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2.固有能力と小鳥遊理恵


「いきなり固有能力なんて言われても何が何だかわかりませんよね…簡単に言ってしまえば自分だけが使えるスキルのようなものでしょうか」


「はーい!先生!固有能力の名前がなかったんだけどなんで?」


 私の隣を歩いていた女の子が手を挙げながら質問を投げかける。


「ああ、それはですね、固有能力は自分で名前を決めるんですよ…と、つきました、この教室で説明するのですが私は少々準備をしますのでその間会話していただいていいですよ」


「わーい!ねぇねぇ!なんて名前?好きな食べ物は?」

「ええ!?えーと僕h――」

「私はねーハンバーグ!」

「そうなんだ、美味しいよね、僕の名ま――」

「好きなことは映画鑑賞とスポーツ全般!」


 先ほど先生に質問していた女の子が周りの生徒に次々と話しかけている、赤みを帯びた茶髪のセミロング、スポーツが好きだからか体は引き締まっている、そこまで考えたところでその女の子と目が合った。


「ねぇねぇ!何て名前?なぜかほかの人は教えてくれないの…、わぁ!あなたの髪本当にキレイ…私黒髪好きなんだ~ハーフアップ可愛い!ねぇねぇ触っていい?」

「た、鷹見(たかみ)恵理(えり)です、多分ほかの人はあなたの勢いに押されてしゃべれなかっただけだと思います…よ?髪はちょっと…」


 周りの生徒がうんうんと頭を縦に揺らす。


「そうなの!?ごめんなさい!私昔からこうで…うるさかったら遠慮なく言っていいからね!エリちゃん……私と名前似てるね!私は小鳥遊(たかなし)理恵(りえ)って言うの!」

「理恵さん、よろしくお願いします」

「理恵でいいよ!もしくは理恵ちゃんで!」

「理恵…ちゃん…?」

「うん!よろしくねエリちゃん!」


 探索者には優秀な人が多いと聞いていたがこの子はお世辞にも頭がよさそうには見えない…スポーツが好きと言っていたし運動神経がいいのだろうか。


「準備が終わりましたので盛り上がっているところ申し訳ありませんがこちらに集中してください、……では説明を始めます」


 先生の方を向き話を聞く体制に入る。


「まずは先ほども説明した通り、固有能力とは自分だけが使えるスキルのような―――――」


 要約すると能力によっては他人に害がある場合もあるので使用する際は注意すること、固有能力は信用できる人以外には公開しないこと、チームを組む際はなるべく固有能力を持つもの同士で組むこと等だった。


「先生質問いいっすか?俺友達が固有能力持ってないっぽいんだけど、どうしても持ってる奴だけで組まなきゃダメっすかね、そうなら理由を教えてほしいす」


 今この場にいるほとんどの生徒が気になっているであろうことをその男子生徒が先生へ質問する。


「いえ、絶対にと言うわけではありません、もちろん仲の良い人と組んだ方が連携もとれるでしょう、しかし、固有能力は良くも悪くも強力なものが多い…固有持ちだけに頼り切ったチームになりかねないんです」

「頼れるものがあるのはいいことなんじゃないすか?」

「もちろんです、しかし頼り切ってしまうのは決して良いことではありません、固有持ちがピンチになりさらに逃げられない状況になったらどうするのですか?最善は互いが互いに頼ることが出来るようにすること」


 質問した男子生徒は納得したようだが表情が少し暗くなった表情でつぶやく。


「なるほど、固有持ちがいると、持っていない奴はそれについていくだけの努力が必要になるのか……」

「そう言うことです、組むかどうかはその友達とよく相談してください」

「わかった…っす」

「それでは説明を続けます」


 先生は懐からバッジを取り出し私たちが見えるように前に出した。


「クラスではあなた達7人しかいませんがほかのクラスにも固有能力を持っている人はいます、あなた達を含め全員このバッジをつけてもらうことになっています、今から配るので見やすいところに付けてください」


 配られたバッジを各々が見やすい場所に付け、それを確認した先生はバッジの説明を再開する。


「バッジをつける義務はないですが付けていないと固有能力を持っているとわからないので注意してください、それでは最後に固有能力の名前を決めてもらいます」

「すみません、それは今決めないとだめなのでしょうか…」


 私は手を挙げて先生に問いかけた。


「なるべく今決めた方がいいですね、何度か名前を決めずに使用し続けた生徒の固有能力が急に消えた事例もあるので…能力の詳細を教えてもらうことになりますが、私たち教員が決めることもできますよ?」

