1.逃げ出した先
私はいったい何をしているのだろうか。
「こんなところに閉じ込めてごめんね?でも理恵ちゃんが悪いんだよ、いつまでもあんな奴らと関わるから、あいつらとの縁を断ち切ってあげるためにやるの…わかってくれるよね…?」
大好きな理恵ちゃんにこんなことをして、これではあいつらと何が違うのだろう、でも、彼女が少しでも傷つく可能性があるのなら、私はその可能性を無くしたい。
たとえ私が嫌われたとしても。
そんな私に理恵ちゃんは大きく目を開き声を上げた。
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20年以上前、この世に初めてダンジョンが現れた。
今は授業や、ネットにアップされている当時のニュースでしか確認することが出来ないけれどそれから1年間の日本は大混乱だったらしい。
最初は危険だからと立ち入りが禁止されるだけだったが、調査が進むにつれ、内部に危険な生物が生息していることが判明し、その後魔物と呼ばれるようになった。
調査中、研究員が魔物に襲われ重傷を負ったことから危険だとして軍隊がダンジョンに突入したが何もできずに戻り、通常の重火器などではダンジョン内の魔物に効果がないことが判明。
しかし何もしないわけにもいかず何度も行われるダンジョンへの軍隊の投入の中で軍人の一人がダンジョン内の生物を倒すところからダンジョン攻略の歴史は始まった。
当時その生物を倒せるかは、攻撃しないとわからなかったが現在はダンジョンから回収されたダンジョンタブレット、通称Dタブと呼ばれるタブレット端末のようなアイテムで【ステータス】を見ることが出来ればダンジョンに入ることの許可とDタブが支給、さらにダンジョン攻略に挑むために設立された学校へ入学を許可される。
昔は差別的な意見も多かったようだが現在ダンジョン攻略は仕事として広く認知されている、命に係わる場合もあるため否定する人も一定数いるが、ダンジョン内のアイテムは高く売れるため人気は比較的高い。
私はダンジョン自体にはあまり興味がないけれど、ステータスがあることが判明したし、お金がたくさん手に入ると聞いて現在、桜東迷宮攻略第一学園への入学手続きを行っている。それに何より…
「恵理、本当によかったの?ダンジョン探索だなんて……危険な仕事よ?大丈夫?」
「うん、どうしても今の現状から抜け出したいの、だから私の経験が通用しないダンジョン探索が一番だと思った、ごめん、お母さん……」
「ならこれだけは約束しなさい、絶対に生きて帰ってくること」
「うん、約束する、絶対にお母さんを一人にしない」
お母さんは微笑みを浮かべ、私の頭を撫でた。
するとポロポロと涙が出てくる。
「うぅ…グス……ごめんなさいお母さん……」
「あらら、泣き虫は治ったかと思っていたのだけど……いつでも帰ってきなさい、恵理」
その後書類を提出し、学園について説明を受けた後、私は高校卒業後に
探索者を目指すことになった。
『ようやくこの現状から逃げることが出来る』高校最後の年、にステータスの確認をしてからずっとこの思いに私の心は支配されている。
なぜ逃げたいのか、成績優秀スポーツ万能容姿端麗、周りの人はそう囃し立てる、天才なんて言う人もいた、みんなが私と友達になりたがり、生徒会、学級委員長、あらゆる責任を私に押し付ける。
だけど私に友達はいない、私の周りにいるのは私に付随する権力や能力のおこぼれを待っているだけのただの他人。
私に恋愛感情を抱いている人はいない、私と付き合いたいと宣っている彼らはただ私というステータスが欲しいだけ。
私に頼れる人はいない、一人を除いて大人でさえ私に責任を押し付け、おこぼれを待つことしかできない人ばかり、唯一頼れるお母さんもお父さんが死んでから常に疲れた表情だ、これ以上苦労を掛けたくない。
今までの環境では私を利用するために能力でしか私を見ない、私、鷹見恵理自身を見ていない人しか集まらない。
だからこれはチャンスだと思った、統計的に探索者になるのは優秀な人が多いらしい、学園にいる人も然り、だから第一学園に入学すれば、私だけが周りに持ち上げられることはないと考えた。
それに、ダンジョンでは危険が伴うため、ステータスを持っている生徒の入学から卒業までに掛かる費用を免除してくれている、学園生活内でのダンジョン探索時に入手したアイテムも自由にしていいらしいからアイテムを売って大金を得ればお母さんが心身をすり減らして仕事をする必要もなくなる。
だからこれは私のためだけじゃない、心の中でそう自分に言い訳をし続けて最後の1年を終え、私は約束された成功の道から逃げた。
「学園で生活するにあたって必要なことは――――」
現在私を含めた新入生は教室で説明を受けていた、内容は入学前に説明されたものがほとんどだったが、ほかにダンジョン探索の際の注意点と学科について説明を受けた。
・探索時に死亡しても責任はとれないため誓約書にサインをすること
・1年目で慣れないうちはダンジョン探索時に引率の先生か先輩が付くため指示をしっかりと聞くこと
・ここ第一学園では探索科と生産科に分かれており、いつでも変えることが出来るが、生産科はステータスを持っていない人も入れるため学費は免除されないこと
他にも学園では寮生活になることや校内の施設について説明されたが生産科の店があること以外に気になる事は特に思いつかない。
「では説明は以上です、これからDタブを支給するので各自ステータスを確認の後、固有能力がある者は私と一緒に来てください、説明と登録を行います、それ以外の方は帰ってもいいですし学内を探検することも許可しますがほかの邪魔はしないように…個人的にはこれから一緒に探索することになるかもしれない人たちと交流を深めることをお勧めします」
1年前の確認の際はそんなものなかったから関係ないなと思いながら机に配られたDタブを手に取り画面に指を置く、すると置いた場所から光が広がり、アプリの一覧のような画面が開かれる。
「皆さん開きましたね、1年前にやったと思いますが、人型のシルエットのアイコンを押すとステータスを見ることが出来ます」
言われた通りのアイコンをタップすると画面にステータスが現れた。
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Lv.1
HP 120/120
MP 30/30
STR 50(50)(×1.0)
DEX 80(80)(×1.0)
VIT 50(50)(×1.0)
AGI 80(80)(×1.0)
INT 100(100)(×1.0)
MND 100(100)(×1.0)
SP 200
固有能力:【■■■】
説明:【パッシブ】自身が向ける感情とその強さで自身とその相手の能力を変動させる
スキル:
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「え…なんで私に固有能力が……」
驚いていると周りも私と同様にうろたえている様子の人がいる。
「ああ、言っていませんでしたね、1年前に受けていただいたときは使いまわしのDタブなんです、最初に使った人しか固有能力は確認できないんですよ」
そう言うことは早く言ってほしい、そう思っていると先生が扉の方へ歩いていく。
「では対象者は私についてきてください、固有能力について教えます」
気が向いたら更新します…