミナスの世話に忙しくなっている。
最初、小さいとはいえドラゴンを見て、使用人達は勿論、アーネストもセシリアも驚愕に固まっていた。抜刀するかもしれないと伝えてはおいたが、かなり緊張を孕んだ一幕だった。
だが話をするうちに、父母は揃って膝をついて礼を取る。
まぁ、神の眷属と聞けばそうもなるだろう。
エリューシアがそうならなかったのは、当の本人が精霊の愛し子で女神イヴサリアの加護を受ける存在だったからである。
クリストファに至っては、エリューシアの事しか頭になかったからに他ならない。精霊の加護を受けて宝石眼を持つに至ったとは言え、愛し子ではないのだから、本当なら礼を取らねばならなかったのだが、イルミナスもネルファも、そんな事を気にする性分ではなかった事が幸いした。
それはさておき、神獣の姿のままでは邸内は狭いと言う事で、一旦人型を取って貰う。衣服についてはネルファは必要ないと言っていたが、そう見せかける為に余分に魔力を使うと言うなら、普通に衣服を用意して着替えて貰ったらどうだろうと提案してみた。
どのみちイルミナスの方には準備しなければならないのだ。
渋るネルファを説得し、使用人達が大急ぎで準備してくれたのだが、此処で不測の事態に直面した。
ネルファの人型状態は見ていたから、そのように準備が直ぐ行われたのだが、問題はイルミナスの方だった。
ネルファの主人と言う事で、てっきり大人な姿を想定していたのだが、蓋を開けて見れば、クリストファと変わらぬ……いや、クリストファより小柄な少年姿だったのだ。
しかも鱗が銀色だったせいか、見事な銀髪に赤紫の瞳の、すこぶるつきの美少年であった。
慌ててクリストファの衣服を借り受けたのだが、小柄なせいか、色々とダブついていて、とても微笑ましい。
そんな神の眷属である美少年と美青年を前に、セシリアが一言…。
「お腹も御空きでしょう。
直ぐに用意致しますので、まずはゆっくりとお食事をなさってくださいませ」
夕食に間に合わなかったエリューシアとクリストファにも食事が準備されたが、次々と運ばれてくる料理に、イルミナスがそわそわと落ち着かない。
何しろ手掴みしようとしたくらいで、マナーもへったくれもなかった。
慌てて隣に腰を下ろしていたネルファが、フォークとナイフを使うのだと教えていたが、何だろう……初めての外食で、待ち切れずにフォークとナイフを握りしめたお子様……そんな光景がエリューシアには見えた気がした。
「お母様……その、お父様、皆も……此方は人間の常識はまだ覚束ず…その、またきちんとお願いしておきますので、今はどうか目を瞑って頂けますと…」
流石に居たたまれず、エリューシアが言葉を添えようとするが、セシリアはわかっていますと言わんばかりに、笑顔で頷いた。
「も、申し訳ございません!
このような歓待……イルミナス様には後程しっかりとマナーを叩きこんでおきます故、なにとぞご容赦をぉぉ……」
最早料理に目を輝かせるゆとりもないネルファに、セシリアが首を横に振った。
「気になさる必要はございませんわ。
何でしたら手でそのまま召し上がって頂いても構いませんし。
ね?」
同意を求めるようにセシリアが隣のアーネストに笑顔を向ければ、アーネストも蕩けそうな笑顔で応じる。
「あぁ、勿論だとも」
アーネストは神獣2人の方へ顔を向けた。
「神に連なる方々には、人の常識等窮屈でしょう。
どうぞ、普段のように振る舞って頂いて構いません」
「え!?」
それに反応したのはエリューシアだ。
だってそうだろう?
『普段のように振る舞って良い』等、後悔する未来しか想像出来ない。
エリューシアはすかさずネルファの方へ視線を送ると、それにしっかりとネルファが頷いた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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