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 ラステリノーア公爵領には、そこここに魔物が生息する場所がある。

 それは公爵領に限った事ではなく、ごく普通の事だ。

 凶悪な個体、種なら兎も角、そうでないなら、一々目くじらを立てていてはキリがないし、民の生活にも欠かせない素材の供給元だったりする等の理由で一掃するような事はない。


 領都カレンリースの北に位置する森も、冊子によると魔物が多い場所のようだった。そうは言っても、多くはスライムや小さな角の生えたウサギやネズミ程度で、強い特定個体は居らず、精々ゴブリンや魔豚に出くわせば運が悪いと思うレベルの場所だ。


 転移で飛んできたエリューシアとクリストファも、これまでこの森に足を運んだ事はない。

 そう、話は変わるが、以前は行ったことのない場所には転移で飛ぶのは危険と、封じていたエリューシアだが、今はそんな制約は無くなった。

 行った事のない場所でも、先んじて気配を探れるようになったのだ。

 おかげで転移に付き纏う不安は、ある程度解消されている。


 そして話は戻るが、別の場所にある大きな森や渓谷には、迷い込んだ強い個体の討伐に何度か向かった経験はあるのだが……初めての場所だからか、きょろきょろと辺りを見回していた。


「静かな森だね」

「そうね。木々の密度もこの辺りはそこまでではなく見通しは悪くないし、明らかに危険な気配と言うのもないから、駆け出し向きの場所だと言うのは納得よ……だけど…」

「あぁ、やっぱり思い違いじゃなかった、かな」

「えぇ、上手く溶け込ませてるけど、違和感は感じるわね」


 どうやら初めての場所だからと言う理由で、キョロキョロしていたのではなかったらしい。転移で飛んだ途端、2人は何か感じ取っていたようだ。


 しかし、ある程度経験を積んだギルド員は感じるが、新人は気付かない気配…反対にとても危険だと判断する。

 これは癒しを探すどころではない。


 5階級のギルド員からの報告のおかげか、辺りに人影はなく、心置きなく抜刀し、神経を研ぎ澄まして周囲を伺うが、2人は警戒したまま動かない。


 夕食前に邸に戻りたいが、もうそんな事を気にしてはいられない状況だ。


「………」

「……エル」


 クリストファに、若干の緊張を孕んだ声で呼ばれたエリューシアが顔を上げる。


「敵意は感じる?」


 その言葉にゆっくりと首を横に振る。


「いえ、敵意も悪意も感じられないの…。

 こちらを油断させる為なら、大したものだと思うけれど、だったら違和感のある気配も消せば良いのに、それはしない……もしかして、出来ない?」

「フ……それって、とんでもない相手って言う事?」


 更に警戒するかのように、クリストファが剣の柄を握り直した刹那、カサリと空気が揺れる。

 すぐさま身を屈め、エリューシアもクリストファも反応した。

 クリストファは音源に向かって駆け出し、エリューシアは周囲に冷気を集める。こんな森では炎や風、土の属性では被害が甚大になってしまうからだが、エリューシアの膨大な冷気では、然程被害は変わらないかもしれない。

 そのまま集めた冷気を一気に放つ。

 周りが一瞬で白く凍てついていく。




「ここまでにして頂いても宜しいでしょうか?」


 エリューシアの放った冷気のせいで、真っ白に色を失った場所に、いつの間にか影が鎮座していた。

 冷気の靄越しに確認出来るのは大きさくらいだが、それは丁度人間の大人くらいの高さがあった


 声を聞くや否や、エリューシアを背に庇う様に身を翻し、前に躍り出たクリストファがグッと身を屈める。


「あぁ、どうぞ戦闘解除をお願いします。

 こちらに敵意も害意もございません」


 ゆっくりと靄が薄れ、その先に見えたのは、人間……いや、確かに一見人間に見えるが、気配は人間のモノと全く異なっている。


「お初にお目にかかります」


 真っ白で、だけどとても艶やかなストレートの長い髪を軽く結んで横に垂らし、翡翠の瞳を柔らかく細め、慇懃に礼を取るイケメンがそこに居た。


「どうぞ剣はお引きください。

 私の名はネルファと申します。貴方達に敵意はありませんので、お願いします」


 ネルファと名乗ったソレは、遥か中空を見上げるように顔を上げて、憮然とした表情になる。


「もういい加減になさいませ。

 人間達を侮りすぎです。


 そんな気配を駄々洩れにして……気付かれないと思う方がどうかしていると、何度も申しましたでしょう?


 さ、こちらで御迷惑をおかけした方々に、きちんと詫びて下さい」


 見上げる程巨大な何かが居るのかと、ついネルファの視線を辿れば、そこには大きくて丸い赤紫色をした玉が2つ浮かんでいた。


「「!!」」


 咄嗟に身構えるが、その様子にネルファが顔を向けて微笑んだ。


「あぁ、御心配には及びません。

 大きいだけで、敵対する気は毛頭ございませんので。


 そうですよね? イルミナス様?」


 スルスルと、冷気の靄の奥に浮かんでいた2つの赤紫色をした玉が、小さくなりながらその位置を下げてきた。

 そしてネルファの後方から現れたのは……。


「ドラゴン!?」

「ッ!?」


 大きさはネルファより少し大きいだけだが、紛う事なくドラゴンだ。

 銀色の鱗が神々しく、赤紫の玉のような瞳が美しい。


 ――パシン!


 ネルファが、容赦なくそのドラゴンの頭を叩いた。


「違うでしょう!?

 その形態でどうすると言うんです!?


 彼らを怯えさせたいのですか!?」

『え、だって…』

「だっても糸瓜もありません!

 さっさと人型になって下さい!!」

『いや、しかしだな…』

「イルミナス様ッ!!」

『だって!! 服がないだろうが!!』

「………ぁ」


 何の漫才だ……。

 何を見せられているのだ……。


 エリューシアとクリストファが、そう突っ込みたくなったとて、一体誰が責められるだろうか。

 最早警戒など吹き飛んでいる。

 脱力気味にクリストファは納刀し、エリューシアも冷気を解放した。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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