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 着替えてきたクリストファからの指示で、エリューシアも着替えて合流する。


「それじゃぁ、まずはギルドかな」

「そうね。でも……私行った事なくて…」


 興味がなかった訳ではない。

 前世はエンジョイ勢でしかなかったとは言え、オタクの端くれ。そりゃぁエリューシアだってギルドには行ってみたかった。

 しかし、日々の忙しさやその他諸々のおかげで、これまでその機会に恵まれる事はなく今に至っている。

 クリストファも、ギルド員として出入りしていたのは、王都と北の辺境領だけだったらしい。そんな訳で、クリストファは挨拶に、エリューシアは折角だから登録してみようと言う話になった。



 公爵邸の離棟から、領都カレンリースにあるギルド近くまで転移。そこからは徒歩で向かう。


 商業区よりも外に近い一角、大通りに面して其れはあった。


 重厚な石造りで、3階建てだろうか、屋根は見上げる程上にある。

 大きく重そうな扉は開かれていて、出入りで人目を引くことはなさそうだ。

 クリストファ曰く、下手をすると王都のギルド建物より立派かもしれないとの事だった。


 丁度人の少ない時間だったようで、すんなりと窓口の1つに向かう。


「こんにちは……って、あれ、新顔さんかしら?」


 窓口の女性が目を瞬かせて首を傾けた。

 クリストファがエリューシアの前に立ち、無言で1枚のカードを提示した。


「あぁ、挨拶に来てくれ……って、これ…貴方、7階級なの!?」


 窓口の女性の声に、フロア内がざわついた。


「凄い……ありがたいわ。

 このタイミングで7階級の方が現れるなんて…」


 呟かれた言葉はどう言う意味だろう?

