死ぬ前に恋人を作って楽しい思い出を沢山残します!
イラストは武 頼庵(藤谷 K介)様が製作されたテーマ用(1)を使用させてもらいました。
「愛川さん、残念ながら貴女の命はもう1年もありません」
「私、頑張って運動も毎日して体力つけましたよ。他にも嫌いな野菜を頑張って取ったり、女性ホルモンに近いと言われている大豆を毎日多めに取ったりもしたのに?」
「確かにその努力のお陰で、普通の人に比べ物にならないほどの健康体ではありますが、この病は関係ないので」
「でも元々体が弱いからとずっと仰っていたではないですか!」
「確かに愛川さんは今とは想像がつかないほど体が弱かったです。もしあのままだと他の病気と合併してもっと早く亡くなっていた可能性もありましたからね」
「どうにかして伸ばせないのですか?」
「画期的な治療法や特効薬が出来ない限りほぼ無理ですね」
「じゃあこれからの短い時間をどう過ごせと?」
「それは出来るだけ後悔のないように過ごしてくださいとしか言いようがありません」
私、愛川遥香は幼い時から20歳も生きられないと言われ続けてきた。そしてそれは19年の時を経ても変わることがなく、とうとうもう1年も余命がないと宣言されてしまったのだ。勿論先程の会話のように健康的な体になるように努力してきたし、薬も色々試してきた。それでもやはり運命には抗うことが出来なかったようだ。
今までこの病を治すためにと学校は中学まででしか通わず、それから治すことだけを考えて生活してきたというのに、何だか今までの人生が虚しくなってしまった。今振り返るとこれと言った思い出がないのだ。かと言って今から学校に行って思いでを作ることは出来ないし、これ以上治すために頑張るのも虚しくなるだけ。昔なら父がそれなりに大きな企業の社長だったため、お金もあったものの、今では企業は縮小してしまい、自由に使わせてくれるお金もないため、海外旅行なども出来そうにない。
今から出来そうなものは一体何か考えてみて、私は1つの案が出てきた。
「恋愛ならいつでも出来る!」
突発的に叫んでみたけど、中々良い案な気がする。まあ病院の中で叫んでしまったから、ジロッと怖い目でみんなが私を睨んでいるけど、気にしないでおこう。
そもそも、みんな中々恋が出来ないと言うけれど、相手を選ばなければ誰でも付き合えるのではないかと思う。誰かさんが世界には35億の男がいるから、振られたぐらいでメソメソするなって言っていたし。
片っ端から告っていけば行けるのでは?
そう思ったら行動は早くすべし!
私は早速病院を出て、話し掛けられそうな男を探す。しかし、病院前だから人が多いし、多くの人が付き添いの人がいるし、話し掛けられる気配がない。このままでは埒が明かなさそうと、病院周りから離れた。
病院の周りから離れると一気に人通りが少なくなる。そのためか中々人が通らないし、通っても女性や誰かと連れ添っている男性などと一対一で話せる人と巡り合えない。このまま巡り逢えなかったらどうしようと不安に思った時、1人の男性が横切った。これはチャンスとつかさず声を掛ける。
「あの、今お暇ですか?」
「ええまあ……って愛川先輩?」
彼は質問にハイと答えてくれたものの、大変驚いているようだった。どうやら私のことを知っているようである。私を知っている人なんて限られているため、誰だろうとしっかりと顔を見ると見覚えのある顔だった。
「もしかして栗原くん?」
誰かと思ったら、彼は昔私に唯一告白してくれた男子である。あの時は今でも鮮明に覚えている。
◆◆◆◆◆
あのシチュエーションは桜が満開だった頃。私が彼の隣を横切った時、彼から私に声を掛けてきた。
「少しお話良いですか?」
彼は凄く緊張していたみたいで、とても早口だった。私はその時別に用事はなく、ただ帰るだけのつもりだったため大丈夫と答えて話を聞くことにした。
「あの…………僕、愛川先輩のことが好きです。付き合ってください」
「……………………私も栗原くんのことは好きなのだけど、付き合うことは出来なくて。ごめんなさい」
なんと彼は頬だけでなく、耳まで真っ赤にして告白してくれたのだ。私はこの時一瞬何事が起こったか理解出来なかったけど、少し時間を置いて、彼は私に好意を伝えてくれたのだと分かった。本当に嬉しかったし、何なら勢いでそのまま付き合ってくださいとも言おうとさえしたけど、今は恋にうつつを抜かす時ではないと、告白を断ったのだ。この時胸が傷んだが、仕方ないと言い聞かせて帰って行った。それでも帰ったあとでもそれは嬉しくてずっと心の中に残っていた。
◆◆◆◆◆
今の彼は顔も体も声も全て大人びており、一般的に見て間違いなくイケメンイケボであると思われる。それに彼とは同じ名門私立小学校を出ているため、彼の実家が私のところのように没落してなければ金持ちであろう。それに元々優しい人だし、何もかもパーフェクト。今思えば何故彼が私に告白してくれたのか不思議である。こんな人に今付き合ってくださいというのか。普通に考えれば勝算は低いけど……でも告白してくれた彼ならワンチャンあるかもしれない。
こうなったら勢いでするしかないわ!
