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19.狙うもの③

もう言い訳できません!すべては私の怠慢の結果です!

「……ッ!…ヒュッ!ゴホゴホ!…う……、き、気持ち悪い………吐きそう……何が起こって…?」


 何か違和感を感じて自分の体を見下ろすと、そこには私に抱き着いて泣いている理恵ちゃんの姿、服や体には吐しゃ物のようなものが付いており口内には酸っぱいような気持ちの悪い味と感覚、のども少し痛い、どうやら吐きそうどころではなく盛大に吐いた後のようだった。


「エ”リち”ゃん!?起ぎた…!起ぎでくれだぁ!うぅ…」

「だから言ったろ、鷹見の命をどうこうするもんじゃねぇ…ったく…どっちもどっちだなこりゃ」

「先生…いったい何が…?」

「………覚えてない…か……こりゃ長くなりそうだな」

「???一体どういうことですか?」

「んーーー!ん!」


 理恵ちゃんの腕を離して先生と話そうとするが、その手は強く絡みついており離れそうな気配はない、諦めた私はそのまま話を進めることにする。


「お前に精神攻撃をかけた、トラウマを強く感じるように調整してな、保護として受け止められないほどの衝撃を受けた場合は記憶を消すようにしている、少しでも受け止められる状態だったら多少覚えていただろうが……全く覚えてないとなるとな……」

「それで…理恵ちゃんはどうしてこんなことに?」

「外を見てみろ」

「え……?あ、明るい……?朝ですか!?」

「昼過ぎだ」

「はい?」

「お前は昨日の夜、大体午前2時くらいから今…午後14時までずっと起きてこなかった、それもうなされながら吐しゃ物はまき散らす、暴れる…魔力を放出し始めたから途中でアタシが体の負担にならないように拘束したが……2時間たったあたりで小鳥遊がキれてなぁ…何とか落ち着いたがそれからずっとそんな感じだ」

「は、はぁ……」


 正直何が起こったか教えられても実感がない、その時の記憶もなければ、気分が悪かったのも最初だけで今は落ち着いている。


「ところでアイリスはどこに……?」

「あー、小鳥遊の中だ、お前の惨状を見た小鳥遊の精神を保護するために全力で頑張ってくれてるよ……そうじゃなきゃアタシ諸共この家も無くなってたかもなぁ……固有能力まで使い始めた時は冷や汗をかいた…」

「理恵ちゃんがそこまで……」


 普段温厚で優しい彼女が暴れるほどひどい状態だったのかと少し身震いする、覚えていないとはいえ自分がそうなっていたことに恐怖を感じる。


「……聞いていいか分からないんだが、お前のトラウマを教えてもらっていいか?」

「え?知ってて精神攻撃をかけたのでは…?」

「いや、夢を媒体にしている精神攻撃は自分も精神に入ることでその記憶を見れたりするが、アタシは夢を見せたわけでもお前の精神に入ったわけでもないからな、分からないんだ」

「………いいですが、共感は出来ないと思いますよ?子供っぽい悩みです」

「ああ、話してくれ」

「自分が見られないことに恐怖を覚えるんです、私ではなく、私の能力や付随する権力にだけ目が向けられ、私自身に目を向けられないことが………」

「私たちについてはどう思う?」

「?……えーと…特に恐怖を感じることはありませんね、先生たちはちゃんと私自身を見てくれていることがわかっているので」


 そう言うと朝日奈先生は口元に手を当て考え事を始めてしまう、なんだか長くなりそうなので理恵ちゃんを撫でて落ち着かせることにした。


――――――――――


「(ずいぶんと贅沢な悩みだが…鷹見の恐怖は人に見られないこと…か…おそらく両親…いや、今は母親だけだったか、後はアタシと小鳥遊、それから五十嵐あたりもある程度信用していそうか…?)」


「理恵ちゃん、私はもう大丈夫だから…今私汚いから離そ?」

「う”ー!」


「(今回、私はある程度セーブして能力を使った、本来なら多少トラウマが悪化した状態の感覚を覚える程度だったはずだ、例えるなら、私たち以外の学園生徒に能力目的で群がられるみたいな感じか……)」


「と、とりあえず着替えよ?お風呂にも……」

「やだーー!離れないで!う”ーーー!」


「(だが記憶がすべてなくなるほどの精神的ショック…おそらく私たち…もしかしたら親も含めてそういう目を向けてきた可能性が高いな…どうしてそこまで極端に強く作用した?)」


 私は小鳥遊の異常な精神ダメージについて考えを巡らせる、なぜ、なぜ、なぜ………私が加減を間違った?


