12.中級下位②
「……う……ふあ……もう朝……?」
朝日がカーテンの隙間から差し込んでくる、目を覚ました私は体を起こそうとする……が、うまく起き上がらない、体が重い、寝ぼけた頭で布団をはがし自分の体を見てみると、後ろから自分の胴体に手が回ってきていた。
「んん………ん?……こ、これ……もしかして今理恵ちゃんに抱き着かれて…」
頭が状況を理解すると同時、眠気がどこかへ行き今度は混乱が押し寄せてくる。
「り、理恵ちゃん、起きて……朝だよ…は、離して……」
「ん~、ん!」
「あっ!なんでさらに強く抱きしめるの…!早く起きて」
強く体を押し付けられたことにより背中に幸せが広がる、思えば昨日の夜からずっと抱きしめられていた気がする、と現実から目をそらし記憶の中へ逃げた。
「ん~……うう……朝…?」
「理恵ちゃん起きた?は、早く手を離して……」
「エリちゃん………おはよ……あ、ごめん……抱き枕にしちゃってた……………」
「あ……」
手が離されほっとすればいいのか残念に思えばいいのか、そんなくだらないことを考えながら着替えを済ませてダンジョン探索の準備を整える。
家を出るころには理恵ちゃんも起きていたようで私に謝ってきた。
「ごめんね…抱き枕にしちゃって……寝ぼけて抱き着いたみたい……嫌だったよね……」
「う、ううん、そんなことないよ、ちょっとびっくりしただけ」
「そっか…ならよかった!」
二人でダンジョンへ向かう道中、歩く先にいたパーティーの一人がこちらに気が付き話しかけてきた。
「あれ?小鳥遊さんに鷹見さん、これからダンジョン探索?」
話しかけてきたのはクラスメイトの…………誰だったか、確か苗字は村田だったのは覚えているが名前が出てこない。
「村田さんでしたよね?どうかしましたか?」
「あ、村田君かぁ、名前覚えてなかった……」
横から小声で何か聞こえるがそれに反応する前に村田君が声を上げた。
「な!名前覚えてくれてたの!?誰も僕の名前覚えてなかったのに!!」
「名字だけ………」
「名字だけでも十分だよ!!固有能力のせいで誰からも覚えてもらえなかったんだ!」
「そ、そうなんですか」
「それよりも大変だったね、小鳥遊さんダンジョンに取り残されたんだって?生き残れたのは例のバフのおかげなのかな……いいな~!僕いまだにダンジョン探索怖くって、よかったら誰にかけてもらったのか教えてくれない?」
「あはは~、ごめんね、それは言えないんだ~」
「そっか………でも、教えられるようになったらいつでもいいから教えてね!」
「約束はできないかな、ごめんね、それじゃあダンジョンに向かうから…」
そのまま私たちは後ろから聞こえる「いつか教えてね~」と言う声を無視して歩き続けた。
ダンジョンの中へ入り最短ルートで奥へ進み、30分ほどかけて昨日探索したところまで着く、私はダンジョンを探索する前に理恵ちゃんに声を掛けた。
「固有能力のこと秘密にしてくれてありがとう、でも無理に隠すことないよ?、どうせ理恵ちゃん以外にバフはかからないし…それにあいつ私がバフをかけてるって多分気が付いてるよ」
「え?」
「バフのこと話す時私の反応をちらちら確認してたから…まあ、パーティー組んじゃってるから大体の人が気が付いてると思うけどね」
「う~ん」と考えて理恵ちゃんが私に問いかける。
「じゃあなんでエリちゃんに直接言わないの?私に聞くより確実だと思うけど……」
「怖いんだと思う、初級とはいえスタンピードを生き残れる生徒は1年生にはいないって朝日奈先生も言ってたし…噂にも尾ひれがついているみたいだしね……」
「……もしかして先輩のこと?」
「うん、謝罪をもらった後から先輩性格がガラッと変わったって、もともと我が強くて仲間ともよく口論してたみたいだけど人が変わったように優しくなったんだって、それで私が先輩に何かしたって噂が広がってるみたい」
「……大丈夫?辛くない?」
「他人からどう思われようが私は気にならないよ、あの人たちが見てるのは私の力だけだから……理恵ちゃんが私自身を見てくれてるから大丈夫」
「そっか、エリちゃんがそう言うなら信じる!じゃあ、探索始めよっか!」
「うん」
昨日と同じようにマップを埋めながら沼地を進んでいく、比較的歩きやすい道を歩いてはいるがどうしても足並みは遅くなってしまう。
「理恵ちゃん、前からリザードマン2体向かってきてる」
「わかった!任せて!」
「シュルルル!」