「栗原くん、私は昔から患っている病が治らなくて、もうそんなに生きれる時間が残されていないの。だから今付き合っている人を探していて。良ければ私と付き合ってくれない?」
言った後に後悔してしまった。これではあまりにも率直過ぎるし、喧嘩売っていると思われてもおかしくない。もう穴があったら穴に入りたい気分だ。
「それって僕以外でも良いってことですか?」
案の定彼は声を低くして尖った口調で質問してきた。表情は笑顔だけど、目は睨まれている気がする。こんな彼は見たことがなかったので、少し恐怖を感じるものの、あんな言い方したら流石に優しい彼でも怒るのは当然だと身にしみながら、取り敢えず言葉を繕うことにする。
「勿論栗原くんと付き合いたいよ。でも元々こっちが振ってしまったし、栗原くんに好きな人や彼女がいたら付き合えないじゃない。だから無理な場合は他に付き合ってもらえる人を探そうと思っていて………」
「そうだったのですね。僕は彼女いませんし、好きな人は愛川先輩なので大丈夫です。だから付き合いましょう」
さっきの言葉で何が良かったのかはよく分からないけど、何とか彼と付き合うことが出来るみたい。表情もいつも知っている優しい顔に戻って安心する。何か上手く行き過ぎているような気がするけど、これが最後のチャンスだと神様がきっと与えてくれたのだろう。彼の好きは後輩として好きという意味で、恋愛として好きという感情はないため、少し不安だけれど、きっと彼となら恋愛が出来るはず。
しっかりと楽しもう!
◇◇◇◇◇
「栗原くん、恋愛ってまず何するものなの?」
付き合う相手が出来たものの、そもそも恋愛とは何をしたら良いか分からないので、早速彼に尋ねてみる。彼はニコッと笑って私の質問に答えた。
「まずは呼び方を変えたいです。遥香って呼びたいです。あ、でも流石に呼び捨ては傲慢か」
「全然問題無いよ。私も蓮って呼ぶね」
「はいお願いします」
「蓮、あとさ敬語止めない? 恋人なんだから立場は同等でしょ」
「ああ、はい………じゃなくてうん」
「よろしくね、蓮」
「よろしく、遥香」
どうやら呼び方が恋愛への第一歩という感じらしいけど、何だか特別な感じになった気がする。
下の名前で呼び合うの何か良い!
それに普通に会話する方が絶対楽しいよね。
◇◇◇◇◇
「蓮、恋人になったらデートするらしいけど、一体何をするものなの?」
「するらしいじゃなくて、普通はデートするよ」
「例えば?」
「俺もデートなんてしたことないからよく分からないけど………」
「え? デートしたことないの?」
「そりゃ付き合ったの遥香が初めてだし」
嘘ーーーーーー!
絶対付き合ったことがあると思ってた。
彼なら誰とでも付き合えるだろうに。
でも、初めての相手が私というのは嬉しいけど、何だが罪悪感が……。
まあ事情は話しているから、そこはあまり気にしないようにしよう。
「まあ基本何でもありとは聞くけどな。一緒にいたらその時点でデートという人もいるみたいだし」
こうやって聞くとデートって意外と難しくないのかな?
けっこうこういうので悩むって聞くけど、2人で行動したら何でもデートってことなんだ。
「じゃあ今流行りの店とか行きたいかな」
こうなったら流れに乗っ取って一緒にワイワイした方が楽しそうだなと思い提案してみた。正直デートが出来るなら何処でも良いけどね。
「俺もよく分からないから、調べてみるね」
こういうのって、病気や健康的な体作り以外では、何も検索したことがないから、どういう風に検索したら良いか分からないもの。本当助かる!