「一緒に居てくれるならお風呂入る……」

「ぷはぁ!ようやく安定してきたのだ!」

「アイリス!大丈夫だった?」

「…………よし…精神防御をかけてやるからさっさと風呂に入ってこい!騒がしくて集中できん!」


――――――――――


 先生にお風呂場へ追いやられそそくさと入浴を済ませる、先生から何か聞かれたが、そんなに私の精神力は弱いのだろうか…自分でも強いと言える自信はないが、あの環境でずっと過ごしてきたのだからある程度の精神力はあると思っていたのだが……


 お風呂に入って多少落ち着いた理恵ちゃんを連れて先生のもとへ戻ると、アイリスと先生が難しい顔で考え込んでいた。


「先生、どうしたんですか?」

「戻ってきたか………鷹見…お前に言わなきゃいけないことがある」

「は、はい…」


 これ以上訓練を続けられないとでも言われるのだろうか、だが、少し吐いたくらいで……いや、たとえ血を吐いたとしても理恵ちゃんだけが苦しむことは絶対にさせない、そう決意を固めて次の言葉を待つ。


「怒るなよ……おまえ、自分のことを能力だけの人間だと思い込んでいないか…?」

「ッ!!………そう…かもしれません」

「一瞬すごい怒気を感じたが…自分でも理解してたか」

「先生が言いたいことは多分、心に隙があるってことですよね」

「その通りだ、トラウマを克服しようとするんじゃなく受け入れてしまっている、精神状態は安定するだろうが精神防御の面で言うと最悪だ、要はそう思われることは当たり前で仕方がないというあきらめ、防御しようとしてもそこに穴が開いているようなもんだ」


 つまり、精神が不安定どころではない、がら空きの部分がある状態、穴だらけの盾を槍を相手に構えているような状態なのだろう。


「精神を鍛えれば済むと思っていたが……教師としては正直言ってこれ以上の訓練は控えた方がいいと言わざるを得ない、と言うより探索者をやめるべきだ」

「な!?」

「当たり前だろう、この先精神攻撃を持っている敵なんてざらだぞ?そんな中に今のお前が行ったら、自分どころか小鳥遊も危険にさらしかねない、今回犯人の精神攻撃を防げたのも奇跡に近い、相手の力量がぎりぎり足りなかったか、やる気がなかったのか……」

「………」

「まあ、鷹見をこのまま学園外に出してしまうのも危険だからやめさせることもできないのが現実だが…」

「どういうこと?先生」

「そもそも今襲われている理由はなんだ?学園をやめたとしてそれがなくなることはあると思うか?」


 きっとないだろう、そもそも人を襲ってでも能力の秘密を知ろうとする、奪おうとする人が学園内にもいる時点で外にいないわけがない。


「鷹見がこれからしなきゃいけないことは精神力の強化なんて生半可なものじゃない、穴をふさぐ…トラウマの克服だ、さっき以上の苦しみを覚悟しろ」

「はい」

「ほんとにわかってんのか…?ったく、小鳥遊、解ってると思うが邪魔はするなよ?」

「うん……ほんとは嫌だけど、私もエリちゃんと同じ気持ちだから…私も負けないように頑張る!」


 その言葉を聞き朝日奈先生は私の額に手を当る。


「条件は前と同じ、受け止められなかったら記憶を消してこっちに戻す」

「はい、お願いします」

「わかった、いくぞ」


 そう言われてすぐ私の意識はまた落ちていく…


――――――――――――――――――――

1日目:夜中の2時に覚醒、何が起こったか覚えていない

2日目:覚醒後、朝日奈先生から襲撃未遂があったことを知らされる、外に出る前に逃げられたらしく正体は解らず。精神攻撃の記憶はまだない

3日目:何も覚えていない…なのに先生が不思議そうな顔をしている

4日目:……

5日目:……

6日目:ここ二日の記憶がない、吐いたりはしていないため進歩していると思いたい、気にしないようにしたいがなぜか理恵ちゃんの顔が赤い、先生は面白そうな心配そうな、複雑な表情をしている

7日目:精神攻撃をかけられてから10分で覚醒、記憶はないが、体に異常はない、最近理恵ちゃんの機嫌がいい気がする、前はあんなに私の訓練を嫌がってたのに…何かあったのかな

8日目:1日精神攻撃をランダムにかけられるようになった、訓練のレベルアップだと言われたが記憶もないのに段階を上げていいのだろうか

9日目:1日の内の何度か、勝手に精神攻撃が跳ね返せるようになった、何で?

10日目:訓練の終了を言い渡された、見放されたのかと思ったが、どうやら先生の精神攻撃を完全に跳ね返せるようになったらしい、ほんとなんで?

――――――――――――――――――――


「と言うことで…鷹見の訓練が終わったわけだが……ま、そうなるよな」


 きっと私はすごく複雑そうな顔をしているのだろう、私の顔を見て申し訳なさそうな顔をしている。


「えへへ~、エリちゃ~ん♡」


 理恵ちゃんは6日目からずっとこうだ、どこでこんなに好かれるようになったのか皆目見当がつかない…


「説明したいんだが……いいか?」

「ぜ、ぜひお願いします」

「あ~~~、その…な?鷹見…お前にもう一人の人格が生まれた……」

「……………………はい?」


 先生の言葉に私はさらに疑問の海へ深く潜ることになった

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