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 途切れさせた言葉を促すように、少し冷たい風が髪を揺らす。


「僕は……どうしたら良いんだろう、ね…」


 普段はしっかりして見えるこの精巧な天使人形も、未だ未成年なのだから揺らいで当然だ。

 エリューシアは眉尻を下げて、彼の背中に腕を回す。

 そして優しく、トントンと幼子をあやすように叩いた。


「……ごめん…」

「色々と降りかかりすぎだもの。

 それに私の前でくらい、弱った姿で居ても良いのではない?


 反対に他の人の前でされたら……その…やきもち焼いちゃう…かも…」

「ぇ……エル、本当に?」


 つい今しがたまで弱り切っていたのに、エリューシアの言葉であっさり復活する。

 エリューシアの方はと言えば、口にした言葉を後悔しているのか、頬を染めて視線を泳がせていた。


「もう一度言ってくれる?」


 強請るクリストファに、更に茹蛸のように赤くなったエリューシアは、高じた気恥ずかしさのまま、デコピンを喰らわせた。


「言いません!

 ……もう、恥ずかしいんだから…」


 デコピンを喰らった跡を手で擦りながら、それでも復活したクリストファは、嬉しそうに笑みを深める。


「うん。

 でも……また気が向いたらで良いから、僕が喜ぶ言葉もくれたら嬉しいよ」

「……えっと……ぅん…」


 まだ肌寒い空気の中、互いを暖め合うかのように抱き締めあった。






 寒さを互いの体温でどうにも出来なくなってきた頃合いで、クリストファがそっとバルコニーから建物内へ戻る様に誘導する。


「ごめん、冷えてしまったね…」


 クリストファが後ろ手に扉を閉めてから、その手を伸ばしてエリューシアの頬に触れた。


「お、お互い様……よ。それに……」


 続く言葉を真っ赤になって飲み込むエリューシアに、クリストファが首を傾ける。


「エル?」

「な、何でもないわ。


 そ、それより!

 そう、それより、どうするの?」


 クリストファは目を伏せて視線を床に落とした。


「そう…だね。

 まだ考えが纏まらないんだ…」

「でも、気になるのでしょう?

 何より王都は、クリス様が育った所だもの」

「エル…ジールだよ」

「……ぅ…」


 何としても、特別な愛称で呼んで欲しいらしい。


「ジ…ジール…」

「うん」


 クリストファが心底嬉しそうに頬を緩めた。

 が……すっと表情を消し去り黙り込む。


「育った場所と言っても、然程思い出があるとか、そう言うのはないんだ。

 前にも話したけど、僕は両親や兄のいる本棟ではなく離れの方で育ったしね。だからかな…王都だけじゃなくこの国そのものにも、思い入れはないと思ってた」


 平坦に、感情が乗らないように慎重に話すその姿に、エリューシアの方が苦しくなった。


「思い入れがない訳ないでしょう?

 コフィリー様の思い出だってあるでしょう?

 シャーロット様や使用人達だって……学院に友人もいたでしょう?

 他には……そう、冒険者仲間だって居たのではないの?」


 エリューシアの言葉に、クリストファはそっと瞼を閉じる。


「コフィリー……よく笑う子だったんだ。

 同じように離れに押し込められていたのに、彼女は何時だって笑顔で…」

「今度コフィリー様のお墓参りに連れて行って欲しいわ。

 ちゃんとご挨拶したいし」

「うん。僕もエルを紹介したい」


 ふふっと互いに笑いあう。


「王都……か…。

 そう考えれば、コフィリーやシディル達と過ごしたあの離れは、僕にとって大事な場所なのかもしれない……」

「そんな心細そうに言わないで。

 ジールの大事な思い出だわ」

「そうだね」


 クリストファはすっと顔を上げ、焦点の曖昧な視線を遠くへ流した。


「使用人は……あぁ、馬丁だった彼にはよくして貰った…。

 母上……ぃゃ、もうシャーロット様と呼ぶべきかな。彼女は離れに来るとよく抱き締めてくれたよ。コフィリーも一緒に…。

 友人は…ベルクは卒業したはずだけど、そう言えば今は王都に居るのだったか…ギリアンはこちらへも良く来るから、王都と言う場所とあまり結びつかないかも……うん、僕は友人は少なかったんだな…改めて思い知ったよ」


 情けなく眉尻を下げるクリストファに、エリューシアは呆れたように肩を竦める。


「それ、ソキリス様達がお聞きになったら悲しむと思うけれど?」

「そう?」

「ジールが学院から姿を消して、彼等もずっと心配してたのよ?」

「……そう…だったんだ…」

「他には? 冒険者仲間は?」


 ちょっぴりワクワクしているのか、エリューシアの宝石眼が、何時もよりキラキラして見える。


「仲間って……僕はずっと一人で行動してたからね」

「あら…残念。

 お仲間が居たら、ジールの隠された一面とかの話も聞けると思ったのに」

「残念って……。

 僕はエルに隠し事なんてないよ。エルの前でなら素の自分で居られるし…ね。

 僕が僕であれる場所は、エルの傍だけだ。


 だから……。

 だから、ずっと傍に居て……離れて行かないで…僕を置いて何処にもイカナイデ…」


 さらりと放たれた言葉に、エリューシアは真っ赤になった。


「エル?

 ごめん! 廊下で話す事ではなかったね。寒かっただろうに…気がつかなくてごめん…。

 大丈夫? 熱は……」


 都合よく勘違いしてくれたみたいなので、エリューシアは赤くなった顔を少し背けて、話題の軌道修正を図る。


「だ、大丈夫よ!


 えっと……その、何にしても王都には、ちゃんとジールの大事な人も場所もあるって事!

 だから行ってみましょう?

 ベルモール夫人達が心配する気持ちもわかるけど、ジールの気持ちが一番大切なのだから」


 顔を背けたままのエリューシアに、微妙に落ち着かないクリストファだったが、その勢いに思わず頷いた。


「ぁ、う…うん、そうだね」

「転移で行けば一瞬だし、何かあっても直ぐ戻れるわ。

 店はそのままだから、あそこを拠点に……一応家と言うか館を用意した方が良いかしら…」


 先程までの照れ隠しなどなかったかのように、エリューシアが真顔になって呟き始める。


「館を買うの?」

「店を拠点でも良いけれど、あまりあそこは目立たせたくないかも……他の候補となると宿になるかしら。だけど宿では何処から情報が洩れるかわからないと思うのだけど」

「それは…確かに」

「でしょう?

 じゃあ早速行ってみましょ!」


 善は急げとばかりに言い出すエリューシアに、クリストファの方が慌てた。


「ま、待って。

 エル、落ち着いて?

 今はセシリア夫人のお茶を……」

「ぁ……」


 すっかり忘れてたと言わんばかりに、思わず口元を手で押さえるエリューシアであった。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性が高いですし、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。


こちらももし宜しければブックマーク、評価、リアクションや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

(ブックマーク、評価、リアクションもありがとうございます! ふおおおって叫んで喜んでおります)


もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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