「よっと!」
理恵ちゃんはリザードマンが振り下ろした腕を盾で防ぐとそのまま横にそらしてリザードマンの体制を崩し頭をはねる、そのまま同じような流れでもう一体もスムーズに倒してしまった。
「理恵ちゃんの戦い方、すごくきれいだよね……」
「ぇえ!?そ、そうかなぁ、なんか照れる……ほとんど朝日奈先生に教わった通りに動いてるだけだから……」
「そう考えると、なんであの人前衛の動きを教えられるんだろう……自分でも教えられないって言ってなかった?」
「えーっとね、なんか魔法を使って前衛の最適な動きをシミュレート?してるんだって」
「そんなこと出来る魔法あるんだ………」
「でも魔法で剣を作るからMPも削れるし筋肉痛がひどいからめったに使わないって言ってた」
「そっか…先生が使ってるってことはいつか必要になるのかな」
「大丈夫!前衛は私に任せて!」
そんな話をしつつダンジョンを進む、順調にマップが埋まっていきセーフゾーンも見つけることが出来た。
「ふー、これで遅くても明日には踏破できそうだね!」
「そうだね、まあ今日中に踏破できればそれが一番だけど、セーフゾーンがあるとはいえダンジョンで寝るのはちょっと……」
「キャンプ道具は持ってきてるけど、さすがに家のベッドにはかなわないからね、慣れてないと寝るのに苦労するって人もいるみたいだし」
「………やっぱり頑張って今日中に終わらせよう」
「なら頑張らないとね!マップも埋まってきたからそろそろボスエリアも見つかると思うし!」
Dタブのマップにセーフゾーンがわかりやすいようにしるしをつけ、探索を再開する、途中、宝箱を見つけつつ進んでいくと物々しい扉が見えてくる。
「あ、ボスエリアだ」
「ほんとだ!じゃあ早速倒しちゃおっか!」
「私も攻撃してもいいの?」
「もちろん!ボスと戦うのに手を抜くのも危険だと思うし、今日はエリちゃんに索敵ばっかりさせちゃったから!」
「確かに手を抜いて大けがしても嫌だからね……じゃあ、本気で挑まないと…!」
「あ、あはは、これはすぐに終わっちゃうかな?」
結局ボスは最初の一撃で倒してしまった、内容も特筆する点はなく私が全属性の合成魔法を放って終わり、その後はボスエリアに現れたポータルを使ってダンジョンの入り口に戻ってきた。
「やっぱり、中級だと上位属性はちょっと強すぎるね……」
「……ごめん」
「いや!責めてるわけではないんだよ!?それに今日の探索で私もスキルレベルが上がりきったから上位スキルとれるんだ!これで一緒に戦えると思うよ!」
「そ、そっか……あれ?でもそれって、結局中級だと簡単すぎて私たちの相手にならないんじゃ………」
「まあ、そうかもな」
「「朝日奈先生(!)」」
「二人とも探索お疲れ、確かに中級だともうお前たちには簡単すぎるかもしれないが、いきなり中級上位に行ったりはするなよ?大丈夫、それなりに苦戦はするはずさ」
「どうしてですか?」
「ああ、中級中位から耐性を持ってるやつが多くなるんだ、属性に対してじゃなく、魔法や物理攻撃に対してな、まあ、今のお前らなら耐性を無視して倒すこともできるだろうが……今後のためにも弱点を見極めて攻撃するようにしろ、おっと、お前らも疲れてるだろ、声かけて悪かったな」
その後、ドロップ品などを査定して売却したのち、家に帰ることにした。
「うわ~、お金が今までにないくらいたまってるよ……」
「そ、そうだね……ボスドロップだけでこんなになるなんて」
中級下位のボスは武装した大きいリザードマンと言った感じだったのだが、倒した際にリザードマンの大剣をドロップした、その査定額が1本で6千万円だったのだ、山分けして現在二人とも3千万円以上の貯蓄がある。
「まあ、上位アイテムとか武器とかを買ったら簡単になくなるお金だけど、私たち先輩にもらった装備があるからね~、しばらく買わなくてもいいし……」
「この指輪……理恵ちゃんを疑うわけじゃないけど、ほんとに数億もするの…?ちょっとつけてるの怖いんだけど……」
「でも、たぶんつけてないともっと高価なもの渡してくるよ?」
「………そうだね」
その後、一緒にご飯を食べて、各々お風呂に入ったり、ゲームをしたり、報告書を書いたりして過ごした。
「(今日は一緒に寝ようって言われなかったな……まあ、毎日一緒に寝ることもないか)」
一人で寝るのはなぜか久しぶりのような気がして寂しいと感じてしまったが、緊張がない分熟睡できた気がする。