うんうん唸っている彼を見てると可愛らしくて癒やされるな。
「こんな店とかどう? 人気らしいよ」
「わ〜あ! 素敵な店ね。とてもオシャレ。ここ行ってみたいな」
「じゃあ今すぐ行こう」
私が行きたいって言ったら、めっちゃ嬉しそうに飛び跳ねてる。私の手をさっと取って行くなんて、やってることは格好良いのにね。でも、こういうのがデートって感じなのかも。楽しみ!
暫くして彼と手を繋ぎながら、目的地の店に向かうと悲しい事実を知ってしまった。
「ああ、今日定休日なんだね」
「ごめん。そこまで見てなかった」
何だか彼はショボンとして悲しそうだった。確かに残念だけどそこまで落ち込まなくても良いのに。
「じゃあ貸し切って開けてもらうか」
「貸し切り? いいいい、そんなことしなくていいよ。ほら人の雰囲気とかも楽しみたいし、普通に開いている店に行こうよ」
「え? 行かなくて良いの?」
「別にわざわざここじゃなくても、良い店はいっぱいあるだろうし、こうやって楽しむのもありだと思うの」
「………分かった」
まさか定休日だから貸し切って開けてもらおうという発想になるとは思わなかったな。まあ、私のクラスメイトにも、何かしろ貸し切ってもらう子もいたけど。彼も本来はそういう人なのかな。でも、それって本当に大企業の令嬢や令息だけで、昔の私のところくらいの金持ちだとそんなこと出来ない。
彼は一体どんだけの金持ちなのだろう?
取り敢えずそこまでしてもらうわけにはいかないから、全力で否定したらなんとかなったから良かったけど。
今はこれからのデートを楽しもうっと。
◇◇◇◇◇
あれから様々なところに行ってデートして楽しんだ。
ハグや手繋ぎなどの軽いスキンシップもしている。手繋ぎに関しては彼から積極的にしてくれるけど、ハグは基本私から。というか、ハグをすると彼はいつも顔を赤く染めるんだけど、どうしてだろう。嫌がっているみたいではないから平気でするけどね。こういうのって、友人や家族では出来ないからする度に新鮮な気持ちになるな。
まあ、時々彼が物騒なことをいうのでヒヤヒヤもしているけどね。
例えば平気で海外旅行行くとか、ここからここにある商品全部買おうかとか、元々金持ちであった私でも理解出来ない行動をしようとしてくる。
パスポートなんてもうとっくに期限切れてるし、あとそんな無駄遣いなんてしないってば。
ただ本当に私の好みのところに連れて行ってくれるし、彼は物知りで話していても全然飽きない。もう最高の彼氏だと思う。本当に私より年下なの? 幸せ過ぎて今にも余命が途切れるのではないかと思うほどだ。
それに私はそもそも学校に行っていないし、彼も学校には行っていないらしいので、結構な頻度で彼と一緒にいれて、それも嬉しい。
正直これが一般的な恋愛なのかどうかはよく分からない。でも、間違いなく今までよりは充実しているのは間違いない。
でも、こうして楽しんでいる間にも余命はだんだんと縮まっており、相変わらずその余命が伸びることもなかった。やはり分かっていてももうすぐ亡くなるのだと思うと、どうしても恐怖を拭うことは出来なかった。
◇◇◇◇◇
あと余命まで3ヶ月ほどと言われている頃。いつもなら何も言ってこない医者が朝に、電話を掛けてきて、出来るだけ早く病院に来いと言ったのだ。私は驚いたものの、すぐに行きますと伝えて家を出る。医者は何か言っていたようだが、私には聞こえなかった。
病院に着いて早く通してと言うものの、今は違う患者を見ているので、通せないと30分ほど待たされることになった。そしてようやく診療室へと通される。
「愛川さん、確かに出来るだけ早くとは言いましたが、今すぐ来いという意味ではありませんよ」
「今までこんなことなかったじゃないですか。ということは何かあったのではないかと思いまして。良いことでも悪いことでも早く聞いておくに越したことはありませんから」
医者はため息をついて肩をすくめる。どうやら私の行動に対してやれやれと感じているらしい。
「取り敢えず先週来てもらったのに、今回来てもらったのは新しい特効薬が出来たことをお伝えするためです」
「特効薬!」
なんと夢にまで見ていた特効薬がこんな時に出来るとは大変驚きである。
もしかして私ついているのでは?