「…………………いえ、自分で考えてみます…」

「それが良いでしょう、その方が後悔は最小限で済みます、では時間は決めませんので決まった人はDタブで自分の固有能力の欄をタップすれば設定することが出来ます、どうしても今決められない場合は帰ってからでも大丈夫ですよ」


 こうして私の固有能力の名前決めと言う格闘が始まった。


 名前…名前…バフ系の能力だから……パワーアップ……感情の強さで変動って何……具体的にどう変わるのか分かれば…


「はぁ……」

「エリちゃんお悩み中?」

「理恵ちゃん…そうなんです…私こういうの苦手で……」

「私はもう決めたよ!」

「そうなんですか!?…早いですね……」

「私が決めてあげよっか?私に能力を知られてもいいならだけど…」


 正直ありがたいと思ってしまった、昔から何かに名前を付けるのが苦手でそういったことはなるべく避けるようにしていたが、ここは能力を小出しにして決めてもらう方がいいかと考え私は理恵に返事をする。


「申し訳ありません…全部は教えられませんが…アイディアをください……」

「うん!もちろん!せんせー!ちょっと二人きりになれる場所ってないですかー?」

「隣の部屋は防音になっているのでそこを使ってください、カギは内側から掛けられますよ」

「相談することも想定されているんですね…」

「まあ、人によっては一番悩むことですから、毎年何人かはほかの人に決めてもらっていますよ」


 隣の教室へ移動し内側からカギをかける、少し狭い部屋には丸いテーブルと椅子がおかれている。


「じゃあ、さっそく始めよっか!能力を教えてもらってもいい?」

「はい、えーと…どうやら感情によって能力の底上げをする類のようです」


 このくらいならいいだろうと、理恵に少しぼかして自分の能力を伝えた。


「うーん……感情で強くなるのか……うーんうーん」

「あの、あまり無理しなくても……」

「うーん……あ、そうだエリちゃん、エリちゃんはどんな思いが一番強いと思う?」

「え?えーと…愛…でしょうか」


 愛、私が他人からはもらえなかったもの、私が他人に与えられなかったもの、そして私が一番欲したもの、感情の強さはわからないが、私が心の底から渇望しているのは間違いなく愛だ、想像でしかないが愛は他の気持ちよりも強い力を持っている気がする。


「愛か~いいね!じゃあね~【愛の力(ラブパワー)】なんてどう?」

「え!?決めてもらって失礼なことは承知していますが…少し恥ずかしいです……すみません…」

「そっかー、ん~…」

「あ、あの…愛と言う単語を入れるとちょっと……想いとかなら…」

「ん~、あ、【思い人】なんてどう?愛している人みたいな意味もあったはずだし、感情なら思いと一緒でしょ?」

「思い人…あ、それとは違いますが【思いは人を強くする】なんてどうでしょう!」

「お~、なんかポエムっぽいね!私は好き~!私の固有能力も【力を一つに】って名前にしたんだ~!」

「ポ、ポエムっぽいですか…」


 そう言われるとちょっと恥ずかしくなってくる、しかし、悪意は感じられないしこれ以上いいアイディアも浮かばない、決断が鈍らないうちにDタブを起動し名前を確定させる。


「ありがとうございます、理恵ちゃん」

「いいよ!、あ、そうだ!よかったら一緒にダンジョン探索しない?」

「そうですね、いつか機会があったらお願いします」

「わーい!約束だよ!じゃあもどろっか!」

「はい!」


 私は、心の中に嬉しさのようなものを感じていた、この気持ちは何だろう、感じたことのない気持ちで名前が付けられない、高校の人たちにはこんなこと思わなかった。


 そうだ、彼女の言葉はまっすぐ心に届く、彼女のまっすぐな気持ちが言葉に乗ってくるのがわかるから私も心を偽る必要がないんだと無意識のうちに理解している。


 そう考えた時にはもう口から言葉が出ていた。


「あの!!!」

「うわぁ!びっくりした!なに!?どうしたの!?」

「お、おおお、おと……お友達になりませんか!!!」

「…………え?ええ!?もちろんだよ!!よろしくね!」

「やった!よろしくお願いします!」

「あはは!お友達なら敬語もやめていいんだよ!」

「それは……これは癖みたいなものでして…これから直していきます」


 私にとって人生初めてと言っても過言ではない、友達が出来る瞬間だった。


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