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 ネルファが忌々し気に溜息を吐く。


「そんな訳で、止める間もなくイルミナス様が捜索に出奔……私も急遽イルミナス様を追わざるを得なくなりまして……」


 何と言うか、お疲れ様である。


「し、仕方ないだろう! アレを放置する訳にはいかぬのだからな!」


 人間サイズのドラゴンがムッとした様に声を強めた。

 だがドラゴンことイルミナスの言う事は尤もだ。人間や動物に寄生して紛れ込むと言うだけでも厄介だが、その上で他を捕食すると言うのは危険極まりない。


「脱走したのは、どんな相手なのです?」


 話を聞いた以上、協力するに吝かではないが、相手の情報が何もないのは困る。

 ここは一つ、まずは捜索対象について話を聞こうと、エリューシアは考えた。


「ヴェルメ。ヴェルメ・パラシータと呼ばれており、見た目は人間の膝辺りくらいの大きさですね。ひょろりとした茎の上に、見合わない程の大きな花をつけた植物系の形態をしています。

 念話が可能で、宿主に見繕った相手…人間の場合には唆し等が可能です。


 先程も言ったように、ヴェルメ自体は然程強い訳ではありません。

 勿論、攻撃手段を持っていない訳ではありませんが、魔物討伐を生業とするような者なら倒せるでしょう。


 しかし、他の存在に取り憑いてしまえば、そうも言っていられなくなります。ヴェルメは宿主の強化が出来るのです。

 自身の力に、宿主の強化した力も加われば、なかなかに厄介です」

「攻撃も出来るというと、どんな手を使ってきます?」


 他にも気になるところはあるが、まずは相手の戦力を確認。


「芳香を撒き散らして、相手を眠り状態にしたり、意識を朦朧とさせたり、ですね。

 その後、蔓状の物で直接攻撃もしてきます」


 人間の膝辺りの大きさで、ひょろりとした茎に大きな花…そして蔓状のモノを使う……エリューシアは、幾つか植物系の魔物を思い描くが、合致する魔物が記憶にない。勿論名前も聞いた事がない。


「そんな種が居たとは知りませんでした…」

「いや、種ではない」


 エリューシアの呟きを拾い上げたのはイルミナスだ。


「種ではない?」

「そうだ。

 彼奴は厳密に言えば魔物でもない」

「魔物ではない……?」


 思わぬ言葉にエリューシアは、つい復唱しながらクリストファと首を傾げ合う。


「そうだ。

 アレは魔女の作品だからな」


 『魔女』だなんて、聞きなれない単語が飛び出して来た。しかも『作品』とは、どう言う言事だろう…。


「あの、魔女と言うのは? それに作品ってどう言う意味です?」

「魔女は……便宜的にそう呼称してはいるが、相対した者でも、アレについては記憶が曖昧でな……。


 どうにも黒とか紅とかの色を纏った女性…と言う記憶くらいしか残らぬらしいのだ。


 残念ながら我は見た事がない故、そう聞いたと、そのまま伝えるしかないが…。

 何しろイヴサリア様でさえ、その正体はわからぬと言うのだ。


 推察するに、神の一端かもしれぬとは仰せだったが、何にせよ、碌な神ではないわ。

 世に不穏と混迷を招く神等、魔女という呼称で十分であろう」


 これまでお笑い要員かと勘違いしてもおかしくなかったイルミナスだが、此処へ来て感情も露わに吐き捨てた。


「まぁ、名もわかりませんし、私共は共通認識として『紅影の魔女』と呼んでおります」


 ネルファが補足してくれているが、その言葉がエリューシアの耳に届いているのかどうか……何故なら、イルミナスの言葉に固まっていたからだ。


(黒……紅…いや、赤…?

 神の一端……ぁぁ………)


 そうエリューシアにはある文面が脳裏に浮かんでいた。


(だって神様がきてくれた

 真っ黒な長いかみ

 真っ黒な目

 真っ黒なドレス

 真っ白な肌でくちびるだけ真っ赤

 きれいな女の人

 誰ってきいたら、すきに呼べって言われた)


 あれは彼のゲッスイナー男爵が持っていたと言う、粗末な日記帳…。

 発見されたのは、今は潰えたズモンタ伯爵邸の一室。襲ったフラネアに招き入れられたシモーヌが使っていたと言う部屋からだった。


 元はと言うと、どうやらシモーヌの母親が、客から料金代わりに押し付けられた物らしいのだが、文字が読めないシモーヌの母親には内容は当然分からない。

 冊子は売る事も可能だったが、書かれている内容そのものはわからなくとも、びっしりと書き込みがあり、かなり黒く汚れていたので、売れそうにないと処分に困りながらズルズルと持ち続けていたと言う話だ。


 エリューシアも後日、現物を見せて貰ったが、黒い汚れは血液だった。

 鑑定もしたから間違いない。


 そしてその日記帳に、あの『黒いナイフ』の事が書かれていて、それを頼りにゲッスイナー男爵は、呪われたナイフを探し出したのだそうだ。

 コダッツの証言から、恐らくアマリアの死体から引き抜いたのだろう事がわかっている。


 その場所はフラネアがアイシアとヘルガを連れ込んだ洞窟で、朽ちた魔紋があったのはエリューシアも記憶に残っていた。そんな場所だから、250年程前の死体が残っていてもおかしくはない。

 ただ、ナイフを引き抜いた途端、その死体は塵となって消えてしまったそうだ。


(……アマリア…)


 あの場所には、もう何も残ってなかった。

 全てが一段落して、あの場所こそアマリアが最後に居た場所だと気付いたエリューシアは、何か見つけられないかと、1人で訪れていた。

 ドレスの切れ端でも、アクセサリーの残骸でも良い。何かあればオルミッタに届けようと…そうすればアマリアの身体も家に帰してあげられる気がして、密かに訪れていたのだ。


 しかし……何もなかった。

 アマリアの痕跡は何処にもなかったのだ。


 改めて捜査に当たってくれた騎士団他にも問い合わせたが、やはり、それらしき物は欠片も残されていなかった。






「エル…?」


 クリストファの声に、意識が現実に引き戻される。


「ぁ…」

「大丈夫? 顔色が悪い……」


 クリストファの気遣いに、ネルファも心配そうに顔を顰めている。


「いけませんね…。

 確かにこんな場所で女性を立たせたままと言うのは、軽率でした」

「ごめんなさい、大丈夫…」

「でも……」


 ぎこちない笑みを浮かべて首を振るエリューシアに、クリストファもネルファも、あまり信用していないようで、眉間を気遣わし気に寄せたままだ。


「我も休みたい。


 エリューシアとか言ったか、其方の家に案内いたせ

 我を招く栄誉を其方にやろう」


 ふふんと何故か得意気に鼻を鳴らしながらのイルミナスの要求に、クリストファの空気が凍る。

 本人ならぬ本龍は気を回したつもりなのだろう……だが、不味かった。


 慌ててネルファが執成す。


「あ、ぁぁあ、ク、クリストファ殿! どうか御鎮まりを!!

 我が主は人間の常識と言うのがわかっておりません!! どうか! どうかあああ!!!」


 その光景に、エリューシアの表情は和らいだ。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>


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