「栗原製薬が開発したものらしいのですが、ただあまり検証はされていないらしく、正直これで助かるかどうか保証はありません。それでも飲みますか? 正直、今助かる可能性があるとすればこの特効薬を飲む以外ないかとは思われます」
やはりそんな上手い話はないか。これで治るという保証は何処にもないんだ。でも、どっちみち治らないなら、試す他ないでしょう。
「勿論服薬させていただきます」
◇◇◇◇◇
それから私は1ヶ月間その特効薬を服薬することになった。体感的には何の変わりはないが、悪くなっている気配もない。これは期待出来るかもと期待した。
両親はこの薬でより苦しむことになるかもしれないと不安に思っていたけど、彼は絶対治ると私を優しく励ましてくれた。本当によく出来た彼氏だと思う。
そして、1ヶ月後に病院で検査をすると、嘘のように治っていると医者に言われ、医者自身も驚いていた。
「私、まだ生きれますか?」
「そもそも現在は体は健康的ですし、このまま維持してくれば問題はないかと思われます」
私は嬉しくて嬉しくて、暫くまともに息が出来なかった。
◇◇◇◇◇
「私ね、病気が治ったの」
「本当に良かった」
この時初めて彼からハグをしてくれた。そのことが嬉しくて喜びそうになるけど、少し彼とは距離を置き、また一呼吸を置いて、重い口を開く。
「蓮、もともとこの交際は私の余命があまりないからというところから始まったじゃない。だからこのまま交際を続けても良いのかなと思って……」
「遥香はもう僕と一緒にいたくはないの? 僕は遥香とずっと一緒にいたい」
私の我儘に付き合ってここまでしてくれたので、本来ならもう別れるべきなのかなと思っていた。でも、彼とは別れたくなくて、彼の意見を聞こうと尋ねることにした。すると、彼は前半の言葉はかなり低い声で言ったけど、後半の声はとても優しい声で私を抱き寄せてくれた。
「本当に良いの?」
「当たり前だ」
その彼の言葉に一気に安堵し、嬉しくて涙が溢れ出た。
◇◇◇◇◇
「それにしても遥香の病が治ってホッとした。僕が開発した薬が間に合って良かった〜」
「え? 薬?」
「うん、あれは1年ほど前に作り終えた薬なんだけど、検証してくれた人も少なくてさ。やっぱり不安が拭えなかったんだよね」
ちょっと待って!
彼今とんでもないこと言ってない?
僕が作った薬? 検証例が少ない?
確かにこの病は珍しくから、あまり患っている人が少ないけど。医者も検証例がほとんどないって言ってたけど。
こんなに細かく語れるなんて………。
「蓮はもしかして栗原製薬の研究員なの?」
「うん、そうだけど」
「でも蓮って今18歳だよね?」
「そうだけど」
「何で大学も出ていない貴方が研究に携われるの?」
「俺はもう大学は16歳の時に海外で卒業してるよ」
確かに海外では優秀だと飛び級で進学出来ると聞いたことがある。でも、それはとても優秀な場合であって中々いないって聞くけど。もしかしなくても、彼めちゃくちゃ頭良いよね。だからこんな若くても栗原製薬に勤められ……栗原?
