13.また朝が来る
閉じた目にまぶしさを感じて目が覚めた、ここ数日感じていた他人のぬくもりが感じられず、虚無感を覚えた私の心は目覚めるのを拒否しようとしているが、起きてリビングへ向かえば理恵ちゃんに会えるという考えに至り体を起こした。
「私こんなに寂しがり屋だったかな…なんだかだんだん理恵ちゃんなしだと生活できなくなっていってるような………」
着替えながらまた理恵ちゃんのことを考えている自分に気が付き、少し自制しなければと自分に言い聞かせる。
部屋を出て階段を下る、するとすでに理恵ちゃんが朝食の準備を始めてくれていた、テーブルの上には花瓶に花が添えられている、理恵ちゃんが買ったのだろうか、種類はわからないがお母さんの知り合いの結婚式で見たような気がする。
「あ、おはようエリちゃん!いつも朝ごはん作ってくれてありがとう!今日は私が用意するからゆっくりしてて!」
「ありがとう、でも手伝ってほしいことがあったら言ってね?」
「うん!」
いつもは私の方が早く起きるのでついでに二人分の朝食を作っていたのだが気にしていたのだろうか。
「二人で家事の分担とかした方がいいのかな……」
そうつぶやくとそれを聞いていた理恵ちゃんが急いで否定してくる。
「ううん!今日から家事は私に任せて!ダンジョン探索でほとんど役に立ってない分こういうことは私がやるよ!」
「え?そんなことないと思うけど……」
「え~?でも中級下位のボスでもエリちゃん一人に任せちゃったし……とにかく私がそうしたいの!お願い!」
「わ、分かったよ……」
本当は理恵ちゃんの分の御飯を作ったりそのほかの家事をするのも、ちゃんと理恵ちゃんと生活しているという実感があって楽しかったのだが、どこか必死な彼女の様子に私は彼女の意思を尊重することにした。
理恵ちゃんが用意したご飯を一緒に食べながら今日の予定を話し合う。
「今日はどうしよっか?中級中位に行く?」
「その前に報告書を書いて提出しなきゃ…そうだ、理恵ちゃんが家事をやってくれるなら私が報告書を書くよ」
「本当!?私報告書とかの文章書くの苦手だから助かるよ~!じゃあお願いしてもいい?」
「うん、もちろん」
「じゃあ、その間私はちょっと受けたい座学が何個かあるから少し学園に行ってくる!」
そうして食べ終わった食器を片付けて各々やることへ向かう。
「………………………」
カチカチと時計の針が進む音を聞きながら報告書を書き進める、2日で終わったことに加えて特に苦戦らしい苦戦もなかったのでそこまで難しくはない。
「……………よし、こんなものかな?」
書き終えた報告書の最終確認を終えた私はそう言って時計を見る、午後2時を回るところだったので今からなら先生に提出しても問題ないだろうと外出の準備をして家を出た。
学園に着いた私は五十嵐先生のもとへ向かい、報告書を提出する。
「はい、提出ありがとうございます、………………………内容の方も問題ないですね、さすがです」
「ありがとうございます」
「次のダンジョン探索はどうしますか?学園で所有しているのは中級上位までなので鷹見さんには物足りないかもしれませんが……上級に挑みたい場合は学外活動の申請をしてくださいね」
「いえ、普通に中級中位に挑もうと思っていますけど……先生も冗談を言うんですね」
「さすがです、鷹見さんはダンジョンの危険をよくわかっているようですね」
「は、はぁ」
特に問題なく提出することが出来た私はどこに行くでもなく廊下をただ歩く。
正直この第一学園に入学してからそこまで日が経っているわけではない、それに自分が固有持ちでさらにダンジョン探索をメインに活動しているため五十嵐先生ともそこまで交流があるわけではないが……それでも今しがたあった先生との会話には違和感を覚えた。
「(まるで高校までの人たちのような………)」
気のせいだ、そう自分の頭が否定しようとするが私の心には当時の寂しさがこびりついている、その汚れがじわじわと広がって私に寂しさを思い出させようとしてきた。
結局、ここに来れば何か変わるというのは私の想像でしかないのだ、固有能力があって、他の人よりステータスが高くて、バフが常にかかっているせいで初級どころか中級でも敵を簡単に倒してしまう。
そんな私を見ればほかの探索者は、教員はどう思うだろうか、きっとこう思う、あの子は天才だ、恵まれている、あの子の能力があれば自分ももっと上に行ける、と。
それに五十嵐先生は私の固有能力をほとんど把握している、どれだけ規格外なのか、どれだけ有用なのか、そして教員ではあるがまだ現役の探索者、私の能力は喉から手が出るほど欲しいだろう、だから持ち上げる。
「(………やめよう、こんな考え方……………帰ろう………)」
気になる座学も一通り受け終わっていた私はそれ以上学校にいる必要もないため帰路に就く、廊下の曲がり角に差し掛かるときに聞きなれた声が耳に入った。
「それでね~!エリちゃんがかっこよく敵を倒してくれて!」
「え~いいな~、鷹見さんとパーティー組めるなんて、もう成功したも同然じゃん!うらやまし~!私も鷹見さんと探索したいな~!」
「ダメダメ!エリちゃんの固有能力はその人をどう思ってるかで変わるんだから!あからさまにすり寄ったら逆効果だよ!私みたいにまず友達にならないと!」
耳を疑った、どう聞いても会話している声の一人は理恵ちゃんだ、嬉しそうに私の能力を他人に話している、確かに無理に隠すことはないとは言ったけど………こんな、自分から広めるようなこと……
