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「それではこちらを…。
これから宜しくお願いしますね」
ギルドの窓口女性は修正を済ませたカードを差し出しながら、にこやかに言った。
エリューシアことステラの階級は、4階級に変更されている。
正直4階級どころではないのは一目瞭然だったが、初登録だとこれが限界らしい。
前世のラノベ等だと丁度Dランクくらいだろうか。ちなみにクリストファことゼフィオンは7階級、Aランク相当になる。
「こちらこそ、宜しくお願いします。
それで、さっき『ありがたい』とか何とか言ってたのはどういう意味です?』
エリューシアの方は、現在変声の魔具をつけていないので、話をするのはクリストファの役目だ。
「! 受けていただけるんですかッ!?」
食いつく様に、窓口女性が立ち上がる。
その勢いに、思わず半歩引き下がってしまいそうになる程だ。
「受けるかどうかは兎も角、お話を聞くくらいは……。
ですが、今のお話だと依頼…なのでしょうか?」
勢いよく立ち上がった女性が見る間に項垂れ、力なく椅子に戻って行く。
「それが……まだウチとしてもさっき聞いたばかりの話で、不確実過ぎるんですが……その、此処では何ですので、ちょっと奥に移動してもいいですか?」
エリューシアが、間髪入れずにコクリと頷く。
女性の方は、輝かんばかりの笑顔になったが、斜め前に立つクリストファが、あからさまに溜息を吐いた。
少しは考えてから…等々、クリストファは言いたいのだろうが、不可能だとか、クリストファやアイシアが危険に晒されるとかなら兎も角、そうでないなら渋る必要はないだろう。
窓口の女性は、同じく窓口に座る同僚であろう女性に声を掛けた。
「ちょっとこっちはお願い」
声を掛けられた方は、何やら必死に書き物でもしているのか顔も上げず、聞こえているのかどうかもわからない。
「ちょっと…。
聞こえてる? トディ?」
「………」
「トディア!」
「……………」
「姉さん!!??」
「ハッ、ハイィィ!!」
どうやら姉妹のようだ……。
声を掛けられた方は大きな丸眼鏡にそばかすが目立つ、可愛らしい感じの女性で、声を掛けた方の女性とはあまり似ていない。
溜息交じりに『お願いね』と念を押した女性は、カウンターから出てきて、奥へと向かう。
エリューシアとクリストファは、その後に続いた。
奥まった一室に入り、窓口女性はソファへ2人を促す。どうやら応接室か何かなのだろう。お茶のセットもあるようで。女性はお茶の準備をし始めた。
「すみません、そちらのソファにかけて少しお待ちを」
「いえ、あまり今日は時間がありませんので」
「あら……それは…すみません」
女性はお茶を準備する手を止めて振り返る。
やはりさっきの『トディア』と呼ばれた女性の妹だとは、どうにも思えない程似ていない。トディアの方は愛嬌のある可愛い感じだったが、妹の方は同じ眼鏡でもすっきりとした小振りのオーバルタイプで、知的美人と言う感じだ。
「では、お茶もなく申し訳ありませんが」
そう言ってエリューシア達が座る対面のソファに腰を下ろして、軽く頭を下げた。
「あぁ! 名も……名乗っておりませんでした、すみません。
ジャンヌと言います。さっきは姉が失礼しました」
「いえ、それで?」
「はい。
実はお二人が来られる少し前に、5階級のギルド員から相談を受けまして…」
エリューシアは当然無言だが、クリストファの方も黙ったまま先を促す。
「此処から北の方向に大きめの森があるのですが、そこが何かおかしいと言うのです。
何がおかしいのか尋ねたんですけど、どうにも要領を得なくて……。
ただ、その森と言うのは駆け出し達の狩場にもなるくらい、危険度の低い場所で、魔物と言っても弱いモノしか居ない場所なんです。
それで駆け出し達にも声を掛けてみたんですけど、彼等は何も感じなかった、何時も通りだったと言っていました。
ですので、もしかするとただの勘違いかもしれなくて……」
なるほど。
話から察するに、1階級とか2階級のギルド員には、複数確認しているようだ。対して『おかしい』と言っている5階級のギルド員とか言うのは、その1人、もしくは1組なのだろう。
だから判断に困っていると言った所か…。
こういう時どう振る舞うのが良いのかわからず、隣に座るクリストファに顔を向ければ、彼は小さく頷いた。
「なるほど、そう言う事でしたか。
わかりました。
丁度彼女が愛玩動物を希望しているので、ついでに見てきます。
その北の森には、普段どんな魔物がいるのか教えて貰えますか?」
危険な気配を察知すれば、その討伐にエリューシアが出向くが、そんな危険度の高い魔物が出る時は、弱い種は姿を見せないので、普段はどんな魔物が出るのか、きちんと把握出来ていないのだ。
それ以前に、転移で行き、一撃必殺で討伐、そして転移で帰邸。
これで普段の様子等、わかるはずもない。
「そう言う事でしたか。
北の森にはリスやウサギなんかも多く生息していますから、きっと可愛いのが手に入りますよ。
あ、鳥も多く生息していますので、そちらも探してみると良いかもしれません。
では、こちらの冊子をお渡ししますね」
ジャンヌが差し出してきたのは手帳サイズの冊子だ。
羊皮紙が使われているので、それなりに厚みがある。
「こちらをお持ちください」
「!?」
羊皮紙とは言え、それなりの値段がするような冊子……しかも近辺の魔物情報が掲載された冊子をタダで? と、つい吃驚してしまったが、その様子にジャンヌは表情を和らげて頷いた。
「どうぞ。
ゼフィオンさんも挨拶に来て頂いたばかりですし、こちらへは来られてそんなに経っていないでしょう?
それなのに、こんな曖昧な…しかも報酬が発生しないかもしれないお願いに動いて貰うんですから。本来7階級の方にお願いするような案件ではないですしね…反対にこの程度で申し訳ないくらいです」
「いえ、ついでなので問題ありません」
冊子を受け取りジャンヌに見送られ、慌ただしいがそのまま北の森とやらに行ってみる事にする。
時間短縮の為にも転移をしたいが、とりあえず人の気配がしない場所までは徒歩移動だ。
「それにしても、森がおかしいって尋常じゃないね」
「うん…でも、悪い気配は感じてないのよ? そんな気配があれば直ぐに討伐に向かってるもの」
「そうだね。エルが感じてないなら、心配する程ではないのかもしれないけど、まぁついでだから気楽に見に行ってみよう」
歩きながら冊子を捲る……淑女としてあるまじき行為かもしれないが、今はただの『ギルド員ステラ』なのだから良しとする。
「だけど、猫タイプの魔物って居ないみたい…」
「あ~……ま、まぁ、それでも確認に行くだけは行かないと…ね?
もしかすると猫型魔物は無理でも、ただの猫なら見つかるかもしれないし」
「………大きいの…居るかしら…」
「大きいのが良いんだ?」
「……でも、魔獣…魔物……」
「エル……お、大きい猫、頑張って探してみよう?」
ちょっぴり萎れるエリューシアを、必死に慰めるクリストファの姿があった。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。
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もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>