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「………」

「………」

「「………」」


 気まずい沈黙が続く。


「……大変失礼しました」


 沈黙を破ったのはネルファだ。

 くるりと向き直り、姿勢を正してから、まるで計ったように90度で頭を下げる。エリューシアとクリストファに向かって…だが。

 その様子にショックを受けたのか、後ろのドラゴンが悲壮な表情をしている。頭上に『ガーーン』とかき文字を加えたくなる程だ。


「ネ……ネ…ネネネ…ネ、ル……」

「?」

「ネル………ネルファぁぁぁ!!」

「煩いですよ」


 どっちが主人かわからなくなりそうである。

 これは予想でしかないが、『様』とつけて呼んでいたのだから、ドラゴンの方が主人だと思われる。

 そして従者だか従僕と思われる方……ネルファはと言うと、冷静に今一度振り返り、背後でギャースカ喚くドラゴンを無視して口を開いた。


「お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」


 確かにエリューシア達は名乗っていない。

 見苦しくない程度には慌てて取り繕いつつ、ローブの端を摘まんでカーテシーをする。


「失礼いたしました。

 私はエリューシア・フォン・ラステリノーアと申します」

「僕はクリストファ・ライエンジール・フォン・ベルモール、彼女の婚約者です」


 最後の一文って必要? と、礼の形のまま、呆れた様な視線をエリューシアがクリストファに向けるが、にっこり笑って受け流された。


「ご丁寧にありがとうございます」


 ネルファの声で姿勢を戻すが、、互いに微笑みを顔に張り付け、謎の睨み合い……腹の探り合いと言い換えた方が良いだろうか……それを続ける事暫し、ようやっとネルファが軽く肩を竦めた。


「フ……では、私達はこれで」

「「……!」」


 身を翻そうとするネルファに、エリューシアが慌てて声を掛ける。


「待ってください」

「……何でしょう?」

「単刀直入にお伺いします。

 何故此処にいらっしゃるのです? ドラゴンが此処を根城にしていた等、聞いた事がありません」

「「………」」


 ネルファと『イルミナス様』と呼ばれていたドラゴンが、示し合わせた様に顔を見合わせた。


「………」

「……ふむ、そうですね……って」


 ネルファが何かに気付いたように、小さく声を詰まらせる。


「イルミナス様、これは幸運に恵まれたかもしれません」


 ネルファの顔の向きと視線は、エリューシアとクリストファに固定されたままだ。


「ネルファ……相変わらず其方の物言いはよくわからん」

「だから、幸運かもって言ってるんです。

 見てください。あのお二人」

「ん?」


 ネルファに促され、ドラゴンの視線まで、エリューシアとクリストファに向けられる。


「ぉ……ぉぉ!?」

「気付かれました?

 いやぁ、冷気の霧のせいで見逃していましたが、何と幸先の良い…」

「そう言えば聞いた事があったな。

 イヴサリア様の愛し子か……」


 ここで聞くと思っていなかった単語に、今度はエリューシア達が顔を見合わせて首を捻った。


「これはお力を貸してもらいましょう!

 私達だけでは、どうしても他の命を驚かせてしまいますから」

「むぅ……しかし…」

「しかしも案山子もありませんよ。

 ちょっと休憩に立ち寄っただけで、人間や動物だけじゃなく、魔物達まで身を顰めてしまいましたし、何より私達には人間界の常識がございません!」

「あの……」


 流石に訳が分からず、クリストファが恐る恐る声を掛けるが…。


「少々お待ちください」


 くるんと振り返ったネルファに一蹴されてしまった。


「ここは協力を仰ぐのが最善ですって。

 大体、私達は密かにとか、秘密裏になんて苦手じゃないですか。

 餅は餅屋、人間の事は人間に頼むのが一番かと思われます」

「ふむ…では任せる」


 何やら話がついたらしい。

 ドラゴン・イルミナスと話をしていたネルファが、身体毎向き直り、ゆっくりと頭を垂れた。


「お二人に話を聞いて頂きたく存じます。

 その上で是非ともご協力をお願いしたいのです」


 エリューシアとクリストファは、示し合わせた様にぎこちなく頷く。

 頭のどこかで『まだ頷くんじゃない』と言う警告が鳴り響いているのだが、その場の空気には否と言わせない何かがあった。


「私共は、当然普段はこの辺りに居る訳ではございません。

 遠く離れた場所で、危険な存在達を収監、監視するのが私共の務め。


 しかし、その危険な存在の1つが、先頃脱走してしまいました。

 それで此方まで追跡してきたのです」


 どうやら3、4ヶ月程前に、ちょっとした異変があったらしく、其方に対応している間の事だったようだ。

 3、4ヶ月程前と言うと、丁度クリストファが目覚めた頃だろうか、今の所、他に記憶に残っているような事象はない。


「小さな存在だったので、監視の目からすり抜けてしまったようです。

 それ自体は強くはないのですが、厄介な存在なのです」

「『厄介』……ですか…」

「はい。

 人間や他の生物に寄生するんですよね。

 で、宿主を唆して他の命を貪るのですが、この寄生と言うのが厄介でして」


 普通に考えるだけでも、『寄生』と言うのが厄介なのは、想像に難くない。


「寄生する前ならば、追跡も可能なのですが、現在は困難でして……」

「つまり、もう誰かに寄生してしまったと言う事ですね?」

「恐らく」


 渋い顔をするネルファに、気になったので聞いてみる。


「後で纏めて聞くのが良いのかもしれませんが、1つお聞きしても?」

「えぇ、どうぞ」


 『異変』と言うのが気になってしまった。

 まさかと思うが、クリストファの目覚めに起因しているのではないかと、つい考えてしまったのだ。


「『異変』と言うのは、どんな事だったのです?」

「あぁ、境界空間が酷く揺れましてね。

 まるで何かがぶつかったと言うか……恐らくですが、何かがぶつかり、それが境界世界をぶち抜いて落ちて行ったのではないかと……調べた限りでは、そう考えるのか妥当かと思われました」

「境界……それは、あの真っ白な……?」


 エリューシアには聞き覚えのある言葉だ。

 境界世界……ネルファが口にした境界空間と言うのも同じ場所を指しているのだと思われるが、真っ白で何もない空間だ。

 過去、今はもう居ないアマリアが存在していた場所でもある。


「ご存じでしたか。

 えぇ、そこで間違っていないかと思います」


 エリューシアはホッと胸を撫で下ろした。

 クリストファの目覚めが、境界世界に干渉するような事象だとは考えられなかったが、万が一と言う事もある。何より『何かがぶつかって、ぶち抜いて行ったような衝撃』と、調査した上で彼方が言っているのだから、ほぼ無関係と判じて良いだろう。


「ま、原因を調べたり、その穴を塞いだりと、私共が忙殺されている間に脱走されてしまった訳ですが……」






ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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