「もしかして、蓮って栗原製薬会社の社長令息?」
「そうだけど。もしかして知らなかったの?」
まじか。それなら今までの行動に全て説明つくわ。だって、元財閥で今でも世界的に影響を与えている栗原製薬会社の令息だもの。それぐらい出来て当然な気もする。
「遥香は僕の実家の家柄に惹かれて付き合ってたわけじゃないってこと?」
「まあ、そりゃ知らなかったからね」
「じゃあ僕自身が気になって付き合いを申し込んでくれたの」
「いや……それはちょっと違う」
「じゃあ何で付き合いを申し込んだの?」
「最初に言ったけど、もう余命があまりないから付き合っている人を探してるって」
「じゃあ付き合ってくれる人だったら誰でも良かったってわけ?」
「まあ極論言えばそうなるのかな」
「でも、俺だから申し込んだって言ったじゃん」
あ! そう言えばそんな風に言ったわ。
あの時、単に蓮の態度が怖くて、あんな風に言ったんだった。それはそれとしても、あんな風に言ったらそりゃ怒るよね。ここは何とか繕わないと。
「あれは言葉の綾で……。でも蓮じゃなかったらここまで付き合えてなかったし、ここまで楽しいとは思わなかったよ。本当付き合った人が蓮で良かった。蓮、大好きだよ」
「それ本当?」
「本当の本当! 嘘ついていると思ったら指切って良いよ」
「切れるわけないだろ」
「それぐらい本気ってこと」
確かに最初はたまたま彼と付き合っただけだけど、彼といて楽しいと思ったのは本当。好きになったのも本当だもん。それだけは本当に信じて欲しかった。
「本当に嬉しい。俺も遥香のこと大好きだ」
ストレートに彼も好きだ返してくれた。今までにないほどの屈託のない笑顔だった。心底幸せそうな顔をしている。
その顔を見て、私はふと疑問に思ってしまった。
「蓮はどうして私を好きになってくれたの?」
「遥香は覚えていないかもしれないけど……」
彼は過去の話を長い間、細かく説明し始めた。彼の話を簡潔に纏めると、どうやら昔彼が多くの女子に追われて困っている時に、私が中に入って追い払った姿に恋に落ちたらしく、それから前向きに活動している私に惚れたとのこと。
確かに彼は完璧だからモテて当然だと思う。それに実家があれだと尚更よね。まあ相手が嫌がっているのに追いかけるのは駄目だけど。でも気持ちは分からなくもない。
正直私はそんなことがあったなというぐらいで、ハッキリとは覚えてはいないのだけど。あれだけ熱く語られたらそれを言うことが出来ない。実はその熱さ加減に若干だけどひいている。
そもそも私が病気と健康作り以外は全て無断着だったから、他の子が何処の令嬢・令息なんて知ろうとしなかったものね。だから私は彼のことも知らなかったんだわ。
「蓮、本当に助けてくれてありがとう。感謝しても感謝しきれない。本当に命の恩人!」
「命の恩人なんて照れるけど、命の恩人っていうなら俺の願い聞いて」
「ええ、勿論よ」
本当に私がこうやって一切暗い顔をせずにいられるのは、彼が私を支えてくれて、命を助けてくれたお陰。私の出来ることなら何なりと。
「ずっと僕の傍にいてください。彼氏としても夫としても」
「え? さり気なくプロポーズした?」
「立派なプロポーズだろ。突発的だから、指輪は用意してないけどさ」
こんな唐突なプロポーズってある?
それもこんな物語みたいな結末。私今夢見てる?
信じられなくて頬をつねってみる。
「痛い」
「そりゃつねったら痛いのは当たり前だ」
普通に痛かった。それに普通に突っ込まれてしまった。
でもやはり不安が拭えないため、1つずつ確認しておく。
「私、中卒で頭良くないけど大丈夫?」
「遥香は別に頭が悪いわけではないだろ。学びたいなら今からでも学べば良いだけだ。何の問題もない」
「実家は縮小してしまって、お金もあまりないし、影響力もあまりないのだけど」
「遥香のお父さんの会社は確かに縮小したけど、信頼のある会社じゃんか。それに俺は次男で、会社を継ぐことはないから安心して」
「でも私よりも良い人といくらでも結婚出来ると思うのだけど」
「遥香は俺の初恋相手だし、それに遥香は僕にとってはこれ以上にないほど素敵な人だから」
思いつく限り言ってみたけど、どうやらどれも問題ないらしい。それに最後あんなこと言うなんて……もう反則でしょう。完敗だわ。
「蓮、これから末永くよろしくね」
「遥香、こちらこそ末永くよろしく」
正直上手く丸め込まれた気もしなくないけど、彼となら今後もずっと一緒に楽しい人生を送れるのは間違いないよね。
(おまけ)
「何で蓮はあのタイミングでプロポーズしたの?」
「そりゃあ、もしそのまま別れて、変な男のところに行ったら危ないだろ」
「こんなに良い男がいるのになんで別れなきゃいけないの? 蓮から別れを告げるならともかく」
「それは遥香が誰でも良かったって言うからだろ。あの時俺だったから良かったものの、変な奴だったらどうするつもりだったんだ!」
「それはそれで運命なのかなって思っていた。最後の最後までついてなかったなって」
「今まで辛い思いをしてきたのに、そんな最後まで辛い人生を送られてたまるかよ」
「幸せな人生を送れるのは本当に蓮のお陰だね」
「これからもっと幸せにするから覚悟しとけよ」
「分かった。ありがとう」