 気にはなるが、先にエリューシアの登録を済ませてしまいたいと、クリストファは声を掛けた。

 当然、変声の魔具は組み込み済みだ。


「その言葉の意味は後から伺います。

 ただ、申し訳ありませんが、先に彼女の登録をしては頂けませんか?」


 その言葉に窓口の女性はハッと居住まいを正した。


「も、申し訳ございません。

 初登録でしょうか? 過去に何処かで登録した事があるようでしたら、記録を探しますが」

「いえ、初めてです。

 その……」


 クリストファが、変声させた『爽やかだが大人っぽい声』で、妙に恥ずかしそうに言葉を止める。


「はい?」


 促すように窓口女性が笑顔を深めた。


「その……妻…なんです」


 窓口女性は『まぁ♪』と、何故か頬を赤らめて頷くが、クリストファの後ろで、当のエリューシアは驚愕に一歩身を引いてしまっていた。

 どうやらクリストファの独断専行らしい。


「そうでしたか、ではこちらに記入をお願いします。

 まぁ、お名前だけでも構いませんので」

「ありがとう」


 クリストファは差し出された用紙を手に取り、後ろで仰け反ったまま硬直しているエリューシアの手を握って歩き出した。

 引かれるまま歩き出したものの、エリューシアの歩みはまるでロボットのようにカクついている。


 空いているテーブルに向かい、椅子を引き寄せて座る。

 エリューシアも隣に座らせた。


「嫌…だった…?」


 現在のクリストファはフルフェイスタイプの頭装備で表情は見えないのだが、声が少し沈んでいるのはわかる。

 その様子に、エリューシアの硬直は緩むが、気恥ずかしさが消える訳ではない……だけど、誤解させたままでいたくない。


「ち…違う…わ。

 その……恥ずかしかっただけ…だって……つ、妻って……まだ婚約したばかりで……」


 エリューシアの言葉に、クリストファの纏う空気が和らいだのがわかる。


「良かった……」


 エリューシアの言葉が続く。


「嫌な訳…ないでしょ…。

 その、何と言うか…気恥ずかしくて……あぁ、もう…どう言えば良いのかしら…う、嬉しかったの! 恥ずかしいけど、嬉しかったのよ!」


 小声ではあるものの、はっきりと言い切ったエリューシアは、ローブのフード部分の端を摘まんで、更に深く引いた。


「うん、僕も嬉しい。

 本当に嬉しい」


 何だろう…見ている側の方が恥ずかしくなる空気感と言う奴だ。


「えっと…それじゃ此処に名前だけで良いから、書き込んでくれる?」


 エリュ―シアは兎も角、クリストファとしては何時までも浸っていたい空気感だったかもしれない。しかし何時までもそうしてる訳にも行かないのだ。

 何しろ夕食までには戻らなければならない。

 お茶の後、ほんの少しだけぽっかりと空いた、自由時間を利用しての行動なのだから。


「(名前…本名は流石にダメよね)」

「(それはそうだね。

 適当で良いんだよ。僕だって偽名だし、ね)」

「(何て言う名前にしてあるの?)」

「(僕?)」


 問われて、エリューシアがコクリと頷いた。


「(物語の登場人物から適当に…だったかな。

 ゼフィオン…ゼフィオン・シングスって書いたよ。ほら、これ)」


 出されたカードには、確かにその名前が記載されていた。


「(そっか……じゃあ…えっと、つ、妻、なら…同じ姓じゃないと、よね…)」


 自分で言って恥ずかしがっていては、世話がない。


「ん…どうしよ」


 特にこれと言った名前が浮かばず、困り果てていたが、ふと思いだした事があった。

 前世では、オフラインゲームの時は、大抵本名の『真珠深』とつけていたのだが、稀に漢字を受け付けてくれない作品や、オンラインの時には『星守』からの発想で『ステラ』とつけていたのだ。

 さらさらと記入し、クリストファに頷く。


『ステラ・シングス』


 それを見てクリストファも頷き、どちらからともなく額を寄せ合って小さく微笑み合った。



「それじゃ提出して登録して貰おう」


 クリストファが手を差し伸べてくるのに、エリューシアも躊躇う事なくその手を取って椅子から立ち上がる。

 空いている窓口は…と見回すと、丁度さっきの女性の座っている窓口が空いていた。


「お願いします」

「はい」


 女性が用紙を受け取って、カードの準備を始める。


「ステラさん…良いお名前ですね。

 その恰好から考えると、魔法士さんですか?」


 乗馬服にマントと言う装いは、クリストファに却下されたので、現在は黒紫色のくるぶしまである長いフード付きローブを纏っていた。

 女性の問いに、エリューシアは無言で頷く。


「やっぱりですか。

 あっと、こちらがギルドカードです。軽く魔力を流してくださいね」


 言われるまま、ほんの少し……本当に、微かな魔力を流しいれた。

 一瞬ふわりと光るのを確認して、窓口女性は頷く。


「登録は完了ですね。

 それで階級なんですけど、通常は1階級からなんですが、ステラさんの装備とかから思うに、そこそこ高い力量をお持ちじゃないかと…確認させて頂けましたら、登録内容を変更する事が出来ますが、どうします?」

「確認お願いできますか?」


 エリューシアが何か言う前に、クリストファが応じた。


「わかりました。空いた席に座って待っててください。

 準備ができ次第お呼びしますので」


 先程まで座っていたテーブルが空いたままだったので、再び2人して其処へ戻って腰を下ろす。


「(確認って…何をするの?)」


 座るや否や、エリューシアが声を潜めて訊ねた。


「(魔法士の場合は、大抵は的に魔法を放つ感じかな。

 此処はどういうやり方なのかわからないけれど、そんなに変わる事はないと思う。

 エルの場合どちらかと言うと、やりすぎに注意…かな)」

「(どう言う事?)」

「(ギルドが準備する的なんて、公爵家の的とは比べ物にならないくらい粗末なのが普通なんだよ。

 エルが呑気に放った魔法でも、消し炭なってしまう程度って事。


 最低限の力量がわかれば、それで問題ないからね。

 反対に力量次第で一気に飛び級と言うのは、他のギルド員からの不満を招きかねない。だから最低限で十分なんだよ)」

「(………)」

「(消し炭になるのは仕方ないけれど、やり方は気を付けて? 一瞬で霧散させるとかにはならないように…ね?)」

「(……ハイ…)」



 結果……気を付けて気を付けて、霧散はさせなかった。

 しかし見事に消し炭は粉々になっていた。






ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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