「ほんとエリちゃん様様だよ~エリちゃんさえいれば私の夢もすぐ叶っちゃうね!あ~楽しみだな~攻略したダンジョンに私が名前を付けるの!」
私は思わず走り出した、とにかく家に、とにかく早く、家に着くとトイレに駆け込み胃の中の物をひたすら吐き出す。
「う……げぇ…おぇぇ………」
理恵ちゃんのあの話し方、内容、そして一瞬見てしまったあの表情、すべてがあの頃さんざん見聞きしたそれと全く同じものだった、私の能力だけを欲して目的のために利用する、だが彼女のそれには罪の意識も罪悪感もない。
「(初めて会った時に感じたあのまっすぐな気持ちは何だったの……今まで私をだましてたの……友達だと思っていたのは私だけ?私はただの道具でしかないの?)…う…ぇぇぇぇ!」
すでに胃の中には何もなく、ただ声と少量の胃酸が出てくるだけ、それでも吐き気は止まらずに落ち着くまでかなり時間がかかった、そして私は部屋に戻り頭の中を整理するのでいっぱいいっぱいになってしまった。
何もない机を前に座りながら、今までにあった理恵ちゃんとの思い出を頭の中で流している、彼女に裏切られてなお私は彼女に依存している現状に乾いた笑いと涙がこみあげてくる。
「ふふふ、私ってホント滑稽だね、勝手に期待して、裏切られた悲劇の少女みたいな気持ちになってるなんて………………のど渇いた………」
私は机の上に置いてあるペットボトルに手を伸ばすとキャップを開けて中身をあおる、そこで違和感を覚えた。
「あれ……こんなの買ったっけ……ていうか……さっきまでこんなのあったっけ」
そう考えると手の中にあった飲み物は姿を消し、机の上にはまた何もなくなる。
「…………これって…もしかして夢?」
明晰夢を見たときなんかによくこんなことが起こる、すべてが自分の思うように動いて、内容をコントロールしているような……
「じゃあ、今までのは全部夢ってこと……?現実では理恵ちゃんはちゃんと私の友達なの……?」
すると一気に安堵感が沸き上がってきて、今度は別の意味で笑いと涙がこみあげてくる。
「グス、よかった……よかったよぉ……」
ひとしきり泣いて安心したら理恵ちゃんの顔が見たくなってきた、現実では何時かわからないがとにかく目を覚ましたい、ここにいたくない。
しかしいくら待っても目が覚める気配がない、現実でどれだけ時間がたっているかはわからないがこの世界ではすでに午後10時、すでに理恵ちゃん(仮)も戻ってきて寝ている。
「普通の明晰夢じゃないってこと?どうしよう……」
とりあえず寝る……前にどれくらい自由に状況を変化させられるか確認しよう。
「とりあえず朝にしてみようかな、今は朝今は朝………」
すると窓の外に日が差してくる。
「時間は結構変えれるんだね、とりあえず色々試しながら1日過ごしてみよう」
その後、1日過ごして分かったことは、変化させることが出来るものとできないものがあるということだった。
「会う人は全員私が一番嫌いな性格になるみたい……そしてそれを変えることもできない……精神攻撃…かな?実際会う人と話すだけでメンタルがゴリゴリ削れていく……」
これは予想だけど今私がいる場所はダンジョンなのではないのだろうか、正直中級下位から帰ってきて寝てからの記憶がないが、そういう攻撃なのであれば納得だ。
「う~ん、どうすれば目が覚めるんだろう、えーっと、精神攻撃に関する授業ではなんて言ってたっけ………そうだ、確か精神攻撃で見る幻覚や夢の中には必ず核となる人や物があるって言ってた、それを壊せば…!」
と言ってもそれが何なのかわからなければ意味がない、怪しいものと言えば………理恵ちゃん、私が攻撃する可能性が限りなく低くて攻撃した際にも精神に影響がある。
「………偽物でも理恵ちゃんは攻撃したくないな~………うん、絶対にヤダ、他に怪しいものがないか確認してからにしよう」
何か怪しいものはないかと見回すと現実とは違うことがよくわかる、いつも使っている本棚も私が覚えていない本はタイトルも内容も読めないしよく読んでいる本でもタイトル以外は結構曖昧な内容になっている。
そこでふと気が付いた。
「なんで今までほとんど忘れてたあの花がテーブルの上にあったんだろう……まさかあれが核?あんなテキトーにおいてあるの?」
確認のためにリビングへ降りる、朝の時のようにその花はテーブルの上に置いてある、ひとまず花の種類でも変えてみようとバラをイメージする、変わらない、次は観葉植物にしてみようとアロエベラをイメージする、花瓶が植木鉢になったが花は変わらない…………
「……………えい」
火炎魔法で花を攻撃する、するとすぐに世界が揺らぎ意識が浮上した。
目が覚めるがまだ意識がはっきりとせず視界もぼやけている、耳が遠くにあるようにうまく音が拾えない。
「うう……ん」
「―――し―!ー!―――――てよ!」ガン!ガン!ガン!ガン!
かすかに理恵ちゃんの声がする、何か焦っているような、怒っているようなそんな声だ、私を心配しているのだろうか。
「か―――!はや―し―――!」ガン!ガン!ガン!ガン!
「う、早く起きないと………!」
頭を振り無理やり意識を戻す、するとぼやけた視界がはっきりとしてきてピントが合ってくる、そして見えた光景は人型の魔物に理恵ちゃんが必死に剣を振り下ろしている姿だった。
次回理恵視点




